ゴーストシップ・アクアリウム的 2021年上半期ベストトラック大賞(前編)
半年に1度、「安眠妨害水族館的CD大賞」という企画を行っているのだが、こうもサブスクリプション社会になってくると、"良い作品"の定義が難しい。
1曲のみのデジタルシングルと、10曲入りのフルアルバムを比較して順位をつけるのは、いかにもナンセンスなのである。
そんなわけで、悩むぐらいなら分けてしまおうと。
「安眠妨害水族館的CD大賞」は原点に立ち返って、総合芸術として完成度が高かった作品をランキング化することとし、こちら「ゴーストシップ・アクアリウム的ベストトラック大賞」では、1曲の良さに絞って順位をつけていこうと思う。
なお、レギュレーションは以下のとおりとさせていただく。
① 2021年1月~6月に発表された楽曲であること
② 2021年6月20日時点でサブスクリプションサービスで配信されていること
③ V系シーンをメインフィールドとして活動しているアーティストの作品であること
プレイリスト化して聴くことを想定して、サブスクが解禁されていることを条件とした。
ただし、過去リリースされた作品のサブスク化は対象外。
あくまで、作品としてのリリース日を基準とする。
第20位
WATCHMEN / Rorschach.inc (「WATCHMEN」より)
突如として登場したウサギ型地底人集団による1stデジタルシングル。
ゴリゴリのラウドサウンドと、幻想的なメロディのミスマッチを、個性として昇華。
最先端と懐かしさが入り混じるカテゴリ分け不能のサウンドは、閉塞感のある世の中にあってもガツンと大きなインパクトを残していた。
Vo.ロールシャッハ1号は、ex-イロクイ。のゆーりと関係があるとかないとか。
その他のメンバーも、現代シーンの中心人物。
目が離せないバンドがまたひとつ誕生したと言えるのでは。
第19位
「私ノ死ニ方」 / 鐘ト銃声(【小林アキヒトの一生:序】より)
白塗りに学ランというヴィジュアルが鮮烈であった鐘ト銃声。
密室系/地下室系の文脈で語りたくなるバンドだが、変態的、性的な歌詞を、ごちゃごちゃカオティックに詰め込んだサウンドは、コテオサ系由来のアプローチに近いのかと。
その中で、これでもかとギミックを詰め込みつつ、サビではメロディアスに突き抜ける「私ノ死ニ方」が、導入としては聴きやすいのではなかろうか。
Vo.狂ヰ散流による艶やかな歌声が、Gt.百合子によるエログロナンセンスの作風に、案外似合ってしまっているのも痛快である。
第18位
顚覆 / 洗脳Tokyo(「洗脳Tokyo」より)
ex-カカトオトシ。のメンバーにより結成された洗脳Tokyoの1stアルバムから、リードトラックの「顚覆」をセレクト。
前身バンドがハードコアの匂いがする独自性の高い音楽を志向していただけに、ソフトヴィジュアル系にも通ずるストレートなギターロックサウンドは意外でもあったが、無駄を削ぎ落したことで、より衝動性が剥き出しになった印象である。
メインヴォーカルを担当しているBa.守護霊は、想像以上の歌唱力。
誤魔化しの効かないメロディラインを歯切れよく歌い上げており、曲の良さを際立たせていた。
第17位
影 / LIQUID(「影」より)
仙台を拠点に活動しているLIQUIDの、2021年第2弾となった6thデジタルシングル。
サブスク化の波により、"イントロは短く"というのが現代音楽のセオリーになってきているが、それを真っ向から受け止める長尺のイントロが特徴的なメロディアスチューンだ。
もっとも、一度歌がスタートしてからはコンパクトにまとめていて、振り返ってみると、むしろ衝動的に聴こえているのが面白い。
スリリングなスピード感と、渋みのある歌声。
深いコクを感じさせる1曲であろう。
第16位
BLINDING HOPE / the GazettE(「MASS」より)
3年ぶりのフルアルバム「MASS」に先駆け、the GazettEが配信限定で先行リリースしていたデジタルシングル。
アルバムのリードトラックの役割も担っており、最新のthe GazettEを象徴しているナンバーと言えよう。
