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【ショートショート】あの頃のプレゼント

 スーパーに買い物に向かった、なんて事はないある日。特売品や思わず気になった新商品のお菓子などで大きく膨らんだエコバッグを二つ、私と隣の彼でひとつずつ持ちながら出入口に向かう。当然のように牛乳など重たい物が多い方を持ってくれる彼に感謝を述べながら、今日の晩酌にはあのお菓子を食べようと笑い合っていた瞬間だった。

 出入口すぐに置いてあるカートを押す母親と、その後ろをぽてぽてと歩く小さな男の子とすれ違った。子連れの買い物客などスーパーでは特段珍しいものでもなんでもない。何なら当たり前の光景だが、どうふと目で追ってしまた理由はその小さな男の子にあった。
 まだ幼稚園児か小学生になりたてか。そのくらいの歳の男の子が、小さな両手で大事そうにひとつの箱を抱きかかえて歩いていたのだ。もちろんそれをじろじろ見る訳にもいかず、すれ違う一瞬だったが視認したその箱は、プラモデルかパズルの箱のように見えた。

 隣の彼はそれを見ていなかったようで、足を止めた私に、「どしたん?」と声をかける。その声にハッと意識を戻し、再度足を動かしながら事の経緯を彼に話した。

「子供の頃ってああいう、欲しい物を何か一個買ってもらうだけですごい嬉しかったなあ~って思ってさ」
「せやなあ。ゲームなんか買うてもろた時には飛んで跳ねたもんなあ」
「ほんとそれなー!」

 駐車場までの然程ない距離を歩いて、停めていた車の後部座席にエコバッグを乗せる頃。私と彼は子供の頃にもらったプレゼントの話で盛り上がる。人気のゲームから流行りのアニメのおもちゃ、バイト代では手が出しにくい少し高い財布まで。親から与えられたプレゼントに子供の頃は、逐一大喜びしたものだ。
 だが大人になるともちろん親からのプレゼントなど、そうあるものではない。むしろこちらが親にイベント毎にプレゼントを渡す側になるし、いずれは自分達の子供になんて事を考える年頃。
 それに、大人になると欲しい物は大体買えてしまう。誰にねだらずとも買えてしまう。故にもうあの頃のような純粋な大喜びなど出来なくなる。それが大人になると言う事なのかもしれない。

 そんなどこか物悲しさと、大人のないものねだりを感じた頃。彼が運転席に乗ろうとして動きを止めた。「ええ事思いついたわ」と言ってさっとスーパーに走って戻って行ってしまった。こう言う瞬間の彼の行動は毎度ながら非常に素早く、「何?」のなの字すら言う間もない。
 そしてそう言う場合は何も言わずに待つのが正解な事も、とうに熟知している。じゃあとりあえずと鞄から取り出した携帯電話で、友人からの連絡などはないかを確認。ひとまずは仕事の連絡もなさそうだと安心した頃、彼がたったったと走って戻ってきた。小脇に何か箱のようなものを二つ抱えて。
 がちゃりと運転席に乗り込んだ彼が、「はい。大喜びするプレゼント」と手渡されたのは、私が吸っている煙草のカートンひとつ。

「いや大喜びするプレゼントが大人過ぎるでしょ!」
「でも嬉しいやろ?」
「嬉しい!」
「しかも煙草やったらなんぼあっても困らんやろ?」
「困ら~ん!」
「ついでに俺のも買ってきたわ」
「もう開けるのが楽しみになってきた!」
「まだ家にサラで六箱くらい残っとるがな」
「確かに」

 車のエンジンが唸りを上げて走り出す頃。ほんの少しの物憂げな気持ちも、大人のないものねだりも、煙のようにどこかに消え去っていた。


大人になるとプレゼントひとつでは喜べなくなるのが、大人になった証拠なのかなと思ったりもする。
ちなみに私は煙草をもらうと大喜びして飛び跳ねます。
ちっとも大人じゃなかったわ。


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藤堂佑
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