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【少女マンガ断想】バレエと少女まんが

2024年、あまり更新頻度は高くありませんでしたが、わたしの記事をお読みいただいた皆様本当にどうもありがとうございました。
今年最後は、書く書くと言いつつなかなか投稿できずにいたバレエ少女まんがの話で締めくくりたいと思います。


先日、昔から好きなバレエ少女まんが、『アラベスク』(作:山岸凉子)と『SWAN』(作:有吉京子)をご紹介する記事を書きました。
どちらも幼少の頃に初めて読んで、わたしの中のバレエのイメージを作り上げることになった思い出深い作品です。

この記事を書くにあたって念頭にあったのが、2013年に京都国際マンガミュージアムで行われた展覧会の図録『バレエ・マンガ 永遠なる美しさ』です。

“日本におけるバレエ受容とバレエ少女まんがの発展がいかにリンクしてきたか”の解説に加え、高橋真琴、牧美也子、山岸凉子などバレエ少女まんがを手掛けた作家のインタビューと作品紹介が掲載されています。
特に何も思うことなく読んでいた数多のバレエ少女まんがには、こんな背景があったのね……! と学ぶとともに、こんなにバレエまんがって沢山あるのか! と驚くなど、大変タメになる冊子でした。

この記事ではバレエ少女まんがの歴史をさくっと追った後、図録を読んで記憶に留めておきたいと思った諸々のことを記しておこうと思います。


バレエ少女まんがの歴史

※Sense of…さんの記事でもバレエ少女まんがの歴史は軽く説明しているのですが、こちらでは図録で初めて知った日本のバレエ黎明期に着目してみます。

バレエが日本に入ってきたのは明治時代。
ですがすぐに根付いたわけではなく、1927年、昭和になってエリアナ・パヴロバのバレエスタジオが設立されてから、一気にバレエ教育が広まったそうです。
もちろん誰もが習えるわけではなく、それなりに財力のあるお家のお嬢さんの習い事ではありますが、他国と比べると鑑賞するより自分が行うものとして定着し、独自の発展をしていくことになります。

余談1
パヴロバのスタジオが開設されたのは江ノ電沿線の七里ガ浜で、わたしの祖父母が住んでいた土地。全く知らなかったので、あそこにそんな歴史が!? とびっくりしました。

戦後、1950年には青志社(現チャコット)がトウシューズ、バレエシューズの製造販売を開始しています。
この頃には国内のバレエ人口が随分増えていたわけですね。
当時、バレリーナとは少女たちの憧れの女性像。本物のお姫様は無理でも、バレリーナなら努力次第でなることが可能な、身近なお姫様でした。

余談2
チャコットのアイシャドウは舞台用だから発色が良くて崩れにくい、という話を聞き、一度店舗に足を運んだことがあります。お店の中はバレエ用品で溢れており、バレエを習っているお子さんや親御さんたちが買い物に来ていて、隅から隅までキラキラ輝いている素敵空間でした。
まんがで培われたバレエへの憧れが染みついているんだなあと実感した瞬間でもありました。

さて、まんがの方はというと、戦後になってストーリー性のある”少女まんが”が登場しました。
少女の憧れの存在であるバレリーナが、少女のためのまんがで描かれないはずがありません。自然と数多くの作品でバレエが取り上げられるようになり、少女たちの夢と希望を一身に受けることになりました。
(特に少女まんが雑誌『少女』はお金持ちのお嬢さんの読み物だったからか、まんがも少女小説もほぼバレエものでは!? というような号も……『少女』については次回少女マンガ断想の記事にて詳述します)

そうしたバレエ少女まんが乱立期に、一際ハイセンスで美麗な絵のバレエまんがで人気をさらったのが高橋真琴

星がきらめく瞳や、ストーリーやコマ割りに関係なく登場人物の全身像を見せるスタイル画など、今日の少女まんが的と言われる表現を生み出した高橋さんのまんがはバレエまんがだったのです。
そういった意味で、バレエまんがは少女まんがの原点と言えるわけです。

またまんが内で描かれたバレエの多くが『白鳥の湖』だったことから、バレエ少女まんが全盛期である50年代後半~60年代前半に「白いチュチュにトウシューズ」というイメージが一般に浸透しました。
さらに実際のトゥシューズはピンクなのに、あまりそういうイメージがないのもまんがによるものかも。モイラ・シアラー主演の映画『赤い靴』の影響で、まんがでは赤いトウシューズがよく描かれました。
現実でも創作世界でもバレエが大人気だったこの時期は、異様にバレエ公演が多く、怪我をするダンサーも多かったのだとか。

