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バベルの塔とシュメルの地理観
*今回の学び
・“エテメンアンキ”(天と地の基礎の家)が
“天と地”と称するのにはシュメルの地理観が影響している。
・天と地=宇宙をも含めた全世界
・人々が元々ひとつの言語で話していたとする考えの源流
・神を崇める為にジッグラトを飾り、庭を設け、祭りを頻繁に行った
・次第に天と地の捉え方が変化し、神と人間の捉え方も変化した
・人間が神格化されるようになり、バベルの塔のような状況が構築されていく
*バベルの塔とは
・『旧約聖書』創世記第11章
・人間が天に届く塔を建て始めた事に神が立腹し、共通言語をなくした物語。
・具体的なモデルは、
新バビロニア時代( 紀元前625-539年)に建設されていた
“エテメンアンキ”(天と地の基礎の家)
というジッグラトであったと考えられている。
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*ジッグラトとは
・シュメルの都市を特徴づける聖塔
・アッカド語ではジッグラト
シュメルではウニル
・ジッグラトは天に通じる階段
・神々に近づける場所
(ヘロドトスの”歴史”にも記載あり)
・本来の目的とは違うが、頂上で天体観測もされた。
構造
・1段の高さは上に行くと小さくなるようにして、より高く見えるようにした。
・“エテメニングル”は3層
高さ21m
基底部62.5×43m
・日干し煉瓦が中核
表面はアスファルトを挟み込んだ厚さ2.5mの焼成煉瓦
※シュメルには石材がなく、泥で煉瓦を作成
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* 斜めなジッグラト
ギルガメシュ叙事詩に見られる当時の地理観
「異なる言葉を話す国
シュブル(スバルトゥ)とハマジ、
高貴なるメをもつ大いなる国
シュメール、
誉れある国ウリ(=アッカド)、
豊かな草に憩うマルトゥの国。
それら全世界で、順々なる民はエンリル神にひとつのことばで語りかけた。」
それぞれ東西南北に位置している。
北:シュブル(スバルトゥ)
東:ハマジ
南:シュメールとウリ(=アッカド)
西マルトゥ
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シュメルでは地中海を上、ペルシア湾を下とみなす。
四隅は東西南北に合わせるようにするため、南北軸に比べて西に45度傾く。
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イナンナ女神を祀ったエアンナ神殿を始め、ウル、ウルク、ニップルにあるジックラトの中心軸は南北線よりも西に45度傾いて建てられた。
*天と地を讃えるためのジックラト
エンキ神殿讃歌の冒頭
ジックラト(=エウニル)を宇宙の根源だと讃える。
「エウニルよ、天地とともに成長し、天と地の基壇、エリドゥの大いなる聖堂よ」
*天と地
・宇宙や世界を「天と地」と表現
・宇宙は、混沌の中から、天と地が分かれ、天はアンの領域、地はエンリルの領域になる
「ギルガメシュとエンキドゥと冥界」では「アンが天を持ち去りしとき、エンリルが地を持ち去りしとき」と書き出している。
・地獄と天国の概念はない
・地獄のようなもの→地下世界
・天国のようなもの→天井の神々の世界
・地下世界は乾いたイメージ、
天は湿ったイメージ
* 変化する死生観
<初期の死生観>
・生と死が一体
・地下の世界に生命の源
・地上の人間界と生の循環をなしている
<初期世界の構造>
① 天の世界→アン神
② 地の世界→エンリル神
↓
<新バビロニア時代の世界の構造>
各3層構造に変化
天の層
① 天の上→アヌの位置
② 天の中→天の神々の位置
③ 天の下→星々の位置
地の層
① 人間の世界
② 深淵→エンキ神
③ 冥界→エレキシュガル女神
* * *
・明確に上下関係を示されるようになる
・階層性が強調される
→天と地、つまり神と人間の相反する世界の組み合わせの明確なイメージが“薄れる”結果になった。
⇒後のバベルの塔に繋がる思想
* 二分される人間界
人間界も分けられるようになる
①文明の中心地…「カラム」
豊穣が約束された平野。
②周辺地域…「クル」
・山ともいわれるような、荒れはてて、人間が容易に近づけない。
・冥界をさす場合あり。
死者世界のイメージ
・カラムのような都市を離れて、一歩原野を踏み出すと、悪霊におののき、深淵の神であるエンキ神に祈り、野蛮な悪魔払いの呪文を唱えた。
(深淵と冥界のはっきりした区切りが読み取れる。)
(ギルガメシュのフンババへの影響)
・クルの住人は人間・市民でない
=人間扱いしなくてもよい
→奴隷制の導入
* * *
しかし、「クル」には今までと相反する表現もある。
・地上世界全般は「クルクル」と表現
人間世界を統べるエンリル神
→「諸国の王」(lugal-kur-kur-ra)
イナンナ女神
→「諸国の女王」(nin-kur-kur-ra)
※なぜ文明世界中心の「カラム」ではなく「クル」の連呼なのかは2003年時点では判明していない。
本来、神からみれば、地上は全て「クル」であるはずだが、
神々の秩序を体現して出現したとされる「カラム」はシュメル人にとって、
神の恩恵を受けた特別な領域であったと想像出来る。
「カラム」の最重要の中心地にジックラトを建設した。
* 王の神格化
・「四方世界の王」=
文明社会の「カラム」と非文明社会の「クル」を支配しること
=人間世界を統治すること
・神の領域が構築されたカラムを意識
→神々の世界も意識
・自らを神々の遣いとして支配することを位置づけ、自らを神格化
バベルの塔で批判されることになる神を目指す人間の傲慢さ
* 自然と豊穣
西欧の近代化の開始→
自然は人間が支配するものだと考えることから始まった
一方、シュメルでは
自然と人間との対立ではなく、
「神」と人間の対立を重んじる。
神々が「豊穣」を約束する楽園的な場所
⇄神々が顧みない人間に害を与える荒ぶる場所
神々を祀るジックラトは豊穣を表現するために、壁画を描いたり彫刻などで飾り立てた。
また、庭園をつくることもシュメル以来の伝統になっていった。
庭園はkiri(キリ)と呼ばれ、日常性を超えた豊穣を象徴する場所。神々の祭りの場。
庭園の祭りでは、特にイナンナ女神が関係し、ウル暦の10月にはキリでイナンナ女神の祭儀が行われた。
「サルゴン伝説」では、園丁であるサルゴンをイナンナ女神が気に入り、王になる。
豊穣は秩序ある宇宙の運航によって保証される。その運行が円滑に行くように祭り(宴会)が重要視され、頻繁に行われた。
* * *