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「同じもの」は、同じではないというお話。

AIに出来ないこと。

私はプロのお話が好きで、どこに行っても「プロの裏話」を聞きたがる癖がある。

30年以上前によく通っていたバーのバーテンダーは私が尊敬するプロ中のプロだった。

そのバーには何年も通った。
もちろん注文するのは、ここではカクテル。

そして彼には毎回いろんな質問をした。

ある夜

「ひとつ聞きたんですが、時々僕も言うんだけどカクテルで『同じもの』って、2杯目を頼む人いるけど、本当に同じもの出すんですか?」

彼は一瞬黙り込んで、私の顔を見てニヤリと笑った。

「初めて、そんな質問されました」と声を出して笑った。

そして真顔になり、小声で「先生が想像した通りです。

2杯目はレシピを変えます。少しね。」と言った。

私は「やっぱりね。・・・・・笑」

その後、彼に理由を尋ねた。

彼から返ってきた返事を要約すると以下のようになる。

人間の味覚は最初の一口は美味しく感じる性質がある。

カクテルで言えば、一口目、1杯目が一番美味しい。

だから、2杯目も全く同じだと、1杯目ほど美味しく感じない。

2杯目も美味しく感じて貰うためにはその人に合わせてレシピを変える必要がある。

例えば、アルコールに強くない女性が甘めのジュース系のカクテルを注文した場合、2杯目はさらにアルコールを減らすそうだ。

すると女性は決まってこう言う「美味しい!ジュースみたい!!」(笑) 

逆に、アルコールに強い男性の場合、2杯目はさらにアルコール多目で作る場合もあるそうだ。
味はステアの回数を変えるだけでも変わるものらしい。
プロのテクニックを瞬時に組み合わせているという。
だけど、絶対にレシピが変わったことを気づかせない。

これは、長年の経験と観察力で磨かれるプロの技の一つ。

この話のやりとりの中で彼の口から出た言葉に感動した。

カップル、男性一人、男性二人、グループ、常連、などのあらゆる組み合わせ、そしてその日の気分は?、目的は?、あてに何を食べる?、既に酔ってるのか?、時間帯は、・・etc.

全てを考慮して観察していると、今この時の最高のレシピを手が勝手に作り始める。
意識してレシピを変えるとやり過ぎてしまうそうだ。
言うなればこれは一流のプロの「無意識の技」

ここにも「一期一会」の侘茶の心が生きている気がする。

「カクテルを何百種類作れても、それだけでは一流のプロにはなれない」と、彼の言葉は奥が深い。これは、どんな職業にも通じる。

近い将来、カクテルを作るロボットは確実にできる。

しかし、
彼のようなサービスができれば、AIに仕事を奪われることはないと思う。

成願 義夫

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