読書感想 人新世の資本論
マルクス主義の本にして「新書対象2021」を受賞した本書、評判もとっても良いようす。そして著者の斉藤幸平さんは気鋭の社会学者。
「どこまで説得力を感じられるか」「リアリティのある実現方法がどこまで考察されているか」、とても楽しみに読み始めました。
「地球温暖化」は最大、最重要の人類の命題となっており、それを解決する以外に人類の生きる道はない、というのがこの本の出発点。
それに対する、各方面からの各種解決策や考え方が提示されてきているが、「資本主義を土台としている限り」、または「成長を志向する限り」、その解決は不可能。
唯一の解決策は「脱成長コミュニズム」であり、それは、まさに「特に晩年の」マルクスの思想そのものであって、そこに気づいた人は今までほぼ誰もいなかった
というのが、大まかな内容だと思います。
語り口は、いわゆる「左っぽさ」は(あまり隠すことなく)感じられるが、平易でわかりやすい。思想はよくよく深く考えられていて、時間をかけて練られている。そして「誰にどう伝えるべきなのか」も重視されている。確かに評価されるし、売れるだろうな、という、立派な内容だと思いました。
(多くの同年代がそうだと思いますが)僕はもともとリベラルサイドで育ってきていて、高校生の時には成田闘争に参加したくらい(面白半分だったけど)ですが、年を重ね心が汚れてきたのか、近年はどちらかというと、実利的、合理的、な価値判断に軸足が移ってきていますが、そんな僕に、地球を守ることの大切さ、を改めて思い出させてくれたのでした。
とても共感できるし、説得力のある内容だと思いました。
とはいえ、こういう思想は「どのように実現までの道筋を描くのか」というのが何よりも最大のポイントだと思うのですが、その点については到底「リアリティ」を感じることができるものではありませんでした。
いや、それはそうかもしれないけど、そうならないでしょ。という感じ。
「脱成長」の志向は良いと思うが、例えば日本や他の先進国が脱成長を本当に実現すると、本書で「学ぶべき」お手本とされている「発展の遅れている」グローバルサウスの国々があっという間に追い越していってしまい、我々は「貧しさの中で、地球の滅亡に直面」するでしょう。
もちろん、「素晴らしい思想で」「ほんとに実現性がある」理論が提示できれば、それこそ人類を救う可能性があるような話であり、「新書大賞」どころではないわけですが。
とはいえ、その「実現性」の部分においては、大いに物足りなさが残ってしまったのもまた、事実だったのでした。