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1999年7の月。あなたは何を飲んでいましたか?


私は『紅茶王子』(山田南平。白泉社)にどハマりして、紅茶ばかり飲んでいた。


お小遣いを貯め、背伸びして缶入りの紅茶を買い、ガラスのティーポットで茶葉を揺らしていたものだ。もちろん、紅茶に満月を浮かべようとしたこともある。
それ以前からも、絵本やお菓子の本の影響で紅茶は好きだったが、様々な種類を意識して楽しむようになったのは、この作品のお陰だ。


『紅茶王子』当時の花とゆめ読者に、ミルクティーといえばアールグレイと刷り込んでくれた偉大なる作品である。いや、私だけかもだが。


ネタバレを避けるためにフンワリと話すが、主人公が入部希望者たちに温かいアールグレイを振る舞う話がある。入部希望者の一人はこの飲み方を非難するのだが……。

紅茶は、淹れ方や楽しみ方に定番がある。こだわりを持つのは簡単だ。けれど、そこから踏み出してもいい。対人関係でも「こうに違いない」「こうでなければならない」から一歩進んでもいい。そう伝えてくれる話だ。お陰で我が家のアールグレイと牛乳の消費は増えた。


『紅茶王子』は、他にも色々な扉を開いてくれていたと記憶している。主に、姉妹百合とか、主従百合とか、百合スレスレの友情とか(個人の趣味です)。ちなみに薔薇ふくむその他様々な恋愛要素もあった。


時に人間の内面が辛辣に描かれ、ファンタジーとリアリズムが同居したストーリーで、ワクワクして読んだものだ。


こうなると、他作品に出てくる紅茶やアフタヌーンティーも気になってくる。重要な要素であったり、小道具程度であったりもするが、紅茶が出る作品は思ったより多い。


同じく花とゆめの『未来のうてな』も印象深い。主人公の姉(超絶愛らしい美女。守ってあげたいお姉ちゃん1位)が弟のガールフレンドをもてなすためにアフタヌーンティーをセッティングしてくれるのだが、わずか数コマなのにお菓子も紅茶も美味しそうで、なんとか真似できないかとケーキやスコーンを焼いたものだ。優雅なセッティングは力及ばずだったが、浮き浮きした。


他にも伯爵カイン、ペパミントスパイ、不思議の国のアリス、CLAMP学園探偵団、パパトールドミー、アーシアン、ハリーポッター、マザーグース、MOEの中にあったお菓子レシピ、家にあったお菓子の本などなど。我が家の蔵書も近所の本屋も図書館の本棚も、紅茶愛を補強してくれるものに満ちていた。お陰様で、紅茶熱は高校時代まで続いたと記憶している。


それも今は昔。最近は白湯か珈琲ばかり飲んでいる。紅茶といえば、レンジで作るミルクティーばかりだ。

少し、避けていた面もある。丁寧に紅茶を淹れることからも、『紅茶王子』からもだ。
読んでいた当時、ストーリーに感情を揺さぶられ傷ついたことが何度かあった。それに、思春期の頃読んでいた本を読むと、影響されて淹れた紅茶や作ったお菓子の味が蘇る時がある。蘇る味は、甘くて美味しいばかりでなく、ちょっと感傷的だ。


当時住んでいた家は無く、家族もずいぶん変わった。数人をのぞいて友人たちとも疎遠。大事だった人も、憎たらしい人も、ガラスのティーポットすらも手元にない。


今回『紅茶王子』がマンガParkで期間限定(2020年5月12日まで)無料で読めると知り色々と思い出したが、今は素直に懐かしく愛おしい。時が感覚を鈍らせたのか、私が後悔やら痛みやらを受け入れるようになれたのか。


これを機に、改めて紅茶を淹れて『紅茶王子』を読んでみようかと思う。生々しい痛みを与えれるほど、面白い作品だったのは間違いないので楽しみだ。


余談。結局、これを書いている途中で読み出してしまった。徹夜だ……鳥がめっちゃさえずっている……。

完読はしてないが、やっぱり面白い。現実の厳しさとか人の心のままならなさとかコンプレックスとかを叩きつけて丁寧に抉る話だった。あと親世代がアレ。


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