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日本酒のミスコン「Miss SAKE/Mrs SAKE」を考える

9月12日、こんなプレスリリースが発表されました。

Miss SAKE(ミス日本酒)が、既婚女性および40歳以上の女性を含むコンテストとして「Mrs SAKE(ミセスサケ)」を新たに設立するというものです。

これに関して、わたしはTwitter(現X、っていうの面倒ですね)でこのように発言しました。

日本において、特に保守的な業界において、ジェンダーの話をするのはとても面倒です。リスクさえつきまとう行為だと思います。でも、業界にツッコミが足りなさすぎるせいでこういうものができたのではないかと思うので、今日はこの件について記事を書こうと思います。


前提:わたくしのスタンスについて

まず、わたしはSAKE(日本酒)が世界的な飲み物になるためにどのように展開していくべきか、ということを見つめるジャーナリストです。

つまり、わたしが見ているのは、SAKEが世界で広まってゆくにあたって、それが有効に機能しているか(何も効果をもたらしていないか/逆効果になっていないか)ということの一点に尽きます。その行為が、SAKEのためになっているか、いないのか。

その前提に立って考えると、Miss SAKE/Mrs SAKEは極めて危うい。なので、今回noteを書くことにしました。

Miss SAKEのツッコミどころ

まず、日本には「Miss SAKE」というミスコンがあります。

この運営委員会は、男性向けに「Mr SAKE」というコンテストもやっています。

この二つは、それぞれ募集要件が異なります。Miss SAKEに応募するには未婚でなければならず、かつ「満20歳以上39歳以下」という年齢の条件も設けられています。あと、以前の違いはこの二つだけだったのですが、いま見たら男性のほうは「日本国籍のパスポートを有すること」という条件がなくなっていました。女性はまだ日本国籍のパスポートを有していることが条件になるようです。

👩Miss SAKE募集要項
満20歳以上39歳以下であること。
未婚の女性であること。
・日本国籍のパスポートを有すること。

👨Mr. SAKE募集要項
満20 歳以上であること。
・男性であること。

公式HPの「募集要項」より(2023年9月時点)

以前、これについて、アメリカ人の日本酒業界関係者にヒアリングをしたうえで、募集要項に男女差があることは海外では性差別であると見なされる可能性が高く、女性の性を売りものにしているという誤解を与えかねないという話をしたことがあります。

※ヒアリング結果も含めた分析はこちらにまとまっています(どなたでもお読みいただけます)。

日本酒はいまや、世界中で愛される飲み物です。2022年までは13年連続で輸出金額が増加し続けており、日本経済を支える輸出品目として重視されています。さらに、Miss SAKEは外務省や国税庁をはじめとした各省庁から後援を受けており、海外におけるプロモーションに参加するという活動も担っています。

つまり、Miss SAKEに「なぜ女性だけ未婚でなくてはならないのか?」「なぜ女性だけ若くなくてはいけないのか?」というツッコミどころがあるのは、世界から「日本酒を受け入れて良いのか?」という疑問さえ持たせうる極めてリスキーな問題なのです。

なぜMrs SAKEが生まれるのか

このような指摘をしたのが2019年。内部事情などについてのリサーチ不足を感じていたのでふせったーというあまりメジャーとはいえないツールを選びましたが、どのような規程を設けるにせよ、日本酒がグローバル化していくには男女差をなくす必要があるというお話でした。

その4年後にMiss SAKEが出した答えは募集要項の改訂ではなく、既婚女性&40代以上の女性を対象としたMrs SAKEの設立。もちろん、Miss SAKEの条件は据え置きです。

う〜ん……。ちょっとどこからツッコんでいいかわかりませんが、ちゃんとツッコみましょう。

まず、Miss(ミス)は未婚女性、Mrs(ミセス)は既婚女性に対する敬称ですが、昨今の英語圏、少なくともアメリカではほぼ使われていません。未婚/既婚を問うこと自体が失礼なことだからです。両方を含めるMsを使うことはありますが、最近はジェンダーを問うこと自体が失礼であるため、こちらもあまり使われません。

