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マエストロ・セイルーロの構造化トレーニング(Entrenamiento Estructurado) 2


フランシスコ・セイルーロは長年FCバルセロナでフィジカルコーチとしてヨハン・クライフやペップ・グアルディオラとともに働きました。現在はFCバルセロナでスポーツメソッド・ディレクターをしています。また、大学教授として、マスターコースで「構造化トレーニング」理論を教えています。

マエストロ・セイルーロがサッカー選手のスピードについて述べています。

「私は君に言うことがある。FCバルセロナで最もスピードのある選手はペップ・グアルディオラだ。君は多分、 NO ? と言うだろう(フィーゴやセルジの方がもっとスピードがあるじゃないかと)。私はその週のスピード・トレーニングで、バルサの選手の中で、誰が最もスピードがあるかテストしたんだ。それはある状況を設定したスピード・トレーニングで、5m〜20mの距離を、ストップ、スタートなどを織り交ぜたものだ。グアルディオラはセルジより速かった。そう、グアルディオラは予測してセルジより先にスタートを切るんだ。このトレーニングを実行中は味方の配置を見ながら、こっちの方向か、それともあっちの方向に行くべきか瞬時に決めて、グランドの特定のポジションに到着しなければならない。そのトレーニングで一番はグアルディオラだった」

サッカーにおけるスピードとはなんだろうか!?

最近は、「◯◯選手が試合中に時速何キロで走った!」と言うように「移動のスピード」に注目が集まる傾向がある。もちろん、「移動のスピード、動きのスピード」が速いに越したことはないが、上記のようにペップ・グアルディオラが、その当時のFCバルセロナの選手の中で、最もスピードがある選手だったのだ。それはもちろん、「移動のスピード」が速いと言うことではない。ペップ・グアルディオラと言えば、今でこそ、監督としての姿で有名であるが、選手時代はパスの名手で長短のパスをワンタッチ、2タッチで素早く前後左右に回すインテリジェンス溢れる選手だったように記憶している。彼はほとんど、センターサークルから出ることなく、グランドの真ん中で指揮を振るう選手だった。この見るからに痩せていて、筋肉もあまりついてないような選手がその当時のFCバルセロナの中で最もスピードのある選手であり、強いて言うなら、近年のスペイン代表の中で最もスピードがある選手なのだ。このスピード・トレーニングでシャビやイニエスタも高いレベルのスピードを持っていることがわかっているが、一番はグアルディオラだと言うことだ。


フランシスコ・セイルーロが提唱するサッカーにおけるスピード


サッカーにおけるスピードの定義

「少ない時間である一定の距離を走ることのできる選手ではなく、試合の中で起こる様々なプレー展開を最適な形で分析、実行、解決できる選手」

1. スタートのスピード(3m〜5m)
 マークを外してパスを受ける。または敵のパスを予測してパスをインターセプトする等。

2. 介入(プレーに参加する)のスピード(2m〜3m)
 1対1、ストップ、ターン、素早いサポート、ボール・ポゼッションをするのに必要な能力。

3. リズムの変化(20m〜30m)
 突然、最大のスピードでプレーを始め、それを維持する。

4. 実行のスピード(2m)
 ある特定のアクションを実行するか、様々なアクション・テクニックを最大のスピードで実行する。
 (ボール・コントロール、ターン、シュート等)

5. 間欠的スピード(3m〜5m)
・中間で止まったり、スピードを落としたりする中で、連続したアクションを最大のスピードで実行する。
・最大のスピードか90%のスピードで様々な方向に走ったり、止まったりする。

上記5つのスピードはテクニックや戦術トレーニングの中で一緒にトレーニングをする必要がある。
その中で、最も重要なスピードは「リズムの変化」であり、最もトレーニングしなければならない。セイルーロがスピード・トレーニングをプランニングする場合は「リズムの変化」だけをトレーニングするそうだ。なぜなら、その他の4つはサッカーのトレーニングの中ですでに実行されているからである。
その他4つのスピードもそうであるが、リアルな状況設定(ゲーム形式等、決断や状況判断の要素が入ったもの)の中でトレーニングをしてスピードを獲得する。

