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【sake✕中華研究会 第3回】日本酒に合う中華料理を探せ! その2


研究結果(続き)

その1からの続きです。
日本酒に合う中華料理料理はどんなもの?

3)乳酸の効いた料理には、生もと純米酒! 発酵白菜と生もと系

発酵白菜=酸菜といい、乳酸発酵した白菜の漬物です。中国の東北地方で伝統的に作られているものです。長い冬に備える保存食ですね。
酸菜の特長は、「酸」と「クリーミー」です。乳酸発酵によるまろやかな酸味と、発酵で生まれるいろいろなアミノ酸が、複雑でクリーミーな味を作り出します。
この酸菜をベースにしたスープに魚と野菜を入れた鍋「酸菜魚」はここ数年中国全土で大人気。筆者もハマって何度も食べました。今回は豚肉バージョンです。酸菜の酸味と豚肉の旨味&脂が良いコントラストになります。さらに、この酸っぱくてクリーミーなスープを吸った春雨が、地味なふりして激旨です。

発酵白菜と豚肉のスープ煮込(酸菜汆白肉)。酸っぱいですが塩味も結構効いてます。

酸とクリーム言えば、もう生もとしかないじゃないですか!
逆に、生もとに合わせたくてこの料理を作ってみた、というのが本当のところ。生もと系の日本酒は発酵の過程で乳酸を自然発生させるため、乳酸のヨーグルトっぽい香りがします。また、その発酵過程に出るいろいろな酸とアミノ酸が複雑な味わいを作り、クリーミーでまろやかな味わいに。まさに
酸菜と同じですね!これは期待できます。
今回の生もとは、

◯ 初孫 魔斬 生もと純米本辛口 (山形/東北銘醸)

生もとで有名な初孫の魔斬(まきり)。辛口!
初孫は全量生もと造りの珍しい蔵。

予想通り、酸とクリームの味わいが見事に調和していました。
酸菜の酸味に生もとの乳酸の調和。さらに、豚肉の脂+旨味を、魔斬のミネラル感とシャープな力強い味がばっさりと切ってくれて気持ち良い組み合わせに。
料理の塩味が強かったので、甘みの少ない辛口の生もと純米とスムーズに連結したイメージでした。燗しても良かったかもしれません。

生もと造りというのは、江戸時代に灘で確立された日本酒の造り方で、いまもこの造り方が日本酒造りの基礎になっています。しかし、造るのが面倒で時間がかかるため、いまでは生もと造りをする蔵元は少なくなりました。
生もとの最大の特徴は、酸!この魔斬も酸がきりっとしています。魔斬には、ほのかに香る青バナナやバニラの香り、生もとに特徴的なホエー(ヨーグルトの上澄み液)やクリーミーな感じもありました。

以上3つの組み合わせが、今回特に日本酒に合うと感じたものでした。
そして、以下が思わぬ発見。

4)甜麺醤(テンメンジャン)は、むしろ赤ワインだった…

豚肉甘みそ炒め湯葉包み(京酱肉丝)
本場の京酱肉丝は、もっと大雑把に出てきます。

京酱肉丝は「京」と名前が付くように、北京料理のひとつ。ジャージャー麺についてくるような甘辛い甜麺醤を豚肉にからめて炒めたものに、生の長ネギを合わせ、湯葉に巻いて食べる北京の代表的な料理。筆者も留学時代に北京でこれにハマって何度も食べました。甜麺醤の甘さと肉の旨味に長ネギのビリビリくる辛さが相まって、絶妙のハーモニー。

甘辛い甜麺醤は日本酒の甘みと合うんじゃないかと思ってやってみました。その通りで、甘みのある純米酒(出雲富士 特別純米)とよく合いました。

しかし、会も後半になり、だんだん飲み会ムードが強くなってきて、友人が持ってきてくれた赤ワインを開けて飲んでみたところ、

お、これはうまい!

