東堂と巻島と坂道とHANABI-小さな峠に寄せて-
弱虫ペダル本編。やっと2年目インターハイ2日目まで読み終えました。名もなき峠で二人きりのレースを何度も繰り返す東堂と巻島。
何度も、というところで私の中にひとつの歌詞が現れました。
もう1回もう1回もう1回もう1回
そう、Mr.ChildrenのHANABIです。
コードブルーの主題歌として有名な曲です。
弱虫ペダルの”小さな峠”は49巻に収録されているお話です。
https://www.akitashoten.co.jp/comics/4253227090
(埋め込みが上手くいかない)
東堂と巻島の別れについてはこちらから
弱虫ペダルSPARE BIKE 8巻
もう一度聞き返し、歌詞を読んで、小さな峠を読み返して。このHANABIという曲は東堂、巻島、坂道の心情に合うのではないかと感じました。そしてなぜ合うと感じたのかを考察してみたいと思います。
あくまで個人的解釈なのでご容赦ください。多分にネタバレが含まれてますし、合わないなと思ったら回れ右でお願いします。
おおまかなあらすじはこちらです。
1.HANABIという曲について私的解釈
この歌の主人公は自分をそして未来を見失いかけている不器用な男性。未来を見失いかけているのに日々はただ流れる。あらがうこともせず流されて、俯いて仕事から帰る帰り道、遠くから聞こえる花火の音にふっと顔をあげた時、今は近くにいない大切な人を求める気持ちが溢れてくる。
儚く消える、でも何度も打ち上がる花火は彼の希望の象徴。花火が次から次へ開く度、彼は希望を掴もうと手を伸ばしはじめる。
大切な人、かつての恋人かもしれないですがこの彼にとってそれ以上にもっと大切な存在なのかもとも思わせます。
不安定で決して平和ではない世界は不器用で嫌いな自分自身であり、世界だけでなく自分を愛せるか?と問うてきます。この歌の主人公の男性は当初それに否定的でした。ただ大切な人を求める気持ちを思い出す中で、男性の気持ちに変化が訪れます。
最後は自分に問いかけながらも答えは出ています。もう一度自分を愛してみようと。
で歌詞は終わっています。
そしてこんな歌詞もあります。
個人的な心情を通して普遍的な思いが綴られています。この男性は今の私であり、世界のどこかにいる誰かなのです。
2.東堂視点
歌詞の一番は巻島にイギリスに行くと告げられた翌朝の東堂の心情に近いと感じました。
彼が実現したいと願っていた”巻ちゃんと共に同じチームで競い合いたい”は巻島のイギリス行きで儚く消えてなくなりました。花火の音をBGMに決定的な言葉を伝える巻島のシーンはとても印象的です。
普段は自信もって前向きな東堂。でもこの朝(昼)だけは違いました。ベッドから降りてふらつく自分に昨夜の事に打ちのめされていたのだと改めて気づきます。
森瑶子さんの小説に時々
身体がぐらりと揺れた
という表現があったかと思います。絶望的な状況に自ら足を踏み出さなくてはならない時に。
それを読んで人が絶望した時は心より身体にまず来るのだと感じましたがこの東堂も同じように見えました。
この歌詞がこの時の東堂を表しているようで聞いていて切なくなります。
ミスチルの音楽には切なさが多分に散りばめられていてでもその切なさを後半どんどんと暖かく包み込んでいく力強さもあり私は元気がない時によく聞いています。
この直後、彼にかかって来た電話でもう一度希望を見出し、彼はまた前を向きあるきはじめます。
花火のように儚く消えるかもしれない、でも何度も手を伸ばし掴みたいという歌詞と東堂の希望を見出す姿がまた重なっているようです。
巻島出国の日、遠くはなれゆく友に東堂は最後の電話をします。見えない相手に向かい手を伸ばす二人。二人が手を取り合う日は再び訪れるのでしょうか。
3.巻島視点
歌詞の2番で語られる不器用な男性は自分の走りに確信を抱く前の巻島のようです。
そんな彼を変えて行ったのは共に闘い高め合うライバルの存在があったからでもあると思います。
最初は嫌いあっていた二人。勝ったり負けたり、お互いを最高で最大のライバルであり友であると次第に認めあうようになります。
