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京都の不思議を想える本📕


綿矢りささんの
「手のひらの京(みやこ)」
は、祇園祭の頃になるとふと読みたくなる本です。
先ず、
書き出しが素敵で
うなってしまいます。 


京都の良いところ、美しいところ、
不思議なところが次々と
出てきて
どんどん読み進めます。

 京都市にずっと住んでいて、京都が最高だと思っている両親から生まれた三姉妹のお話です。
30歳を過ぎた図書館司書の長女 綾香。
一流企業に勤める次女 羽依。
そして、大学院生の三女、凜。
三人三様、それぞれが
それぞれの悩みを抱えて、日々を生きている。
読む者は、
彼女達に寄り添いながら、いろいろ考えていく。

いえ、今の私は61歳なので、過去を懐かしみながら、娘たちを応援しながら読む感じでしょうか。

20代、30代の方なら
登場人物を
自分に置き換えたりして楽しく読めそうです。
四季折々の京都が
それはそれは魅力的に描かれて、
祇園祭の宵山は、さもありなん。地元の人のすごし方も想像できて楽しいです。夜の鴨川の場面では、私も かつて感じた恐怖が書かれていました。
 真冬の夜の嵐山の描写にはドキドキしました。自分にも桂川の"どうどうという音"が聞こえてきて、顔にはフワふわと雪が舞い降りてくるような感覚を得ました。
夜遅くの嵐山は見たことがないので、いつか
嵐山の旅館に泊まってみたいと思わせてくれます。関西に住んでいるとなかなか実現しませんが、早朝の散歩も素敵でしょうね。

 ほんとうに、
何回読んでも新鮮で
さすがに文章が上手くて、読後は、
毎回違う余韻に浸ることができる本だと私は思います。


 そんな私も、
僅か2年ですが京都市内の短大の寮に住んでいたことがあります。
田舎から
なんとかして脱出するためには、
寮があり、学費と寮費が他の女子大より安く、
規則の厳しい所を選んで両親に頼みこみました。
 学生時代は とにかく忙しく、目まぐるしい日々でした。休みの日にはなるべく
大好きな寺社仏閣を回りました。 たくさんの観光名所を見学してみて
「やっぱり京都ってすごいな。美しいだけじゃ無い。奥が深くて怖くて
不思議だな」と感じました。
 私は、高校二年の修学旅行で、奈良京都を見学して以来すっかり京都が好きになり、
短い時期でもいいから
どうしても京都に住んでみたかったのです。
住む と言っても寮ですから、長期休暇の時は帰省しなければならなくて、お盆もお正月も
観てみたい行事がたくさんあるのにとても残念でした。
特にお盆の
五山の送り火を自分の目で観てみたかった。
その時の私の夢は、
この本を読めば叶えられるのです。

 京都に生まれ育った奥沢家の三女、大学院生の
凜が、大学の友人と
自宅の二階で
大文字さんを見るシーンです。
凜は、大学院の後は研究を続けるのではなく、京都ではないところでの就職を考えているのです。
皆が憧れる京を出るなんて、、。
このあたりを読むと、、、

なんだか自分が 凜の友人の未来ちゃんになって、
京都人の凜ちゃんちにお邪魔して、、と勝手に妄想して
楽しい、嬉しい世界に入り込めます。
綿矢りささん、ほんとにありがとうございます。

しかしその大文字さんの夜、
凜は悪夢をみるのです。

その夜、凜は幼いころ繰り返し見た悪夢をひさしぶり見た。近所の山から得体のしれない妖怪が降りてくるその夢は、幼い凜を追いかけ続け、お決まりのパターンなのに、いつも新鮮に恐ろしい。

綿矢りさ「手のひらの京」より

そんな凜ちゃんが
東京の会社に就職したいと両親に話すと、
案の定猛烈に反対される。
そして父親は
「凜は京都の歴史を背負ってゆくのに疲れたんちゃうか。この家あたりの土地も、長い年月のなかでほんまに色々あった場所やし。お前は姉ちゃんたちより敏感なところがあったからなぁ、子供のころから。確かに京都は、よく言えば守られてるし、悪く言えば囲まれてる土地や」と言いました。それから
‘地縛霊'の話も出てきます。
凜の気持ちは、
「好きやからこそ一旦離れたいっていうのかな、盆地の中から抜けだして、外側から京都を眺めて改めて良さに気づきたいねん」
でした。
これはそのまま、
かつての綿矢りささんの気持ちなのでしょうか。


 
 私が短大を卒業してから早
40年以上。
今では
時々 、早朝に夫さんと
京散歩をしています。
何回訪れても、
京都には不思議な魅力がありますね。

 あの頃の京都は、もちろん学生は多かったけれど、
今のような大混雑は少なくて、観光名所でも美しいばかりではない、古くて薄暗くて
怖い感じの所もあったように憶います。
 海外からの観光客も
欧米の方が多くて
余計に街がオシャレに見えたものです。



 綿矢りささんの
「手のひらの京」を読むと、懐かしく 切なく
なるのです。
もし自分も京都で生まれていたら、こんな感じなのかな?意外と
しんどいこと多いのかもな。
 「そうそう、京都人は
こんなふうに芯が強くて
いけず するよな」と苦笑いしたり。
でも、いけずには必ず理由があって、遠回し
遠回し
じわじわくるのです。
私なんてあの頃、短大のクラスで
イケズされても気が付かなくて、寮友から教えてもらい
初めて認識したこともありました。
今思えば全てが懐かしく、幸せな時間でした。


 きっと
どこに住んでいても
人生は厳しい。
誰にでもドラマが、幸せが、
苦しみも悩みもあり、
決して
思い通りにはいかない。

だからこそ、時々、
こんな素敵な本を読んで
ひとときでも
ふんわり、はんなりした世界に入り込みたい。

そこには
右手と
左手の手のひらに
包み込める 京が
あるのです。

不思議な 京都の魅力を
堪能してください。


#読書感想文
#手のひらの京
#綿矢りさ


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