となってしまいました。
甜麺醤は甘く香ばしいカラメルやはちみつのような香りがありますが、甘みそなので味がとても重いのです。日本酒だと若干パワー不足。それより赤ワインの方が、甜麺醤のちょっと焦げたカラメルのような味に同調し、タンニンがそこに渋みを加えていいバランスに。ワインが持つ大きな酸も、甜麺醤のボリュームに負けません。

◯ Domaine Chant des Loups「La main de Papé」

ローヌの赤ワイン。ナチュール(自然派)だそうです。
シラー60%、グルナッシュ40% でも重すぎず優しい味でした

シラーとグルナッシュなので、重いのかと思いきや、比較的飲みやすく、タンニンも少なめの優しいワインでした。

日本酒はどんな料理でも合う!とよく言われます。私もそれは否定しません。カレーにも合わせられます。しかし、カレーに最高に合うお酒は日本酒か?と言われたら多分違うでしょう。中華にしても、多くの料理に日本酒は合わせられますが、「これは日本酒だな!」と思うものもあれば、「日本酒よりワインがいい」と感じるものもあります。
今回の京酱肉丝はその例かなと思いました。赤ワインに甜麺醤、うまいっす。
筆者は中華に日本酒推しなのですが、ここは正直に書いておきます。
逆に、今回前半で挙げたルーロウ、酔っぱらいエビ、発酵白菜と豚肉のスープ煮込は「これは日本酒だな!」と思えるものでした!

その他の組み合わせ

今回作ったその他の料理に関しても、日本酒と良い相性のものがありました。

・中華漬物、れんこん甘酢漬け + 淡麗辛口 = 甘みと切れ味の調和

手作り中華漬物

中華漬物は、さっぱりとした酸味と辛さ。もう少しホワジャオ(花椒)を追加したらもっとスパイシーで美味しくなったかな?
れんこん甘酢漬けも甘さ控えめ、油も少なくさっぱりしていました。
この2つの料理はシンプルで油が少なく、酸味と甘み、唐辛子の辛さがあり、「千歳鶴」のような淡麗辛口でクリアな甘さと切れ味がある酒とよく合っていました。

こちらもシンプルな、れんこん甘酢漬け

◯ 千歳鶴 雪原の舞 大吟醸 (北海道/日本清酒)
◯ 千歳鶴 丹頂鶴 純米 (北海道/日本清酒)

千歳鶴3本セット。この蔵の「酒ミュージアム」は立派です。札幌に行ったら是非。


北海道の「千歳鶴」は、雪のような淡麗辛口のお酒が多いです。昔、北海道の日本酒のイメージはまさにこれでした(最近はいろいろあります)。
こういうさっぱりした日本酒と、油の少ない中華の冷菜はよく合いますね。

・塩味の炒めもの + レモンの代わりにワイン

シンプルな塩味の炒めものに日本酒はいけるのでは?と思ってやってみました。最近日本の町中華でも見かける鶏肉のカシューナッツ炒め(腰果鸡丁) 。

腰果鸡丁。中国でよく見かける家庭料理ですが、なんと発祥はアメリカらしい

味付の問題だったかもしれませんが、この炒めもの、味がシンプルすぎて切れ味が足りない。レモンを絞ったら美味しいかも?と思っていたところに、さきほどの赤ワイン。ワインの酸味と渋みが加わって、バランスの良い味になりました。
日本酒ではこうはいきませんね。酸味の補填という点では、ワインにはかないません。

まとめ

今回の発見は、
1)あまから醤油味のルーロウには熟成酒のぬる燗が最高!
2)生のシーフードには甘みのある純米酒。臭みも消える
3)発酵白菜の乳酸には生もと系の乳酸がよく合う
4)甜麺醤にはむしろ赤ワイン

という内容でした。
ルーロウはなかなか良かったので、これをおでん風にしていろんな具を入れたら、日本酒のつまみに最高ではないかと考え中です。


今回も研究会にご参加の皆さん、ありがとうございました!
そしてここまで読んでいただいた皆さんにも、感謝です。ありがとうございました!


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