(敬称を使うときは苗字で呼びます。といっても、アメリカでは初めてのメールでも「Hi Saki!」がフツー。ほかの英語圏はどうか、教えてもらえるとうれしいです)

つまり、「Mrs SAKE」というタイトルをつけること自体が世界の現状を理解していないことの表れともいえます。それに加え、Miss SAKEは現状維持。「なんでMiss SAKEは未婚かつ40代以下でなければならないんですか?」という質問への説得力のある回答を出せる方はいるのでしょうか。

あと、このMrs SAKE、なぜかMiss SAKEと違ってエントリーフィー(申込料)があり、しかも年齢が上がるにつれ高くなります。

▼エントリーフィー(税込)
- ルビー20代、30代の部:エントリー費用11,000円
- サファイア40代の部:エントリー費用16,500円
- エメラルド50代の部:エントリー費用22,000円
- ダイヤモンド60代以上:エントリー費用27,500円

上記PR TIMESより引用

なぜ、60代は20〜30代より16500円のコストがかかるのか? 16500円に含まれるものがなんなのか、わかったらお知らせしようと思っています。

我々のツッコミ力が足りなかったのではないか

正直、わたしはいままでMiss SAKEをスルーしていました。理由としては、まあ、みんな日本酒を普及させる方法を模索しているし、そういう人たちがいてもいいか……と思っていたからです。

Twitterで日本酒ファンの女性をフォローしていますが、やはりこの手のジェンダー問題は話題になりにくいです。日本酒の国内市場規模は全酒類の4%です(2022年時点)。好きな人なんてそんなにたくさんいませんし、コミュニティもいわば田舎町のようなものなので、ちょっとカドの立つ話をすると敵視されることもあるかもしれません。話題にするリスクはあっても、メリットはないのです。

今回こうして記事にしたのは、「スルーしたせいでこうなっちゃったのかな」という反省があったからです。一度ちゃんと話題にして、「ちょっと待って、それどうなん?」という話をみんなでしたほうがいいのかもしれない。

誰もが日本酒を世界に広めたい! と頑張っているのだから、別に否定や批判まではしなくていいかもしれないんですけど、「なんでやねん!」「いや、アホかい!」みたいなツッコミはちゃんとできるようになったほうが健康なのでは、そうしないと、どんどん不健康になっちゃうのでは、と思った結論として、今回このような話をしたのでした。

“女の子”たちは(たぶん)悪くない

あえて言うまでもないと思いますが、とても大切なことなので、あえて言います。

わたしは、Miss SAKEにエントリーしてきた人たち、選ばれてきた人たちは(たぶん)悪くないと考えています。というか、Miss SAKEが一定の評価を得ているのは、彼女たちが頑張っているからです。なので運営、しっかりしてください! という話をしています。

わたしは海外の友人に日本のコンサバなジェンダー観の話をすると、彼らから「そんなの許しちゃダメだよ! ちゃんと戦わないと悪化するよ!」と、お前もまたその問題に加担する一員なのだ的な指摘をされることがあって、確かにね〜、気をつけないとな〜、と個人的には思いますが、それをいまの日本の女性に要求する気にはなれません。

日本でジェンダーの話をするには、いまはまだ、「上手な伝え方」が必要だし、そのスキルを持っている人はそんなに多くないと感じるからです。上手でない伝え方は、逆効果にもなりうるので。

+ + +

本当はもう少し内部事情などをリサーチしてから書くつもりでしたが、一度書いておいたほうがよいと思ったので記事にしてみました。

わたし個人は、生きる中で女性としてのデメリットをあまり感じたことがない、おそらく日本の中ではレアな存在だと思います。というのは、「女性向け」コンテンツが自分向けであった試しがないし、それが自分向けでないことをどうでもいいやと思っているということです。メンタルがいろんな意味で強い。だから言えるし、わたしが言ったほうがええんかなぁという気持ちで書きました。

これからもこの話はきちんと調べ、展開していこうと思っています。ちゃんとサケが世界で愛されるために、現状を変えていく必要があると感じるからです。そして、もうちょっとたくさんの情報が必要だと思っています。どんな情報でも、もしくださる方がいれば、ぜひよろしくお願いします。

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Saki Kimura / Sake Journalist
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