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月の満ち欠けとワイン。ビオディナミ農法その2

ビオディナミのワイン生産者訪問

 先日書いた記事のビオディナミ、その農法でワインの生産をおこなっているシャトーを訪れました。

 フランスに住んでいながら、わたしはあまりワインを飲まないので、まったく詳しくありません(日本酒のほうが好き...)。

 ですが、わが家のまわりはブドウ畑だらけで、当然あちこちに生産者がいるので、美味しいと思った地元のワインだけはときどき飲みます。

 訪れたのは、モンペリエから約35キロ北のヴァキエールという小さな村にある、シャトー・ド・ラスコー

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 ラスコーといっても、あの壁画とは関係ありません。 « Lascaux »とは、この地方オクシタニー(ラングドック)の言葉オック語で、石灰岩(石)という意味なのだそう。

 このあたり一帯、地中海沿岸独特のガリーグ(garrigue)と呼ばれる大地は、石灰質で白っぽい岩と土、低木が特徴的です。

 セヴェンヌ山脈を背景にし、ピック・サン・ルーという美しい山の近くに、シャトー・ド・ラスコーは、85ヘクタールという広大なブドウ畑を有しています。畑のまわりには、マツやナラ科、ヒースなどの林が広がり、タイムやローリエ、ローズマリーなどさまざまなハーブが自生しています。

 周辺の生態系全体の力を大切にするビオディナミでは、そういった豊かな自然の特徴がとくに出るのだそうです。

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(正面の山がピック・サン・ルー Pic Saint-Loup)

 今年3月に来たときは、まだブドウ畑も寒々としていました。

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 でもいまはこんなに青々とし、もうすぐ収穫の季節をむかえようとしています。

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 マリア様の足元にもワイン樽!

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12世紀の修道院で試飲 

 このシャトーの歴史は古く、16世紀半ばにはすでにブドウの木の栽培とワイン生産をおこなっていた記述が残っているそうです。

  2006年からビオ(有機)栽培をおこない、2018年にビオディナミの認証を取得しています。

 2か所にある貯蔵庫のひとつ、こちらは広く現代的な貯蔵庫。ワインの種類によって樽の素材が違います。

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 もう1か所は下の写真。12世紀の修道院だった建物で、狭い入り口から、入り組んだ細い通路を進み、少し階段を昇っていった奥。

 ときおり隣の教会の鐘の音だけが響く、しんとした、夏でもひんやりとした部屋のひとつで試飲をさせてもらえます。

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特徴的な気候

 ここは地中海からわずか20キロ。セヴェンヌ山脈の入り口でもあり標高150メートルに位置しています。

 そのため、地中海性気候で、日中は晴れて温暖でありながら朝晩は冷涼、ほかのエリアに比べて降水量も多い。そしていつも吹いている風が湿気を吹き飛ばしてくれます。

 このような気候がブドウの栽培にはよく、独特のさわやかな味わいになるのだそうです。

太古の時代のテロワール

 ジュラ紀、白亜紀、第四紀...と重なるこのあたりの深い地層のなかには、石灰岩が砕かれた堆積物や、粘土質の石灰石、石灰質の泥などが、それぞれの年代によって重なりあっています。

 そのため、このシャトーが所有する広大なブドウ畑のなかでも、場所によって土の年代と性質が違い、ワインの特徴も異なるとのこと。

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(それぞれの土と対応するワイン)

ブラックベリーの香りとチョコレートの味わいのワイン

 説明をうけたあと、ラインナップのなかから、試飲のためにロゼ1本、赤4本を選びました。最初にちゃんと説明してくれるので、わたしのようなシロウトでも、もちろん大丈夫です!

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 赤ワインのなかで印象的だったのは、最初に飲んだワインで、なにかの果物のような甘い香りがしたこと。なんだろうと思っていたら、「ブラックベリーのようでしょう?」といわれました。たしかに!そして、味ななんとチョコレートのようでもあります。一緒に来ていた夫とも意見が一致して、まずこのワインを買うことにしました。ちなみに酸化防止剤の亜硫酸も加えていません。

 また、暑い南仏ではロゼワインが人気で、太陽のもとで食す地元の料理にもよくあいます。ここのロゼはクセがなくて、香り高くまろやか、スイスイ飲めるので危険。前回来たときも購入したのですが、また二本購入。

 試飲中にシャトーの方が説明してくれたのは、こういう歴史の長い土地のワインは、土の性質が大きく味に影響する、それがほかの国の新しい土地のワインとは違うのだ、ということ。

 ちなみに試飲といっていますが、口にふくんだあと、小さなバケツにペッとできるので、飲んではいません。なので、車の運転も大丈夫(というか車でしかこられません)。

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知り、感じて、想像する

 生産者さんの話を聞いて、どんなふうに作られているのかを知り、その土地に立って感じながら、じっくり味わうと、さまざまな物語が見えてきます。

 ワインは生きているということ。その奥深さをあらためて実感し、だからこそこれだけ多くの人々が、昔からワイン作りに情熱をささげ、世界中にファンがたくさんいるんだとあらためて、いまさら...思いました。

 農地一帯の生態系をひとつの生命体としてとらえるビオディナミ。そしてその活力をたくさんもらって、できあがったワイン。あまりに自然の特徴が出るので、美味しくないときもあると聞きます。なにかの調子がよくなかったときなのでしょう。

 河瀨直美さんの映画「あん」のなかで、樹木希林さん演じる徳江さんの、

「あずきが見てきた、雨の日や晴れの日を、想像する」

 というセリフを、ふと思い出しました。このワインになったブドウたちは、この景色を見ながら、どんな日々をすごし、どんなふうに感じて育ったんだろう。

 そしてわが家の近くの畑で、いま収穫の季節を迎えようとしている今年のブドウたちのことも。庭にたくさんの実をつけたイチジクや、家庭菜園のトマト、ピーマン、買ってきた野菜も。

 耳をすませてみること、思いをはせることは、無限にありそうです。







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