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【官能小説】二愚 #3


前回

セックスマシーン

 叔母は俺のおふくろの姉だが、容姿は全く似ていなかった。
 俺は小さな頃からおふくろに連れられて叔母のアパートに行った。おふくろは親父のことやら仕事のことやらの愚痴を叔母に聴かせ、叔母は微笑んでそれを聴きながら深夜、時には朝までふたりで酒を飲んでいた。

 叔母の部屋には叔父さんもいて、俺はよく遊んでもらった。
 ただ、俺が中学に入学する前までに叔父さんはコロコロと入れ替わった。
 そのことについて俺の親は何も言わなかったし、その頃は事情がよく分からなかったのでそのまま受け入れていたのだが、今思えば叔母は結婚していたわけではなく、そうしてその時々で気の合う男と暮らしながら自由に生きる、そういうタイプの女だったんだろう。

 俺が中学に入学してすぐ、その頃の叔父さんが死んだ。俺の知る限り、叔母はそれ以来叔父さんを作らなくなった。

”叔父さんが亡くなって寂しいだろうから”

 というもっともらしい理由を盾に、おふくろが叔母のアパートに通う頻度は増して行った。
 俺も当然のように連れて行かれていたのだが、子供もおらず経済的にも不自由していない叔母はその度に近所の寿司屋、和食屋、中華屋に出前を頼んでくれて食欲旺盛な俺は普段食えないものが食えるし、特に断る理由もなかったので言われるままに付いていった。

 叔母は音楽が好きで、たいていいつでもステレオで洋楽のレコードを鳴らしていたのだが、なにしろ賑やかな音楽で最初のうちはもう、うるさいという印象しかなかった。しかし慢性的にそういう環境にいると慣れてしまうもので次第に平気になり、1年程の間に、なんとなくジャケットを眺めるようにまでなっていた。
 まだそれらの音楽にはさほど興味は持てないままに。

 レコードジャケットの殆どには黒人が写っていて、そのどれもが誇らしげにマッチョなポーズを決めているように見えた。
 思春期のガキなんてのは殆どが自分に自信なんかないくせに虚勢を張って、訳知り顔をしたがるもので、俺は誇らしげな黒人の自信に満ちた表情に、内心はやや気を悪くしながらも平気な素振りで叔母の所有するレコードを片っ端からチェックしていた。

 極めてサルに近い顔をしたおっさんがマイクを握りしめて分厚い唇を突き出している。
”SEX MACHINE”
と、ポップな書体が踊っていた。
 英語の知識なんか無くたって思春期のガキはなぜかこの文字だけは読める。
”SEX”
 仮に英語が読めなかったとしても、帯にはカタカナで”セックスマシーン”と書いてある。
 当時の俺はその文字に言いようのない生々しさを感じ、しばらくそのジャケットを凝視していた。
 ふと視線を上げると、叔母がじっと俺を見つめている。
 酔って大声で喋り倒すおふくろに頷き、頬杖をついた指先で自分の髪を弄びながらトロンとした目で俺を見つめる叔母は、瞬きもしなかった。
 やがて叔母はゆっくりと立ち上がると、俺の手からレコードを取り上げてかわりに茶色の液体が波々と注がれたグラスを差し出した。
 この酔っぱらい姉妹の飲み会に幼い頃から付き合わされてきて、何度かビールや日本酒を舐めたことはあったし、酒は匂いで判断できた。
 それはウィスキーだった。
 叔母は盤を抜きジャケットだけ返してよこした。
 叔母が針を落とすと、やけに興奮したような喧しい外人の声が聴こえてきて。

(つづく?知らん)

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