2024年問題~物流業界の課題とは~

 2024年問題は、日本の物流業界に迫る大きな転換点である。この問題は、労働基準法に基づくドライバーの労働時間規制の厳格化に端を発し、2024年4月から新たな規制が施行される。これにより、物流業界はドライバーの労働時間の短縮とそれに伴う配送能力の低下に直面することになる。この変化は、物流事業者、荷主企業、消費者に広範な影響を及ぼすと予測されている。
 本稿は、2024年問題をはじめとする物流業界の課題について解像度を高めることで、今後の物流業界で必要になる改革を考えるための土台としたい。


物流の2024年問題とは

2024年4月以降、働き方改革関連法により、様々な問題が懸念される

  1. ドライバーの拘束時間の減少

    • ドライバーの労働時間は1日最大16時間→15時間、継続休憩時間は最低8時間→11時間を基本とした下限9時間と制限される

    • 事業運営に必要な工数確保が困難になり、今までどおりの運送ができなくなる、もしくは法を順守した経営を行うことが困難になることが予想される

    • 2030年には、全国の約34%の貨物が運べなくなり、東北や四国などの地方部に関しては40%近くもの貨物が運べなくなるとされる

  2. 売上・利益の減少

    • 1日に運ぶことのできる荷物の絶対量が少なくなり、事業者だけでなく、荷主を含むステークホルダー全体の利益の減少につながる -

  3. ドライバーの収入減少

    • 残業時間が規制されることで、その分ドライバーの収入が減少する

    • 収入減収による他業界への人材流出により、物流業界の人材不足が加速する

ステークホルダーへの影響について

 ECの拡大などに伴い、荷主や消費者などのステークホルダーが大きな影響を受けることが予想される。

荷主

  1. 配送コストの増加

    • 2024年問題によって売上・利益が減少すると想定される物流事業者が、まずは運賃を上昇し、損失を押さえようとする意思が働くことは想像がたやすい

    • 運賃の上昇により、荷主が提供する商品価格の上昇や利益率の低下に繋がる可能性が考えられる

  2. 供給チェーンの遅延

    • 労働時間の制限により、配送のタイムラインが遅れる可能性が考えられる

    • 配送の遅延により、製造工程を持つ事業者はオペレーションの変更を余儀なくされる可能性や、賞味期限等、時間に敏感な商品を扱う荷主にとって大きな問題となり得る

  3. サプライチェーンの再構築

    • コスト増加や配送の遅延等に対応するために、より効率的な物流パートナーの選定が必要になる場合がある

消費者

  1. 商品価格の高騰

    • 配送コストの増加により、エンドユーザーである消費者が、商品価格の上昇などのコスト負担のしわ寄せを受ける可能性が考えられる

  2. サービス品質の変化

    • 配送遅延や時間指定による配達の受領タイミングへの影響

物流の2024年問題をたらしめる現状と課題

 労働時間規制によって、物流業界が2024年問題と言われるまで大きな影響を受けると考えられる背景には、大きく3つの課題があると考える。

1. 物流の危機的状況に対する荷主企業や消費者の理解の醸成が不十分

  • 荷主企業や消費者が配送に対し迅速性や利便性を求める一方で、物流コストの透明性が低いことや、配送プロセスの複雑さなどを背景に、労働力不足やコスト上昇に対する認識が不十分であると考えられる

  • 荷主企業の理解が不十分な場合、課題に対する適応が間に合わず、物流事業者への低価格要求による適正運賃の確保が困難になることや、消費者へのサービス品質の低下を招く可能性が高まることが考えられる

  • 消費者の理解が不十分な場合、荷受け時間の柔軟性が向上せず、配送効率の向上が非常に困難である

2. 物流プロセスにおける課題

  • 荷主からの短納期や小口頻繁な配送要求によって、物流事業者にとって非効率的なルート計画や過剰なリソース配分を強いられる

  • 異なる荷主ごとに異なる梱包基準や荷扱い方法が要求され、標準化された効率的な処理が困難になる

  • 予測不能な注文や緊急配送要求などによる外部要因が、物流事業者のリソース計画を複雑化させる

  • 複数の中継地点を経由するようなサプライチェーンをはじめ、情報の非対称性から配送遅延や需給の不均衡が起こりやすい

3. 物流標準化・効率化(省力化・省エネ化・脱炭素化)における課題

  • 貨物追跡システムや輸送管理システム、在庫管理システムなど、様々なシステムが利用される中、システム間での互換性がない場合、情報のリアルタイム性が欠落や需要予測が困難になり、効率性の低下や顧客満足度の低下につながる

  • RPAやAIを活用した物流プロセスの自動化の余地がまだ大きく、積み込み・荷卸し作業の非効率性による配送遅延や人件費の高騰、労働力不足が常態化している

  • 二酸化炭素排出の削減ニーズが高まる中、電気自動車などの代替燃料の採用やインフラ整備が進んでいない

 以上のように、「物流の2024年問題」は、物流業界における労働環境の改善や効率化、技術革新など、様々な側面からのアプローチが求められている複雑な課題である。
また、多くのステークホルダーの協力なしでは課題解決は困難であり、それぞれが共通認識を持った上で、いくつもの対応策を講じる必要がある。

 次の記事では、上記の課題解決に対して求められる社会全体での物流改革について触れていく。


参考文献:

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