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【ショートショート】純真無垢なランドセル

 朝目が覚めて、「天気が良いから」と、布団のシーツなど大物も洗濯した日。しかし太陽からすれば「今日はちょっとスーパーに買い物に行った程度の日」だったらしい。ゆっくりと薄く薄く灰色がかった雲が増え始めた午後三時過ぎ。空模様を見つつ洗濯物を取り込む。大物は力自慢の彼に任せた。
 ひとつ、またひとつ洗濯ばさみを外して取り込んでいく。シャツ・バスタオル・下着エトセトラ。ふんわりと乾いたタオルは手触りが心地良い。

 そんな時にふと、子供の歌声が耳に届いた。手を止めずに視線だけをベランダから下に向けると、学校帰りであろう子供が何やら知らない歌を歌っている。余程気分が良いのだろう、その歌声は大きく迷いもない。ランドセルを背負い歩くその姿は、ぎすぎすした大人社会にはない余裕が感じられて微笑ましく思えた。
 だがそうして感情が一通り整理整頓されると、今度は子供の背負うランドセルに視線が向いた。赤でも黒でもない、洗練されたブラウン色のランドセル。その存在に気付くとつい手が止まる。ばさばさとシーツをはたいていた彼が、「手ぇ止まってんで」口を尖らせた。

「あのランドセルいいなあって思ってさ」
「おい無視かいな」
「だって見てよ、あのお洒落な色のランドセル」
「ただのランドセルやんけ」
「分かってないなぁ」

 彼も手を止め、彼の微笑ましい子供を視界に入れたが、私の感想とは真逆の簡潔極まりない感想。それに対して今度はこちらが口を尖らせる番。ランドセルを指さし、子供の頃の実体験を彼に告げた。

「ああ言う色はお金持ちの子しか使ってなかったの! クラスにひとりいるかいないかだったんだから!」
「お前が子供ん頃か?」
「そう、私が子供の頃は!」
「ハッ。それ言い出したら歳取った証拠やで」
「もお~っ!」

 意地の悪い彼の肩に、ぽかぽかと拳を軽く叩きつける。無論相手になどされず、彼は軽く畳んだシーツを抱え部屋に戻ろうとサンダルを脱いだ。律儀に次に履く時を考えて、室内に背を向けサンダルを脱ぐのは彼の癖。
 そしてベランダにいる私を見て彼は、にやりと笑って言い逃げた。

「茶色のランドセル買うたろか?」
「いーらーなーいーっ!」


子供の頃、ブラウン系の色のランドセルが憧れだった。
色んな色がある今でもあの系統の色が一番格好いいと思う。
そしてまだ、ごりごりの関西弁が書きたいブームが続いている。


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藤堂佑
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