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【ショートショート】一年の長短について

 ふわふわと煙草の煙が天井に向かって伸びては消えていく。無為な時間を過ごしていると知らしめるように、伸びては消えていく。

「もう今年もあと3日だってさ」
「早いなあ」

 もうすぐ今年が終わる事への実感のなさに、二人で笑いがこぼれた。
 子供の頃は季節の長期休みやイベントを楽しみ、時間の流れを強く感じられていた。楽しい時間はあっという間に過ぎると言うのに、一年と言う単位をとても長いものに感じていた。
 それが大人になればなる程、楽しい時間などないのに一年と言う単位がとても短く感じる。もう春か。もう夏か。もう秋か。もう冬か。もう一年も経ったのか。楽しい時間など然してないくせに、一日がとても長く感じるくせに。一年と言う単位をこんなにも短く感じる。
 時間は有限なのだと強く実感する。まるで今吸っている煙草のようだ。

「来年はどんな年になるのかなぁ」
「大して変わらないだろ。今年と去年に大差ないしな」
「確かに」

 大した事のない問いに、大した事のない答え。きっと去年の今頃もしていたであろう、大した中身のない会話。
 だがそんな何でもない会話が出来る事こそが、きっと一番の幸せなのかもしれない。フィルターぎりぎりになった煙草を灰皿に押しつけ、火を消す。有限の時間を無為に楽しめる、そんなささやかな瞬間が。きっと。
 そう思いながら新しい煙草を口にくわえ、また火を点けた。ふーっと吐き出す煙はまた、ふわふわと天井に向かって伸びては消えていく。姿を消しても匂いは残して、消えていく。
 ああ、そば食べたいなあ。

「今年こそ作ろっかな。年越しそば」
「もうインスタントのやつ買ったのにか?」
「あー、じゃあ来年の目標にするわ」
「それ去年も言ってたぞ」

 ふはっと笑って飛び出ていく煙は、少しだけ濃い気がした。


もう今年が終わるとか未だに信じられない。


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