フットボールのダイヤモンド・オフェンスにおける攻撃サポートの構造化 4 〜イントロダクション〜
ここからが、スペインサッカーコーチングコース・レベル3(S級相当)卒業論文の本編である。
1. イントロダクション
1.1 イントロダクション
フットボールは相手ゴールを攻撃する楽しいスポーツである。フットボールを愛する多くの人々はゴールシーンを観たい、ゴールを決めたいと思っている。しかし、フットボールの攻撃戦術はほんのわずかしか研究されていないか、もしくは一般のサッカーファンに公開されていない。反対に多くの人々が守備戦術について話し、多くの組織的守備についての書籍が出版され発展している。
私の知る限り、1974年のW杯において、オランダ代表が展開したトータル・フットボールが現代フットボールにおける攻撃戦術の進化の始まりだったと思う。
トータルフットボールの起源
1950年代初期に、オーストリア人のヴィリー・メイスルによって考案された「渦巻き」理論がトータルフットボールの原案であるとされている。
トータルフットボールの特徴
初めてこれがフットボールの攻撃戦術の進化だと実感したものを実際に観たのは1992年の12月に国立競技場(当時)で開催されたヨーロッパと南米のクラブチャンピオンが世界一を争うトヨタカップサッカーであった。この試合のヨーロッパチャンピオンとして出場したドリームチームのFCバルセロナを目の当たりにしたのだ。これこそ、私が観たかったフットボールだと実感したことを覚えている。
そのゲームで最も興味深かったのは、FCバルセロナの選手の配置であった。グランド横いっぱいに選手が開き、グランドに均等にバランス良く選手が配置され、観ていてとても美しく感じたものだ。ボールだけがリズム良く動いて、システムは変化していないように見えるのに、ラウドルップは「偽りの9番」として神出鬼没であり、ストイチコフは左サイドにポジションを取ったと思ったら、シュートシーンでは右サイドにいたり、3バックの両サイドバック(フェレールとビチュヘ)はワイドに開いて高い位置を取り中盤に参加する。ピボーテの4番グアルディオラは相手コートでプレーをしているとき、ほとんどのプレーがセンターサークル内であり、CBのクーマンが、時折、攻撃に参加するため中盤に参加する。攻撃時にディフェンスが3人とも中盤まで上がってしまうのだ。これが全員攻撃であり、スペクタルなフットボールなんだと、当時、驚愕を覚えたものだ。
試合は、FCバルセロナがサンパウロに1対2で逆転負けをするのだが、そのバルサの美しい配置と勇気のあるスペクタルな攻撃的フットボールが頭から離れなかった。
ドリームチームを生で体感したのは、それが最初で最後だった。
このドリームチームのFCバルセロナのプレースタイルのアイディアが本研究の動機であり、ファイナルゾーンにおいての攻撃戦術「セットオフェンス」を研究することにした理由である。
ダイヤモンド・オフェンスとは攻撃の方法論であり、ファイナルゾーンにおいて4つの優位性を獲得し、シュートチャンスを創ることを目的としたものである。
4つの優位性とは?
1. 数的優位 (Superioridad numérica)
2. ポジション優位 (Superioridad posicional)
3. 質的優位 (Superioridad cualitativa)
4. 社会的感情(選手の関係性)の優位 (Superioridad socio-afectiva)
上記の4つの優位性については後の章で説明する。
この攻撃戦術は、相手の予測の逆をつき、驚かせ、常にボールを失った場合の守備体系を予測しながら実行する。
ダイヤモンド・オフェンスはテックス・ウインターが考案したトライアングル・オフェンスの方法論をベースとして、他の集団スポーツの攻撃方法を参考にしてフットボールに適応させた攻撃の方法論である。