サッカーには関係のないスピード
1. 移動のスピード
 (時速何キロで走った、50m走や100m走もこれにあたる)

2. スピードの持久力


スペインサッカーコーチングコースのスピードの定義

サッカーには2つのスピードがある:

・選手のスピード

・プレーのスピード


選手のスピード:

・動き始める前のスピード
(1. 判断のスピード(情報を集めるスピード)  2. 意思決定のスピード)

・動いた瞬間と動いている間のスピード
(1. 動き始めのスピード   2. 移動のスピード)


プレーのスピード:

・攻撃のスピード
1. 組織化された攻撃のスピード「ボールの出口(ビルドアップ)」「プレーの前進」「ダイレクトプレー」「ファイナルゾーン」のスピード。

2. 守備から攻撃への切り替えのスピード「カウンターアタック」「攻撃の再構築」のスピード。

・守備のスピード
1. 組織化された守備のスピード「ボールの出口への守備」「プレーの前進への守備」「ダイレクトプレーへの守備」「ファイナルゾーンの守備」のスピード。

2. 攻撃から守備への切り替えへのスピード「プレッシング」「後退」「プレッシングと後退」のスピード。

上記がスペインサッカーコーチングコースのフィジカルトレーニングの授業で学んだスピードの種類である。講師のアルベルト(当時エスパニョール・カデテ(中学生年代)のコーチ)は、「一応、コーチングコースでは「移動のスピード」があることになっている。だけど、ほんの少しだけだよ。フランシスコ・セイルーロは「移動のスピード」は、サッカーに存在しないと言っているよね」と授業で話していました。

スペインでのサッカーにおけるスピードの定義

「チームおよびプレーヤーのコンディション能力は、試合中の異なる刺激や必要性への迅速かつ正確(最良)な運動反応を可能にする。チーム及びプレーヤーのコンディション能力は、試合中に最良なアクションと認識を効果的に発揮するために必要な運動を 素早く実行することを可能にする。
サッカーに必要な能力は良好なコンディション能力(スピード)だけではない。コンディション能力とコーディネーション能力(テクニックとバランス)と意思決定(知覚の質)が相互作用しているので、一緒にトレーニングをして獲得する必要がある。」
Adaptado de Massafret (1999)

プレーヤーのスピードに影響を与える要因 (スペインサッカーコーチングコース)

・認識能力(運動反応のための試合中の情報を集める能力)
・選手のコンディション
・コーディネーションとサッカー特有のテクニック(目的を達成するため神経系と筋肉に有効性があり、直接プレーに効果を与える)
・疲労に耐える能力(耐乳酸能力:乳酸がたまって苦しくても運動を続けられる抵抗力)

サッカーは陸上競技ではなく、個人スポーツのように反応速度を競うスポーツではない。サッカーは誰もスタートの合図をすることはない。陸上競技は自分のことだけに集中するスポーツであるが、サッカーは自分のプレーに集中しながら、チームの一員としてプレーし、集中しなければならない特別なスポーツである。

現在のサッカー界では、「移動のスピード」ばかりに目が向いていないだろうか。どこかのクラブチームに入るには50m走を何秒以内で走らなければならないとするところもある。もし、単に「移動のスピード」を評価するだけだったら、グアルディオラも、シャビもイニエスタも、また、そのような才能を持ったインテリジェンスのある選手を見逃す可能性があると言うことだ。

サッカー日本代表に就任したハリル監督も「日本選手は速いが、プレーは速くない」と言っている。私たち日本人は、もっともっとサッカーについて深く理解する必要性を感じる。

参考文献:
・UNA LÍNEA DE TRABAJO DISTINTA Francisco Seirul.lo(Junio 2000)
・Seirul·lo Vargas, F. (1998).
 Planificación a Largo Plazo en los Deportes Colectivos.
・PREPARACIÓ FÍSICA 2N NIVELL. Federació Catalana de Fútbol

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坂本 圭  フットボール進化研究所
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