【sake×中華研究会 第1回】 日本酒と中華のペアリングを探る会発足!初回のお題は麻婆豆腐。
『sake×中華研究会』発足!その目的は?
寿司の人気とともに世界各国で注目を浴びつつある日本酒。国内の生産量は減少を続ける中、輸出量は順調に伸び、現在では75カ国へ輸出されています。
しかし、日本酒がもっと世界に浸透するためには、日本酒には和食、という縛りから自由になる必要があると思います。ワインは必ずしも洋食に合わせるものではない、と日本では知られるようになりましたし、中国の高級中華料理店には必ずワインセラーがあるくらいです。
イタリアンやフレンチに日本酒を合わせる試みは、欧米でも広がりつつありますが、中華に日本酒を合わせる試みは、中国においてもまだあまり活発ではないように思います。
そこで、日本酒と中華料理のペアリングを探る会を発足しました!
中華に合う日本酒の特徴は?逆に、日本酒に合う中華はどんなもの?日本酒業界の方々をはじめ、「食」「酒」に関わる人にご協力いただき、みんなで日本酒と中華のペアリングを実験、研究するという会です。
目標は、日本酒が中華のドアを開けること!
この会が、SAKEが世界の酒になるための、小さな一歩になればと思います。
第1回のお題は麻婆豆腐
記念すべき第1回を2024年5月某日に実施しました。メインのお題は、麻婆豆腐です!
去年、中国四川省で行われた、四川料理と日本酒のプロモーションがなかなか好評だったという話を聞き、「あんな辛いのに日本酒が合う!?」と半信半疑になり、四川料理と日本酒のペアリングを一回試してみたい!と思っていました。
日本における四川料理の代表といえば、やっぱり麻婆豆腐。はたして本当に合うのでしょうか?
研究方法
今回の『sake×中華研究会』は、「我が家でうちの妻が美味しい中華を作るので、日本酒持ち寄りでパーティーしましょう」ということからスタート。その日に作る中華料理のメニューをあらかじめお知らせして、それに合いそうな日本酒を各自持ってきてもらいました。
お酒の温度は「常温〜やや冷えた温度」で、ワイングラス(ISO規格テイスティンググラス)に注いでテイスティングしました。
評価の形式は、それぞれの料理に各日本酒の相性を5段階評価。「料理X日本酒」のマトリックスを作り、各自で採点しました。ただし、今回はお酒の種類が多すぎて、マスを全部埋めることはできませんでした。
今回の主題は麻婆豆腐であったため、麻婆豆腐に関してどの酒が合うのかを特に議論しました。
料理メニュー
前菜:
- 凉拌秋葵黑木耳 (オクラと黒キクラゲの甘酢和え)
- 白切鸡 (ゆで鶏ネギ油ソース)
主菜:
- 麻婆豆腐
- 香菇青梗菜(椎茸とチンゲンサイのオイスターソース炒め)
- 清蒸鱼(鯛の蒸し物 中国醤油とネギ油がけ)
主食&スープ:
- 南翔小籠包(上海風小籠包)
- 西红柿鸡蛋汤(トマトと卵のスープ)
日本酒一覧
- 天の戸 Silky 絹にごり生酒 (特別純米、白麹)
- 喜久酔 大吟醸
- 白隠正宗 純米大吟醸生もと誉富士
- 残草蓬莱 再醸仕込み濃醇旨口生原酒(R5BY)
- 大七 不倒翁 生もと純米古酒(2014BY)
- 菊水の辛口 本醸造
- 幻の瀧 吟醸(古酒)2009
- 岩の井 山廃純米(古酒)1984
- 睡龍 生もと純米吟醸 長期熟成酒(2012BY)
- 龍力 純米(古酒)2010
- 元禄酒 (30年古酒)
- 塩川酒造 のぱ
- 浦霞 山廃純米大吟醸 ひらの
- あべ VEGA 2023 直汲み無濾過生原酒
- ひこ孫 (30年古酒)
30年古酒は、日本酒ジャーナリスト松崎さん秘蔵のお酒でした。
研究結果
麻婆豆腐の濃厚で刺激的な味わいに合う日本酒はどのようなものか?
参加者からのコメントを分析して、いくつかの方向性が考えられました。
1)濃厚で甘味と旨味のバランスが良い日本酒
今回の麻婆豆腐は、辛さも油も比較的控えめにしているものの、やはり非常に濃厚でした。肉の旨味と油と甘み、唐辛子の辛さと花山椒(ホワジャオ)の爽快な香りがあり、なかなか複雑で重厚な味わいです。
ペアリング評価が高かったのは、この複雑で重厚な味わいに対抗できるくらいの、濃厚な日本酒でした!
麻婆豆腐は辛い辛いと言われますが、実は辛さの中にある旨味と甘味を見つけると、非常に美味しく感じられます(これは四川料理全般に言えることです)。
ペアリングの際にも、その旨味と甘味を強調(同調)してくれるような日本酒が良かったように思います。
この方向でペアリング評価の高かった日本酒は以下の3銘柄:
◯ 残草蓬莱 再醸仕込み濃醇旨口生原酒(R5BY) (神奈川/大矢孝酒造)
このお酒と麻婆豆腐の相性が一番良かったです!
