【エッセイ】極貧試考#4 【SS】
前回
【ショートショート】米粒ループ
極貧生活とは。
ある日そう考えた。
そして自宅にある食料を減らさない努力を始めた。
3度のメシを2度に。
案外苦しくもない。
2度を1度に。
まだいける。
3日に1度になった頃。
私の心にギスギスが生まれて。
私は飢えた。
私はいつもとぼとぼと足元を見て過ごすようになった。
リアルに苦しいシューゲイザーである。
足元だけを見ていてそこに米粒を見つければ拾って喰う。
極貧を試行する事によって飢えたからだ。
点々と落ちている米粒を拾ううちにやがてなぜか米粒が1円玉になるのだが、脳が回っていないのでそれを拾得物として警察に届けるということを思いつかない。ひたすらに1円玉を拾って進む。やがてそれは5円になり10円になり100円になるのだが、脳が回っていないのでその状況が不可解不自然で有ることに気が付かない。
やがてそれは1万円札になり、いつもどおりそれを拾い上げようと満面の笑みで手を伸ばすと激痛が走る。テカテカに磨き上げた牛革靴の底が伸ばした手の甲を踏み、ぐりぐりと潰すからだ。
激痛に耐えながら靴底から、脚を覆うシワのないズボン、金ピカのベルト、真っ白なワイシャツに薄紫のネクタイと仕立ての良いスーツにまで目線を上げて行くと、見上げた先にはニッコリと笑う紳士の顔があって「拾ったお金は私のものなので返してくださいよ」という。拾ったお金は全部、米を買い、炊き、塩を振って喰ってしまい、すでに一部は糞になって道端にポツポツと排泄してしまった。仕方なく糞を拾い集めて紳士に差し出すと顎を革靴の先端で蹴り上げられ、顎が砕けるのだが、脳が回っていないので「顎が砕けてしまってはメシを喰うことができない、どうしよう」という的が外れた心配をしながら、更に分の悪い労働にあくせくしして身体的精神的心理的さらに時間的な豊かさもどんどんと奪われていく。
そこにまた米粒が落ちている。脳が回らないのでそれを口に入れ、顎が砕けて咀嚼が難しいので丸呑みにする。
やがて消化系を発端として健康状態が悪化するのだが、返済が遅れれば例の紳士に次は鼻を潰される可能性があるのでそのまま労働を続ける。米粒はやがて1円となり5円となり10円となり100円となり1000円となりついに10000円となって拾い上げようとする私の前に以前とは別の紳士が笑い、靴底で踏まれ鼻が潰れた、結局。
鼻は潰れた。
極貧生活とは。
なぜあの日そう考えたのだろういや、考えたまでは良かった。
なぜそれを始めてしまったのだろうか。
食費が浮けば裕福になると思っていたしかし、その効果は極めて限定的であり、飢えによる悪影響はそんなちっぽけな効果を遥かに凌駕して私の人生を蝕んでしまった。
元々0だった預貯金はマイナスに転じた。
飢えて米粒を拾ったばっかりに。
あ、また米粒が落ちてる。ラッキィ。
(了)
(to be continued...)