父と母とときどき悪魔と
コペルニクス的転回が起きた。
今の私、もしかしたらあのときの父と同じじゃないかと。
年末年始になると必ず一度は聞かれる「帰省しないの?」トーク。
帰省が「安心安全な場所でゆっくりできるもの」であるならばきっとしていただろうけれど
「しんどい、理由がなければできないもの」と思っていたため、年末年始はひとり東京で過ごした。
おかげで、お正月を楽しもう企画を計画し、一人二役になってお雑煮を食べたり、元旦の太陽の気持ちになったりして気持ちよく過ごせた。
太陽曰く、「俺は毎日ここにいるのに、地球人は一年に一回しか注目してくれない。そのときだけありがたそうに拝んでくる。なんて自分勝手な人たちなんだろう。毎日感謝を表す土星人を少しは見習ったらどうだ。」
とぶつくさ言っている声が聞こえたので、私はアンミカのように「太陽ありがとう!」と毎日拝もうと心に誓った。土星人には負けない。
父とは昔いろいろ思うことはあったが今では良好な関係で(というか良好ではないと思い込んでいただけだったが)、メリークリスマス!の挨拶もあれば、誕生日おめでとう!の祝福もあり、もちろんあけましておめでとう!とLINEがくる。私とは22歳差で、友だちのようなノリだ。余談だが、車のナンバーを「ふなっしー:274」にするほど、ふなっしー好きである。
そんな父から「正月は帰省しないの?」と連絡が入った。
こんなこと言われたのははじめてだった。
現在父は奥さんと2人で住んでおり、そこは私が高校生まで暮らしていた場所だ。
親が離婚してから私の親権は母が持ち、母の実家で暮らすことになった。高校までの思い出の品(学習机やアルバムなど)は全て母方にある。戸籍も母側に移った。
離婚理由は母から言われたものを信じているだけで、本当のことは今ではわからない。
だから、帰省するとなると、母が住んでいるところへ帰るのが自然な流れになる。
母の実家は、何もしていないのに怒鳴られるという「プンスカ王国」で居心地が悪かったが、そういうものだと思っていた。
父の家には帰る理由がないと帰れないと思っていた。18年育ってきた家であるにもかかわらずだ。
数年前までは、父方の祖父母がいたため、祖父母に会いたいからという明白な理由があったため帰れていた。
しかし今では2人とも亡くなってしまった。
帰りたいと思う時もあるけれど、何か理由を見つけなきゃな。でもこの家には自分の物も育ってきた思い出の品たちもないしな。田舎だからやることも何もないしな。奥さんにも気を遣わせちゃうからな。
そこまでして帰りたいとは思うかな、いや思わない。
そんな感じで理由がない限りもう帰ることはないんだろうなと、ぼんやり思っていた矢先だった。
「今年は帰らない!」と返信し
ついでに「〇〇と昨年別れた!めちゃくちゃ楽しかったって言ってたよ。奥さんにもごはんとかいろいろありがとうって伝えといて!」と付け加えた。
田舎だから、育ってきた場所だから、落ち着く。帰れるのなら帰りたい。
けれど、帰る理由がそれだけだと弱い気がして、毎回「帰省大作戦」なるものを実行してきた。彼氏だとか友だちだとか大切な人を私の帰省に巻き込んで道連れにする。
とんでもない方法だったが、きっとみんな楽しんでくれたと思っている。道連れを父の家に入れたことで他者の視点が加わった。そこで気づいたのは、父の家は「ニコニコ王国」だったってことだ。
LINEの返信も「了解。それはびっくりだよ!そうだったんだね。いつでもいいから遊びにおいでよ!」と。
きっと母にこのことを伝えたら「はぁ!?なんで帰ってこないの!?休みだら?なんで別れたの?理由は?あんたが悪いことしただら?」と、きっとこうなる。直接伝えたわけではないので、私の中の悪魔の声がこう言っているだけだけれど、あながち間違いではないはず。
理由がなくても帰ってきていいんだとわかり、嬉しくなった。
ニコニコ王国は、かつて私が生まれ育ったところだ。
ニコニコ王国出身の父は、否定をしない。悪口を言わない。共感してくれる。喜怒哀楽がはっきり。裏表がない。一緒にいて楽しい。やさしい。おもしろい。
LINEでのやりとりを振り返ると、とにかく共感力が高い。どこに行ってもすぐに人と打ち解け、子どもにも孫にも好かれる。私の友だちにも好かれる。見た目はトドだが(本人承認済み)、自然と人が寄ってくる。コミュ力が高いのだ。
だれかが嬉しいことは一緒に喜び、悲しいことは一緒に悲しむ。
