ブタカタルシス。【トリメ】
私はきっと鳥目で、暗いと歩くのが怖いのです。
ある時には、知り合いのお家に行くのに、夜遅くなり、怖くて無理!見えなくて最悪!と思いながら歩いていた道から、1メートルくらい下の田んぼに落ちて、
【急用が出来たので帰った】事があります。
泥だらけになって、痛みもわからないくらい恥ずかしくて。必死で車まで逃げて、すまして電話しました。
【急用が出来たのでお家には行けません】と。
そんな私がある時、友人に連れて行ってもらったお寺で、【真っ暗なところを歩く】ということをしました。200円くらい払ってそういうのをする。というのがあるのです。
まず、何が何だかわからずに行ってしまったので、
【真っ暗なところを歩く】だなんてびっくりして、
「私鳥目!無理!怖い!何にも見えない!」
と、大騒ぎ。
壁から手を離せないまま、足はすくんで前に進めません。
嗚呼、こんなところに来なければよかった。
戻るにも戻れない。
すごく落ち込んでると、
「大丈夫大丈夫。」
友人の声が聞こえました。
「ゆっくり行こう。」
そうか、ゆっくり。
真っ暗で見えないけれど、あの子もいる。
少し落ちつくと、靴を脱いでいた足が絨毯のような感覚をとらえました。
嗚呼、ここは廊下のようなものだ。
人が歩くためのものだ。
そう思ったとたん。恐怖心や不安が一気になくなり、頭の中が一気にひらけて。
私は自分でも驚くほどスタスタと歩いたのでした。
真っ暗で、景色も動かないところで、そんなにスタスタ歩いた事がなかったので、自分の身体と頭がすごくバラバラのようで、ピッタリなようでとても気持ち悪かったのを今でもリアルに思い出します。
スタスタ歩いた足は、頭の中の閃きに向かって動いていたように思いました。
嗚呼、そうか。人生も同じこと。
ここは、世界は人が生きるためのもので、生きているには何がどうでも心配ない。
私は鳥目で、暗いと歩くのが怖いです。
皆と同じで、初めての人生を歩むのは、
何が起こるかわからない、真っ暗な道を歩いているのと変わりありません。
自分が今いるところがどこで、
すべきことは何か。
誰も教えてくれません。
実は生きたままでいるかどうかも自分で決める事が出来て、
自由の極み、それは真っ暗な道を歩いているのと同じこと。
嗚呼、こんなところに生まれてこなければ良かった。
死ぬにも死ねない。
私は私の人生が、ただそれまではあらかじめ
遺伝子に記された情報が見せた景色のようだったのではないかと思います。
私は真っ暗な道で一歩も動かずにそれを見ていました。
真っ暗では何も見えない目で、それを見ているつもりになっていました。
それは幻を見ていたのと同じです。
この世界は真っ暗でした。
でもこの世界は私達が生きるためにあります。
生きていくのなら、何も心配することはありません。
あの時、あのお寺の廊下のようなところで、
私は自分が初めて誰かに、
【生きていてもいい】と言われたような気がするのです。