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あどけない空

智恵子は東京に空が無いといふ、
ほんとの空が見たいといふ。
私は驚いて空を見る。
桜若葉の間に在るのは、
切つても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。
智恵子は遠くを見ながら言ふ。
阿多多羅山の山の上に
毎日出てゐる青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。

「あどけない話」高村光太郎 詩集『智恵子抄』より


「智恵子は東京に空が無いといふ、ほんとの空が見たいといふ。」

東京暮らしもはや30年あまり。故郷での年月をも優に超えての今ですが、不意にこのフレーズを思い出すことがあります。

智恵子さんは、高村光太郎の妻で、福島県の出身だったそうです。結婚し、東京で暮らしていた二人でしたが、精神を病み床にいる彼女にとって、都会の空気は合わなかったのでしょう。その満たされぬ妻の様子をつづったのが、この詩のようです。

いまの都会の空なんて、当時以上に小さく狭い。ですから当時でさえ、純真に広い空を希求した智恵子さんの息苦しさは、痛切に伝わる思いです。

智恵子さんと自分の今を、比べるなんて無粋だけれど、でも田舎育ちの東京暮らしの無いものねだりは終わらずです。山が見たい、森に入りたい、雪に触れたい。あどけない空への思いはいつだって、切っても切れないものですね。今日もいちりんあなたにどうぞ。

キンカン 花言葉「思い出」



Text
フラワーギフト専門店 「Hanaimo」 店主 鈴木咲子
都内生花店に8年在籍ののち渡独。2000年に南ドイツ、アルザス地区の生花店での勤務を経て帰国後、2002年 通販サイトHanaimo開業。
一般社団法人日本礼儀作法マナー協会 講師資格
https://www.hanaimo.com/


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