『ここはすべての夜明けまえ』(間宮改衣)が面白かった話
このごろはX(旧Twitter)を控えめにして、本やアニメ、ドラマを楽しんでいる。
何となく始めたことだが、とてもよいと感じている。ひと月ほど前までは寝ても覚めてもXを使い、時間はなくなるし活字を摂取するキャパシティーもなくなるので、普段全く本を読めなかった。活字というものは摂取に限界があったのかと目から鱗の気分だ。
Xを控えめにしてから十冊近く小説や漫画を読んだ。以前ならできなかった速さで、無理なく読めている。本の通販サイトhontoが3月末で紙の本を扱わなくなったので、今度はHonya Clubを利用して近くの書店に本を入荷してもらっている。調子に乗ってガンガン買っているが、果たして今のペースはそれに見合っているのか。
そんな中、気に入った本をいくつか見つけたので時折感想を書いていこうと思う。
私はSF小説を書くのだが、それは最近のことだ。昔は幻想小説を書いていた。SF小説のコンテストに出したら最終選考まで行けたので、意地でも同じ賞でプロになってやろうとほぼ毎年出してたのである。
そんなふうにやっていたら去年も二次選考落ちだった。何だかポッキリ心が折れた。そんな年の同賞の特別賞受賞作である。
未来を舞台にしているのはSFとして基本的な設定だが、独自のガジェットや理論を展開する……ということはない。せいぜい融合手術という言葉が出てくるくらいで、SFらしさは薄めだ。けれどこの作品が特別賞に選ばれたのもよく理解できる。これは普遍的な面白さを備えた作品だからだ。
亡くなった母に似た娘として、主人公の「わたし」は父親に猫可愛がりされて育つ。年の離れた三人の兄姉は彼女と父親の関係を軽蔑し、主人公は兄姉から隔絶した生活を送る。彼女は毎日吐き気がしたり食べられるものがなかったり、希死念慮に悩まされたりしている。
そんな彼女のために、父親は融合手術を提案する。彼女がいつまでも元気で健康に悩まされることなく、若くかわいくいられるための措置である。
本当は死にたいのに、なぜ永久に生きるための手術を受けなければならないのか。けれど彼女はそれ以外の選択肢を許されず、気が変わったのもあって融合手術を受けることになる。すると今まで悩まされていたことがすべてなくなって、彼女は人生を転換させ始めるのだ。
シンプルなストーリーだが、拙く幼い感じのする語りの魅力と、まっすぐに最後まで進んでいくような構成によって最後まで読まされる。現代から始まるのも、SF外の読者にとっつきやすい要素だろう。純文学や私小説の要素もあり、そのあたりを好む人なら非現実的に思える設定も受け入れやすいと思う。
私はこの作品を読んだとき、ハヤカワSFコンテストでもこういう作品が選ばれるのだなと感心した。
シンプルに面白かった。SF小説を読むときはいつも外の世界からその星の人たちの営みを見るような気持ちだったのに、だ。私はいつもSFを書くのに苦労していた。SFというものがよくわからなくて、嫌悪したりSF小説関連のコミュニティーの密さに気後れしたりしていた。
でも、こんなふうでも許されるなら私の居場所もあるかもしれない。そう思えた作品だった。
最終選考に残った私の作品はカクヨムと小説家に載せているので、気が向いたら読んでほしい。それなりに労作だと思っている。