再醸仕込みとは、貴醸酒のように、日本酒の原料の一部に日本酒を使うというもの。しかし貴醸酒のように極甘ではなく、濃厚やや甘口、という感じです。
この「残草蓬莱 再醸仕込み濃醇旨口生原酒」は、メロン系の濃厚な香りに、生クリームのような深みのある香り。さらにナッツやコーヒーのような熟成香も感じられます。口に含むと酸と甘味が口中にバアッと広がり、メロンやバナナの味わいの他、米のコクも十分感じられました。とにかく濃い。とても濃厚なところで酸と甘味、旨味がバランスしているお酒です。
濃厚な麻婆豆腐にも負けず、辛さの中に潜む旨味と甘みを強調してくれました。
◯ 龍力 純米(古酒)2010 (兵庫/本田商店)
山田錦の実力が発揮された古酒。濃厚な甘みと酸味。はちみつ、コーヒー、カラメルの複雑かつ優雅な香りはブランデーを思わせます。これも、甘みと酸味、旨味がバランスしており、麻婆豆腐の甘みを強調してくれました。
◯ 白隠正宗 純米大吟醸生もと誉富士 (静岡/高嶋酒造)
上記2つ、残草蓬莱 再醸仕込み濃醇旨口生原酒(R5BY)、龍力 純米(古酒)2010 ほど濃厚ではないものの、しっかりした酸と米の味、ボリューム感の感じられるお酒です。香りは控えめですが、口に含むと米の旨味とメロン系の甘みが広がります。
麻婆豆腐も良かったですが、ゆで鶏ネギ油ソースにもよく合いました。
以上が、1つ目の方向性:濃厚で甘みと旨味のバランスが良い日本酒、の具体例です。
2)軽快な味わいの日本酒
意外にも、麻婆豆腐に軽めの日本酒もよく合いました。ひとつには、濃厚な料理の味を軽快なお酒で「洗い流す」リフレッシュ効果があると思います。しかし、それならビールの方がいいのでは?とも思いましたが、そんなに単純ではないのではと参加者の方からご指摘いただきました。
日本酒は個性として、米麹の旨味を持ち合わせてます。軽快な日本酒には確かにリフレッシュ効果はあるものの、同時に米麹の旨味が麻婆豆腐の旨味を引き立たせています。これはビールではできない、旨味の相乗効果だと言えるでしょう。
この方向性でペアリング評価の高かった日本酒は以下の2銘柄:
◯ 菊水の辛口 本醸造 (新潟/菊水酒造)
新潟を代表する淡麗辛口のお酒。生米を思わせる硬めの味わい。フレッシュで軽快な味わいが、濃厚な麻婆豆腐を洗い流してくれました。本醸造らしい、キリッとした後味。
◯ あべ VEGA 2023 直汲み無濾過生原酒 (新潟/阿部酒造)
とても現代的な日本酒。少しシュワシュワ、シルクのような繊細な口当たり、ヨーグルト、洋梨、白桃などを思わせる香り。軽く繊細な味わいで、濃厚で刺激的な麻婆豆腐を洗い流し、かつ、辛くなった舌をやわらかく包み込んでくれるような感じもありました。
まとめ
以上の2方向(1,濃厚で甘みと旨味のバランスが良い日本酒、2,軽快な味わいの日本酒)が、麻婆豆腐との相性が良いと評価されました。
麻婆豆腐の濃厚さに負けない濃厚さをもち、辛さの中の甘みを強調してくれる酒か、麻婆豆腐で濃くなった口中をリフレッシュし、酒の旨味と麻婆豆腐の旨味を調和させてくれる酒。
今回はこれだけでしたが、これ以外にも麻婆豆腐と相性の良い日本酒タイプはまだありそうです。
しかし、きっと合うだろうと皆が予想していた古酒が意外と合わない……。
これは、酒の温度の問題ではないかという話になりました。
熟成古酒は、濃厚な甘みと旨味、古酒独特のはちみつ、ナッツ、コーヒーなどの複雑な味わいがあり、紹興酒に近い味わい。中華には合いそうです。
しかし、今回は冷酒〜常温で飲んだため、古酒の丸み、深み、きめ細やかな甘みが強調されず、全体にちょっと「痩せた」感じで、ボリューム感が足りない感じでした。
そのため、濃厚な中華に合わせることができなかったのではないかと思います。つまり、古酒にとっては不利な条件(温度)で評価してしまったということです。それでは、今回の結果だけを見て、古酒と麻婆豆腐は合わない、とは言えませんよね。
機会を見て、古酒の燗酒と中華料理の相性も研究してみたいと思います。
今回の参加メンバー紹介
日本酒業界の重鎮、日本酒ジャーナリストの松崎晴雄さん
「美酒の設計」など日本酒の著書で知られるライターの藤田千恵子さん
食や健康をテーマにした本を、フリーでライティング&編集を行う小宮千寿子さん
著書「おうちで喜ばれるにほんのおかず」料理家のいこまゆきこさん
そして私、中国での日本酒普及活動を長年行っている山本敬と、料理担当の山本由美子です。
(みなさま、今回はご参加いただき、ありがとうございました。)
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