着物の図案が手描きだった頃
元々、着物の図案は手描きでした。
用途は型友禅の下絵(原画)です。
私が図案家として独立して10年以上、弟子時代から数えて20年以上、図案は和紙か絵絹(絹本)に描いていました。
描き方は日本画そのもので、最終的に用途が違うだけでした。
だから、着物の図案は『応用美術』と呼ばれます。
一般の人に、私は着物の図案家ですと言うと、「手描き友禅の作家さんですか」と言われることが多いです。
「いえいえ、デザインだけを提供する仕事です」と言ってもピンとこないようです。
その理由は私達図案家の仕事は完全なB to Bの仕事だからです。
クライアントは染または織工場。メーカー機能のある問屋。着物の企画会社などです。
私達の仕事は浮世絵と同じく、版元(メーカー)、絵師(図案家)、彫り師(型製作所)、刷り師(染工場)の4つの柱が分業の基本です。
しかし、浮世絵と違って図案家(絵師)の名前は殆ど表には出ないのです。
だから、明治時代から現代に至るまでほとんどの日本人は私達図案家の存在を知りませんでした。
ところで、一般的に日本画は、和紙か絹本(絵絹)に描かれます。
古い時代には、木や漆喰にも描かれていました。
絵絹に描く場合、技術的に高度な『薄塗り描法』で描きます。
以下の写真のような木枠に絵絹を貼って描いていました。
薄塗り描法は基本的に加筆ができないので、失敗はできません。
失敗は時間と高い材料を失うことになるからです。
よって熟達した高度な技量が必要です。
私達、着物の図案家も昭和60年ぐらいまでこの方法で手描き図案を描いていました。
完成した図案は表装はせずに、白の台紙の上に上辺だけをわずかに糊付けして重ね、納品していました。
その後、その図案は型製作所に回され、型制作の職人さんがトレースして型紙に起こします。
図案の色数がそのまま型枚数になるわけです。ですから型枚数(色数)は最初から決められていることが多いのです。
その型紙を使って染工場が反物に染めます。
先に述べたようり、絵絹を使った薄塗り技法では、油絵(洋画)の様に重ね塗りができません。よって高度な技術が要求されます。
菱田春草、横山大観、上村松園、竹内栖鳳など、昔の一流の画家のほとんどが絵絹に描いておりました。
最近は美術大学の日本画学科でも、本格的に薄塗りを教える先生が殆どいなくなり、学生達は多くの場合パネル張りした和紙に厚塗り(油絵同様に塗り重ねる)描法で描いているようですね。
美術系の大学の卒業展などを拝見することがあるのですが、近年、日本画と洋画の区別がほとんどつかなくなっています。
顔料に混ぜるのが「油」か「膠(にかわ)」の違いしかないようです。
絵絹に描くことが必要な用途としては、掛け軸があります。
軸装した絵は巻くので、厚塗りすると絵の具が割れてて剥離するために巻物は薄塗りが必須でした。
●型友禅の図案家は、基本的に「業界の縁の下の力持ち」です。
つまり型製作所がトレースを完了した時点で図案の役目を終えるので、ほとんど表には出ない仕事でした。
だから、手描き友禅の作家のように名前を出すこともなく、一般の人には知られていない仕事だったのです。
さらに当時は、帯の図案も以下の写真のように手描きで絵絹に描いておりました。
明治以降、一般庶民が絹の着物を着る様になり、着物市場が拡大し、大量生産する必要から型友禅が発明され、着物を安価に大量に作ることができるようになりました。
それらの量産品は、現代も呉服市場の中心に位置付けされています。
近年は型染めの他、インクジェットプリントや昇華転写プリントも量産染色技法の中に加わり、デザインの役割はある意味増大しております。
私達デザイナーもデザインをデジタル化して、様々な染色方法に対応する必要があります。
●結果的にデザイン制作のデジタル化により、和装産業以外の業界にもデザインを提供できる様になり、これまで日の目を見なかった着物の図案家の活躍の場が増えたのです。
現在、成願の会社では年間の売上の8割が着物以外の業界からのご依頼です。それは、千年以上続く日本の伝統的な様式美の型を踏襲し、現代的にアレンジできるからです。
ワールドワイドに日本の伝統美が普遍性を持って受け入れられ、メインカルチャーとしての日本文化を基軸にしたデザインはますます世界中から必要とされています。
そこで、成願は後進を育てたいと考え、図案教室を開講しました。
●現在、成願は着物図案教室を開講し、広くプロを目指す方に学んでいただく場と機会を提供しております。
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成願義夫着物図案教室
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●成願義夫 Jogan Yoshio プロフィール
株式会社京都デザインファクトリー代表取締役
伝統文様研究家、装飾画家、アートディレクター、着物デザイナー、グラフィックデザイナー、伝統産業商品開発アドバイザー
●代表作と最近の活躍
関西国際空港の初代ウエルカムボードのデザイン。
長野県善光寺の納骨堂の納骨壇の扉デザインの他、納骨堂のデザインは多数。
サッポロビールワインラベルなど、手がけたデザインは多数多岐に渡る。
●近況
2018年、秋、成願がデザインした金属製スマホケースが英国ウェールズ国立博物館に永久保管決定。
2018年、冬、和柄をテーマにした民放テレビ番組に解説者として出演。
2019年、春、ジョルジオアルマーニビューティー主催のイベント講師に招かれる。
2019年、夏、京都駅ビルのフォトスポット四箇所のデザインを手がける。
2019年、秋、京都高島屋のバイヤー向け『伝統文様勉強会』講師を務める。
2020年、埼玉県秩父市の招きで2日間に渡り講演会と伝統デザイン勉強会を開催。
2022年、NHKのテレビ番組『美の壷』に出演。
●近年はグラフィックデザイナー、壁面装飾画家、着物デザイナー、伝統文様研究家、伝統産業の商品開発アドバイザー、講演家として、テレビなどにも出演し、幅広く活躍中。
著書は、和柄デザイン素材集を10冊以上執筆。総販売数は40万冊を突破。
また、著書の大人の塗り絵『和柄のヒーリングぬり絵ブック』(PHP研究所発行)は、累計6万5千冊を突破していまだにロングセラーを続けている。
成願の和柄デザイン素材集は日本中のデザイン事務所に、必ず1冊以上置かれていると言われている 。