仕事場に「対話」をとり入れたら、ぐっと思い描いていた雰囲気に近づけた話
最近職場にある制度を取り入れたら、思い描いていた雰囲気にぐっと近づけて、すごく活気のある仕事場になって、うれしい。
導入したのは、
少なくとも週 1 回、私に話に来る制度。
私はこれを「今週の実験ノートチェック」と名付けている。
*
私は大学で研究者をしている。研究室で、大学教員として、教授の下で 30 名ほどの学生を取りまとめている。
「実験ノート」というのは、ただのノートではなくて、研究の証拠となる、研究者ならだれでも書く極めて大事なノートのことだ。
それを、週 1 回、私に必ず見せに来る、という制度を導入した。
*
仕事場で、私はずっと目指していた雰囲気があった。
それは「対話」がとびかって、活気があって、躍動感のある現場。
対話することで、なにかが芽生え、なにかが生まれる仕事場。
そんな「対話」のある仕事場を、ずっとつくりたかった。
話すことで、相手のよいところを取り込み、それと自分の考えマーブルさせて、ひとりでは湧き出なかった新たなものを生み出すこと。
たとえ相手からアドバイスをもらえなくても、話すことで、自分の中からなにかが生まれてくること。
その凄さを、これまでの自分の人生のなかで、すごく感じてきた。
だれかがいてくれたから、やってこれたこと、乗り越えられたこと。今もずっと支えられている言葉たち。
*
これまで、そんな雰囲気を生み出すのが難しかった。
社会では、「ほう・れん・そう (報告, 連絡, 相談)」といった対話が大切にされるけれど、学生さんに実践させるのが、とても難しかったのだ。
なかなか相談にこない人たち。
勿論私から話しかければ、ぽつぽつと、話し始めてくれるけれど、こちらからアクションがなければ、ひとりで黙々と頑張っている人たち。
たぶん、自分なりに考えて、自分なりに頑張っている。
けれど、本人が気づかない所で、努力する所を間違えていたり、問題そのものに気づいていなかったり。問題点が分かっていても、あともう少し自分で頑張ればできると思い、結局泥沼にはまる感じが多かった。
たとえば私が、一人一人、皆に声かけすれば解決するのかもしれない。けれど現実的には、30 名それぞれのタイミングの良い時に逐一声をかけて回るなどは、できなかった。
…そこで、考えた。
週に少なくとも 1 回、好きなときに、
私に話に来る制度 (実験ノートを見せに来る制度) を、導入したい。
教授に提案した。やってみることになった。
*
今、とても、楽しい。仕事場がすごく、活性化されてきた。
「実験ノートチェック」制度の真意は、「ディスカッション タイム」だった。
週に 1 回「好きなときに」来る、というのがポイントだった。
「話しに行かなければならない」という “義務” のなかに、「好きなときに」という学生さんの “自主性” を持たせたのだ。
すると必然的に、私に実験ノートを見せるついでに、現在の困っている問題点を洗い出してくるようになった。そして自らの言葉にして、相談しに来るようになった。
この “自主性” こそ、まさに私が求めていたものだった…!
自分から問題を見つけ出す。
それを、自分の中だけで処理しようとせず、ディスカッションに持って来る。
そうすると、学生さんたちの中でも、明らかに、なにかが芽生えてきたようだ。
「自分では考えもしていなかった所に、問題点があったんだ・・・」
「話していると、たとえ明確な答えが得られなかったとしても、ただ自分の言葉にするだけで、自分の中で、整理され、なにかが芽生え、なにかが生まれるんだ・・・!」
対話すると、楽しい。湧き出る。降ってくる。
つながる、ひらめく。
*
一週間って、わりと、はやい。
1 人につき 30 分話すだけで、10 人と話せば 5 時間になる。それを毎週。
だから毎日、現場ではなにかしら議論されているようになった。
そして一度議論すると、もっと小まめに見せに来るようになった。
対話のとびかう、仕事場。
人と人とのかかわり合いの中で、芽生えてくる思考。
自分で考えるのは、とても大事なこと。
でもそれは、人と共有することで、もっとふくらむ。はるか上まで上昇する。
*
私は昔在学していた京大の教育理念が、とても好きだった。
「対話を根幹とした自学自習」 (京都大学)
それがいま、私の小さな職場で実現されつつある。
仕事場の dropbox 内に掲示板をつくっていて、そこに「今週の実験ノートチェック」をだれが受けに来たか、ひとめで分かるように、色付け欄を設けている。
もう色付けされた人は、もう今週の実験ノートチェックを受けに来た人。
だからまだの人は、行かなきゃ、という気持ちにもなる。
*
仕事復帰して、まだ半年になったばかり。
今年は下地を整える一年にしよう、と思って、少しずつ、思い描いていることに近づこうとしている。
仕事場に自分の味を投入していき、思い描くことを叶えていけたら。
そんな小さな一歩。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?