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『朝がくるとむなしくなる』感想:空気って映像に映せるんだ、私の知らなかった色んな朝。

朝はいつもあの嫌なアラーム音から始まる。
何度も何度も聴いてきた、iPhoneのアラーム初期設定。あの音を聴くだけで、映画館であっても身体が勝手に反応してしまう。起きなくては!重たい身体を引きずって。

俺は夜更かししてばかりだし朝が弱いから、休日は昼過ぎに起きることが多い。
これまで色んな夜を知って、色んな夜を越えてきたけれど、こんなにも色んな朝があるということを、この映画は教えてくれた。

カーテンレールが壊れた最悪の朝。泥酔して帰ってきて上着のまま起きる恥ずかしい朝。カーテンレールを直して、友達が遊びにくるのを待つ朝。同じ場所、同じ部屋なのにまったく違う朝がそこには在った。
映画ってすごい!空気を映すことができるのだ。

コンビニバイト懐かしい!
自分もコンビニバイトをやってた大学生の時のことを思い出して、胸がギュッとなった。
ところで「置かれた場所で咲きなさい」はやっぱりかなり嫌な格言かも。俺はコンビニバイトを辞めて、すすきののビアホールにバイト変えてから、沢山の出会いと出来事があって、明らかに人生が変わった感じがあった。自分に空気が合う場所って絶対あるし、探したほうがいい!置かれた場所で咲く必要なんて絶対ないよ。

この映画に関していうと、ブラック企業を辞めてコンビニでバイトを始めたことが、希の転機だったように思う。
会社を辞めてバイトしてることを希は後ろめたく思ってそうだけど、そんなことないよ!って拳を握りしめながら観ていた。
誰にどこでどんな転機が来るかなんてわからない。希が偉いのは仕事を辞めてから、ちゃんとバイトをしようとする決心をしたことだ。バイト応募するのも結構めんどいし、しんどいし。加奈子にも会えたし!
書きながら気付いたけど、唐田えりかさんの放つリアルな空気感がすごくて、この作品はフィクションだけど、実在の人かのように応援して観ちゃうね、希を。素敵な女優さんだ!

おでんのシーンすごい。
嫌な空気も、やっちゃった!の空気も、その後の穏やかな空気もぜんぶ映ってた。一生忘れられないシーンかも。

ブラック企業のエピソードにも思うところがあった。
俺が新卒入社で入った会社の忘れられない夜。仕事を教えてくれる先輩と、初めて一緒に帰った夜。
俺は22時の退社、先輩は46時の退社だった。
あの頃の自分の生活を思い出す。朝起きられないのが怖くて、スーツのまま寝たりもしていた。
あの頃の俺の部屋に比べると、希の部屋はめちゃくちゃ整っていて、なんて素敵な人なんだ…と、部屋の在り方から彼女の魅力を推し量ってしまった。えらすぎる。
あと俺もいちばん忙しい時は毎日辛ラーメンを食べてた。味濃いものって生きてるって感じする。

俺は悲しいこともつらいこともめちゃくちゃ誰かに話して解消していくタイプなので、加奈子の部屋での希の告白は、俺にとってはなんてことのないことだけど、彼女にとってはとても大きなことだったのだろうなという気持ちで観ていた。すごくえらい。自分を大事にするってまずそういうところからだ、えらいぞ希。

お母さんも良い人でよかった。希の暮らしに幸あれ。
なんかああいう「あ、言ってよかった。」的な「あ、そっか。」みたいな気付きの描写がとても丁寧な作品だと思った。
人生を好転させるちょっとした「あ、そっか。」の空気が、観ている人たちの気持ちもちょっとだけ前向きにしてくれる映画だと思った。
あとやっぱり空気って映せるんだね映像に。映画ってすごいな〜。

あと唐田えりかさんの横顔は宝石。なんだあの美しい線。めっちゃ絵が締まる〜って思って観てた。
良い映画だったなあ。

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