リズム隊の重低音はずっしりと響き、インパクト重視のギターのリフは衝動性をもたらしている。
他方、激しさ一辺倒で展開されるわけではなく、繊細なメロディが丁寧に歌い紡がれていたのが印象的であった。
静と動を織り交ぜて、独自の音楽として再構築しているのを見ると、何者かのフォロワーだった彼らも、いつの間にか替えの効かない存在になっていたのだな、と感慨深くなるものだ。
第15位
君は誰の代わりに僕を抱く / sleepyhead(「君は誰の代わりに僕を抱く」より)
3ヶ月連続リリースの第二弾として発表されたデジタルシングル。
ショートフィルムを制作してしまうほどに濃厚な世界観を構築しているのはもちろん、RapやHIPHOPとのクロスオーヴァーを試みたヴォーカルスタイルも進化。
シーンとしては異分子となるも、だからこそパイオニアとしてのカリスマ性を放っている。
クッションを挟まないと、いささかディープすぎるのかもしれないが、ノーガードで飛び込んだほうが新鮮に聞こえるのかと。
メロディアスなサビは、なんだかんだでツボを押さえているのもポイントであろう。
第14位
劫濁 / heidi.(「劫濁」より)
"heidi. Road to 15th Anniversary"の一環として、完全セルフプロデュースでリリースされたデジタルシングル第二弾。
ノスタルジックな世界観は残しつつ、ロック色を強めたheidi.の音楽の新機軸である。
従来のじめじめした世界観を押し出すスタイルから、カラっと乾いた音像の中で、切なくも爽やかな聴き心地をもたらす作風にシフト。
歌い癖もマイルドになり、大衆に受け入れられる土台が完成したと言えるのだが、レトロで歌謡曲的なメロディは頑なに貫いており、彼らにとって守るべき音楽というのが、かえって浮き彫りになった形であろう。
マンネリ化を避ける中で、ベストなところに着地した印象だ。
第13位
インスタ映えない / 生憎の雨。(「ぼくらはみんなサイコパス」より)
メンヘラ系のブームの火付け役、R指定のVo.魔喪によるソロプロジェクト、生憎の雨。がリリースしたデジタルシングル。
後にミニアルバム「ぼくらはみんなサイコパス」にも収録され、その言語感覚の鋭さは、"共感される歌"を生み出すセンスに衰えがないことを示していた。
ギミックの多い楽曲の中にあって、シンプルな音使いで歌い上げるバラードナンバーは異質。
明らかに浮いてしまう側面もあるのだが、だからこそ、構えていたのとは別の角度から涙腺を攻撃されているような感覚で、不覚にも刺さってしまうのだ。
フックとなるフレーズも印象的で、このタイトルを持って来た時点で勝ちである。
第12位
僕らの病名は「人間」でした。/mama.(「僕らの病名は「人間」でした。」より)
3ヵ月連続での配信リリースとなった「3つの錠剤」シリーズの第一弾として発表されたデジタルシングル。
"精神安定剤"をテーマに、正統派のV系チューンに仕上げており、音楽性の引き出しが多い彼らにとって、このシンプルさが、むしろ気持ちが良かった。
インパクト重視のギターソロや、脈絡なく挿入される"ピー"音のギミックなど、嫌味がない程度にベタな要素も取り込んで、王道的に突っ走る爽快感。
ギミック的な衝撃度合いであれば、第二弾、第三弾のほうが大きいと言えるのだが、結局のところ、疾走メロディアスナンバーに惹かれる気持ちが上回ってしまうのだ。
第11位
Switch / 団長×広末慧(「Switch」より)
団長×広末慧による3rdデジタルシングル。
ギラギラしたアッパーチューンであった1st、2ndとは打って変わって、切ない歌モノに仕上がっていた。
儚いシンセのフレーズと、ダンサブルなリズム。
淡々とした展開は、感情を押し殺して気丈に振る舞っているようにも映る。
その代わり、ギターがエモーショナルな部分を担っていて、ドラマティックに物語を演出。
もちろん、NoGoDではなかなか見ることの出来ないVo.団長の愁いを帯びた歌唱にも注目だ。
トップ10は、後編に続く。