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雪の道

こんな雪の写真を見てると
思い出す事がある


その日は初めての幼稚園
お母さんに手を引かれて歩いた

わたしの住む町には
あまり雪は降らない

積もるのは何年かに一度
あるかないかの出来事

その日は珍しく朝から雪景色
道路も家も走る車さえ
白い雪に包まれていた

わたしの記憶はそこから
始まっているので
それが一番最初の思い出

家を出てから幼稚園まで
500メートルくらいの道のり

幼児には少し遠い
長い長い道を歩く

お母さんはわたしの手を取り
足元に気を付けてねと
まだ掠れのない綺麗な若い声

外は寒かった筈だ
けれどそれは覚えていない
雪を見るのが初めてだったから
お母さんが手を繋いでくれたから
わたしの内側はあたたかい
てのひらはもっとあたたかい

雪を踏みしめて
一歩づつゆっくり歩く
新しい雪の上に
サクッとわたしの黄色い長靴が
埋もれて沈む
それが楽しくて
白くて綺麗な雪の上を歩いた
少し溶けてみぞれのようになっているところでは
ザクッと音がして
ザラっと横に滑る
転びそうになるわたしを
何度もお母さんの手が支えた

そのまま何メートルも歩く
雪は降り止んでいた様だ
わたしは何か歌でも口ずさんでいたのか
それとも初めて行く幼稚園の事で
緊張していたのか
胸ときめかせていたのか
お母さんとの会話を思い出せない
ただ時々微笑む横顔だけ

暫く歩いたところで
わたしは振り向いて見たっけ

長く続いた道の上に延々と
わたしとお母さんの歩いて来た足跡がふたつ並んで
真っ白な雪の上にずっと続いてる
不思議な紋様が織りなす
モノクロの世界

覚束ない足取りのわたしの足跡
それに寄り添うお母さんの足跡
やわらかな曲線を描く

その光景をわたしは忘れられない


その母は今はもういない
その足跡を見る事も出来ない
だけど
私のこころのまなこには
いつも雪の日に振り向いた
私と母の足跡が
くっきりと浮かび上がる

私の街ではあまり雪は降らない
私にまだ娘はいない
この先もしも
我が子の手を引き
雪の積もった道を歩く日が
やって来るとしたなら
私はあの日の想い出を
そこに重ね合わせることだろう

その日が来る確率はかなり低いけれど

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