まだ父が30代だった頃、私の高校の合格発表時には受験生の私より飛び跳ねて喜び、驚きのあまり喜びが薄れた記憶がある。
大人になった今、父を振り返ると「楽しんでいる姿」が思い浮かぶ。
いつも遊んでくれたのは父だった。サッカー野球バドミントン、かくれんぼ鬼ごっこ、川遊び砂遊び、花火プール、オセロトランプジェンガ、酔っ払ったフリのマネ、ドライブスルーで単にスルーした話。
ニコニコ王国にいるとのびのびいられる。
それに比べて、プンスカ王国。
プンスカ王国出身の母は、否定から入る。何事も悪く言う。話を途中で遮り、自分の話しかしない。少し反抗するとすぐ怒り出す(手も出る)。心配だからという理由で、誰とどこで何をして何の話をしたかと問いただす。
喜怒哀楽ではなく怒怒怒怒。嬉しかったことを伝えても10秒後には私の気分が悪くなる。良いこと→悪いことに変換する能力が高い。頭が良いネガティヴァー。
怒られるのが怖かったし、離婚してプンスカ王国で暮らすことになったので、その王国のルールに従わないと生きていけない。だから、怒られないようにできるだけ先読みして母の機嫌を損ねない対応をしてきた。
必殺技は自分の意志や気持ちを殺して、相手に合わせる。これは仕事で上手く生かすと良い能力になることもあるのだけど、やりすぎると、自分で自分を殺すことになるから絶対におすすめしない。
夕飯のおかずを食べる順番や食べるスピード、食べる量まで調節して、女王様のご機嫌をとった。
洗濯物の取り込み忘れや、買い物するときクーポン券を忘れたことで、「気が利かない、鈍臭い、いつも同じ間違いをする、人の役に立っていない、無意識に迷惑をかけ常識がない」と言われ続け、「だから私はダメなんだ、反省して二度と同じ間違いをしないようにしよう」と日記に書くもまた怒鳴られる。
大人になった今、母を振り返ると「怒っている姿」しか思い浮かばない。
プンスカ王国に暮らすより前から、母に従って生きてきた。
笑うべき時に笑い、母が思う失敗にならないように行動し、褒めてくれそうなものだけ見せる。失敗したものは隠す。可愛くなかったら愛せないと言われ、はじめから条件付きだった。
今だったら「私可愛いし、フフン」と流せるけれど、さすがに生まれたてにはいっちゃいかん。ダメ、絶対。
今私が生きているのはたぶん生命力が強いから。運だけはいいと根拠なく思っている。運も実力のうち、というか「実力が運」。よくわからんけど。
プンスカ王国にいるとビクビクしてしまう。
さてさて私は、ニコニコ王国とプンスカ王国のハーフ&ハーフだ。
良い噂より悪い噂が広がるといわれるように、どうしてもプンスカ王国に影響されがちになってしまう。
昨年プンスカ王国と縁を切り(気持ちの上で)、連絡もとれないようにしてあるけれど、未だにプンスカ王国の悪魔が心の中で暴れることもある。
プンスカ王国の母は、その両親から同じことをされてきた。だから母を憎んではいないし理解はしたけれど、受け入れはしない。プンスカ王国を離れようとする私にいろいろ抵抗してくるけれど、もう惑わされない。アドラーさんのいう課題の分離ってやつだ。(「嫌われる勇気」より)
きっと母はコミュ力が低いのだ。コミュ力は生まれ持った能力ではなく、技術だってことが唯一の救いだ。
今度、理由もなくニコニコ王国へ帰省しようと思っている。失敗しても上手くいかなくてもどんな私でも受け入れてくれるところへ。脳内BGMはもちろんアナ雪のレット・イット・ゴーで。
プンスカ王国を離れました、という報告と新たな再出発のための祈願をしに。もしかしたらあのときの父もプンスカ王国を離れただけなのかもしれないなと。
苦しいことは考えなければいいのに、過去は忘れていたらいいのに、自ら過去を掘り起こし王国と向き合ったのは、どうしても守りたい大切にしたい人がいるから。自分の好きを見失いたくないし、信じたいから。
こんなことで死にたくないし、自分の人生を生きたいから。
自尊心、高め安定で。
悪魔はまだまだ何年も消えないかもしれない。でも攻撃もせず拒絶もせずほったらかしておくと、だんだんと小さくなり、いつかいなくなるはずだと信じている。
出てきたときには、「また出てきたなプンスカ王国の悪魔!こっちにはニコニコ王国やその仲間たちがたくさんいるんだぞ!」とウルトラマンのような小芝居を心の中でやっていこうと思う。
悪魔に構わないとっておきの方法は、自分を責めずに、褒めて喜ぶことをして、たくさん甘えさせてあげて、幸せにしてあげることだと思う。
好きな四字熟語は「自画自賛」です。