70年代に入るとバレエまんがは古いものと思われるようになりましたが、山岸凉子『アラベスク』でまた状況は一変。
踊る体を的確に描き、精神に肉迫した本作の登場で、本格的なバレエまんがの道が切り開かれました。それ以降、”憧れの綺麗なバレリーナ”ではなく”生身の人間としてのバレリーナ”が多くの作家の手によって描かれるようになります。

80年代には実際のバレエ界でコンテンポラリーの大きな流れが生まれ、バレエ好きのまんが家たちに新たなインスピレーションをもたらしました。
60年代に繰り返し描かれたクラシックバレエだけでなく、モダンバレエ、コンテンポラリーも題材になっている現代。バレエまんがは少女の世界に留まらず、広く一般に読まれるコンテンツとして更なる発展を見せています。

新しく得たバレエの知識

わたしは生のバレエを観たことはなくて、まんがから得た知識しかありません。そのため、恐らくバレエをやっている方やファンの方には自明のことでも、図録で初めて知ったことがあれこれありました。

<技術面・用語等>
・プリエをする時に小指に力を入れると足が開く
プリエは、足を外に向けた状態で膝を曲げる動き。”外に”を意識する時、小指に力を入れると良いということなのかな。普段足の小指を意識することがないけれど、言われてみると確かに小指のことを考えるようにすると動きが変わってきそう。

・トウシューズは水につけて硬くしておく
足にフィットさせたり滑りにくくするために、トウシューズを加工することがあるそうです。ただトウシューズは湿気に弱いため、気を付けて作業しなければならないのだとか。

・ユニタード
バレエの練習着=レオタードだと思っていましたが、レオタードの脚を覆うバージョンはユニタードと言うそうです。

バレエのマイムについて
クラシックバレエは物語はあるけれど、セリフやナレーションはありません。言葉がないのにどうやって会話や物語を理解するのかというと、身ぶり手ぶりで表現するのです。
このことは知っていたのですが、驚いたのがマイムは簡単な感情の表現のみならず、細かな所作の違いを駆使して長い会話などもできるのだそうです。
つまり、たくさんあるマイムをきちんと覚えていないと、クラシックバレエを理解することは不可能ということ!
あらすじを知っていれば話を追うのに困りはしないでしょうが、ダンサーごとのマイムに込める解釈の違いまで感じながら楽しむには、相当マイムに精通していなければならないことが分かりました。

<はっとしたこと>
・バレエには恋と結婚が象徴されていることが多い
これもクラシックバレエの話。『白鳥の湖』、『ロミオとジュリエット』、『眠りの森の美女』など、ぱっと思い付くクラシックバレエ作品は、確かに恋愛ものが多いです。そして最後にお姫様が王子様に助けられて結婚したり、結婚することができず悲劇に終わったり……
ジェンダーの視点からバレエを見てみると、新たな気付きが得られそうです。

・イサドラ・ダンカンの衣装はギリシア風!
改めてダンカンの写真を見ると、記憶していたよりずっと”まんま古代ギリシア”!
この頃の古代ギリシアブームは、わたしの憧れでもあります。この時代を生きたかった……。
イサドラ・ダンカンの話題は、以前ファッションデザイナーのマドレーヌ・ヴィオネの記事でもちょっぴり触れました。

<まんがに関連して>
トウシューズの紐のクロスは、本来は光の関係で見えない。見えると足が重く見える
まんがでは大体、足首の上でクロスしている紐が描かれていますよね。そしてそのリボンに少女は憧れるわけですが(わたしもそのクチ)、なんと現実では見えないものなのだそうです……ちょっと悲しい。

・レッスンで滝行
60年代末から1971年まで連載されたぶっとびバレエ少女まんが『バレエ星』(作:谷ゆき子)。この作品ではバレエの稽古として滝行をするくだりがあります。
超展開が話題になった本作なので、滝行もネタだろうと思いきや、当時本当にレッスンで滝行をやっていた教室があったのだとか。なぜ滝行!? と思ってしまいますが、精神を鍛えるために行っていたのでしょうか……。

気になる人、こと

図録の、特にインタビューを読んでいると、知らないダンサーや振付家、映画などが沢山出てきました。その中から今後ちゃんとチェックしたいなと思った事物を列挙しておきます。
(まんがについては、紹介されていた昭和の作品は大方知っていたので、この項は基本バレエに関することのみです。)

・観たいバレエ映画
赤い靴、ホフマン物語、ブラックタイツ、ニジンスキー、ダンサー(ミハイル・バリシニコフ主演)

・ダンサー
シルヴィ・ギエム:10年以上前にtwitterで見掛けて素敵だな、と思いつつも名前が分からなかったバレリーナがこの方だと判明。手足の長い美しいプロポーションと、正確で強さを感じる踊りが素敵です。

ジョルジュ・ドン:モーリス・ベジャール振付のボレロが代表作。youtubeに動画があって、セクシー極まる踊りに魅せられる。ボレロの動画は途中で飽きてしまうこともあるのだけれど、この方の踊りはずっと見てしまう。

