あの年、私は
一人で北京発モスクワ行きの飛行機に乗った時のこと。
ロシア系の航空会社で、周りは恐らくロシアの人たちばかりだった。
隣に座った人も、ロシア人とおぼしき女性。20代後半だろうか。
離陸すると彼女は私に
「お父さんとお母さんは?」
と、訊いてきた。
「一人です。」
「あら、偉いわね。」
そのような会話を交わし、私は一眠りすることに。
うとうとしていると、バサッと誰かが私に毛布をかけてくれた。
薄目を開けると隣の女性だった。
私も自分の毛布を膝にかけていたのだけど、彼女の毛布を私の首の下から体を包み込むようにかけてくれたのだ。
膝を優しくポンポンとされ、私はそのまま眠りに落ちた。
彼女はその後も何度もずれ落ちる毛布をかけ直してくれ、機内食が来た時には私を起こしてくれた。
「しっかり食べないとね。」
「これはマズいから食べない方がいいわよ。」
言われたとおりにマズいらしい一品を残し、その他を完食する。
「何か必要なものがあれば、私に言うのよ。」
お父さんもお母さんもいない一人旅。
そんな私を気にかけてくれる若い女性。
しばらくして無事にモスクワに着陸し、彼女に別れを告げた。
一期一会。
旅先ではいろんな人に出会える。
人の優しさに触れたり、未知との遭遇をしたり。
あの年、私は30歳になった。