でも別れの時は刻刻と近づいています。
留学はパッと思いついて行けるほど簡単ではありません。何ヶ月も前から準備が必要です。
もしかしたら東堂とのレースのカウントダウンを心の中でしていたのかもしれません。一方で迫る時間の中もっともっと勝負がしたいと願っていたかもしれません。留学を決めてからの巻島の内なる心情をいつか読んでみたいなと思います。
最後のインターハイの時に、東堂にありがとう楽しかったよ3年間と言われ素直に言葉で返せなかった巻島ですがイギリス行きを告げた時
と感謝の気持ちを伝えます。
まさにこの歌詞
感謝する気持ちは二人とも同じだったのだと思います。今は会えないけど、出会った事で全てが変わったかけがえのない人がいる。そんな人に巡り会えた二人が正直羨ましいと思います。
弱虫ペダルを読んでいて一番好きな部分はそれぞれの登場人物をとても大切にしているところです。この二人の関係を大切に丁寧に描写しているからこそこんなふうに私の好きな歌と結び付けられたのだと思います。
イギリス行きを告げた日に東堂に10mでもいい自転車で走ろうと請われ応じた巻島。その約束は次の年のインターハイの時実現します。
私はSPARE BIKEから読みはじめたので、早く再会して欲しいという気持ちでずっと本編を追っていました。それが実現してページをめくる焦る気持ちと二人のレースが永遠に続けばいいのにと思う気持ちがごちゃ混ぜになってしまいました。
4.二人のレース
巻島はほぼ1年ぶりに帰国します。そして東堂へ約束通り連絡をとり観客のいない名前のない二人だけのレースが始まります。
このレースをたった一人見届ける者がいます。小野田坂道です。東堂と巻島。伸ばしあった手はお互いの背中に触れ存在を確かめるかのように力を込めます。
この場面のこの手!別れの電話の時にお互い差し伸べた届かない手がようやく届いた!と思って泣きそうになってしまいました。
そしてスタートしたレース。小さな峠は距離が短く、花火のように呆気なく終わったかのように思われます。
しかし一度で終わらず何度もレースを繰り返す二人。
HANABIの今は会えない大切な人を求める歌詞が二人の姿と重なります。
5.坂道視点ともうひとり
ここにもうひとり大切な人に会いたいと願っていた人物がいます。坂道です。巻島はインターハイを見に来ていると金城から聞かされます。でも会えない。今一番言葉が欲しい人が近くにいながら会うことが出来ません。しかし偶然東堂に再会した事で巻島と東堂二人だけのレース見ることが出来ました。
ずっと会いたかった巻島に会えたこと、東堂と巻島二人が競い合う姿をはじめて目の当たりにした事。感動で心が震えてるのがとても伝わってきました。
少し前までは不安をたくさん抱えていた坂道。
この歌は坂道の事を歌っているようにも感じられます。自信がなく下を向きそうになった時、大切な人を求める思いの中から、もう一度前を向く気持ちを取り戻す男性。
この歌詞はレースを見つめる坂道の気持ちそのもののように見えます。
坂道は二人のレースを何度も見られた喜びに明日への希望と闘志をもらいます。
きっと明日はまた何度も壁にぶつかると思います。でもきっと大丈夫。読者にも希望とこのインターハイを見届ける覚悟を抱かせる二人の熱いレースでした。
そしてもうひとり遠くからそれが東堂と巻島のレースだと知らないまま近くの峠で瞬くロードバイクの光を見ている人物がいます。真波です。
真波にはもしかしたらその瞬きが花火のように見えたかもしれませんね。
HANABIと小さな峠のエピソードはたくさん響き合う箇所があり、この歌の普遍性と東堂と巻島、坂道が作り上げたドラマどちらも素晴らしいと改めて思いました。自分の中で見たり聞いた何かと何かが響き合う。ものすごく心地よい気持ちです。これからもたくさんの物事を見たり聞いたり自分が素敵だと思うものを蓄えて、自分の中でたくさんのものを響かせたいと思います。
考察は以上になります。もし良かったらHANABIを聞いて、弱虫ペダルを読んでみませんか?そして明日前を向く力をわけてもらいませんか?