ファルフ・ルジマトフ:ダイナミックで力強い、それでいてしなやかな踊りが素敵。バヤデルカや海賊などエキゾチックな衣装に長髪が映えます。

・振付家
マッツ・エック:古典の大胆な新解釈が特徴。カルメンの切り抜き動画を見たら、執念や泥臭さを感じさせつつも気品は失わない振付に驚かされました。他の作品も見てみたいです。

ウィリアム・フォーサイス:コンテンポラリーの振付家。いわゆるバレエ音楽とは全く違う音楽にバレエの動きを合わせている作品は、音楽があまり好みではなかったのですが、ダンサーたちの群れとしての動きに面白さを感じました。

マリー=クロード・ピエトロガラ
:パリ・オペラ座の元エトワールで、ダンサー時代の動画も素敵ですが、彼女が振り付けたゴシックな雰囲気の「シャクンタラー」が圧巻でした。これはぜひ通しで観たい。DVD化されているんだろうか。(なぜかこの動画は最初の方で数秒バグが起こっている……)

・ガルメラ商会謹製・暗黒舞踊派提携記念公演 バラ色ダンスーA LA MAISON DE M. CIVEÇAWA(澁澤さんの家の方へ)
暗黒舞踏の土方巽の公演で、こういうものがあったそうで。澁澤さんはもちろん澁澤龍彦のことでしょうが、不思議なタイトルであります。
公演ポスターは横尾忠則が手掛けていて、当時の文化芸術界隈の濃密な空気を感じます。

・野外バレエかぐや姫
1966年に行われた松尾バレエ団による公演。野外バレエというのも新鮮ですし、かぐや姫のバレエってどんなかしらん? と気になります。
近年では、東京バレエ団も創作バレエでかぐや姫をやっていたようです。

・ピンク・フロイド・バレエ
かぐや姫どころか、ピンク・フロイドもバレエに使われていました。何でもありというか、何でもバレエにしようと思えばなるのだなあと。
わたし個人の感覚で言うと、ばりばりに歌詞のついている曲や馴染みのある曲よりは、クラシックとかインストゥルメンタルで踊っている方が動きに集中できて好きなんですが。最近はフィギュアスケートもばんばんポップな曲で踊ってますしね、様々な選択肢があります。

・ピーターラビットのバレエ
ピーターラビットがバレエになっていることは知っていましたが、最初のバレエ映画の制作が1971年だということに驚きです。しかも舞台の上ではなくて野原でピーターラビットシリーズの動物たちがわちゃわちゃしていてとてもかわいい。舞台の映像はちょろっと見たことがありますが、これは映画の方でちゃんと見たいなあ。

・観たいアニメ
プリンセスチュチュ:バレエがテーマのテレビアニメ。けっこうバレエが丁寧に描かれているようなので気になります。岡崎律子さんが歌っているOPも良いです。

・読みたいまんが
gunslinger girl:アニメは以前観て、わりと好きな作品。原作について、作者が「主観を入れて描く時に少女まんがの方法がぴったりくると思った」と語っているので、どんな描き方をしているのかまんがの方もチェックしてみようと思います。

さらにバレエですらない話ですが、この記事を書くために色々動画を物色している時に見た、フラメンコのファルーカという踊りがめちゃくちゃかっこよかったです!
男性(もしくは男装した女性)が踊ることの多い踊りで、キレのある動きと力強いステップに目が釘付けでした。

観てみたいバレエ

生バレエ未体験のわたしが死ぬまでにぜひ生で観たいな、と思っている作品は、有吉京子『SWAN』に出てきた『森の詩』
真澄の踊るマフカの幽玄さに魅せられ、ずっと気になっているのですがあまり上演されることがないようで……死ぬまでに観られたらいいな。

それから、マリウス・プティパの『バヤデルカ』(ラ・バヤデール)。
wikipediaによると結末が色々あって、
・神の怒りに触れ寺院が崩壊し全員死亡するラスト
・アヘンによる幻覚「影の王国」のラスト
・「寺院崩壊」を復元して主役ふたりが来世(天国)で結ばれるラスト
どれも気になる……!
幽玄な影の王国も美しいし、衣装はエキゾチックだし、ぜひ劇場で全幕通して観たいです。

映画版で一番観たいのはマシュー・ボーンの諸作品。
『眠れる森の美女』がとてもよかったので他の作品も観たいなと思っています。

わたしがマシュー・ボーンの存在を知るよりずっと前に、この図録で萩尾望都がマシュー・ボーンの話をしていて、もっと早く読んでいれば……! という気持ちになりました。

わー、思っていたより大分長くなってしまった……。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
来年もどうぞよろしくお願いいたします。

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逆盥水尾
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