フットボールのダイヤモンド・オフェンスにおける攻撃サポートの構造化15 2.2.3 どのようにファイナルゾーンのプレーを最適化するのか?
2.2.3 どのようにファイナルゾーンのプレーを最適化するのか?
フットボールのダイヤモンド・オフェンスはセットオフェンス・メソッドの一つである。テックス・ウインター(2007)はセットオフェンスについてこのように説明している:
セットオフェンスのおもな目的は適切な得点チャンスを生み出すことであり、これはすべてのオフェンスの基本的な目的でもある。この目的を達成するためにはいろいろな方法があるが、すべてのコーチが理解しなければならないのは「どのような方法を用いるかではなく、その方法をいかに実行するか」ということである。
セットオフェンス・メソッドの一つであるトライアングル・オフェンスを使い、テックス・ウインターと組んで11回もNBAチャンピオンに輝いた名将フィル・ジャクソン(2014)は「トライアングル・オフェンス」のコンセプトについてこのように説明している:
トライアングル・オフェンスでは、フロアの「ストロング」サイドに、サイドライントライアングルを3人のプレーヤーによって形成するのだ。しかし、私が好んでいるのはトライアングルオフェンスを「5人で行なう太極拳」と考えることだ。なぜなら、トライアングル・オフェンスは、ディフェンスの位置取り自体に応じて動く、すべてのプレイヤーを巻き込むからである。この考え方は、ディフェンスに闇雲に向かっていくということではない。ディフェンスが何をしているのかを読み、それに応じて反応するということである。
この「トライアングル・オフェンス」のコンセプトをフットボールの「ダイヤモンド・オフェンス」に導入した。「トライアングル・オフェンス」にも多くの攻撃パターンが存在するが、その攻撃パターンが重要なのではなく「トライアングル・オフェンス」の基本的なコンセプトを理解することが大事だと考える。
集団としてチーム全員がある決まったポジションを取り、相手チームのリアクションによって、どこにオープンスペースができるのか、そのオープンスペースを有効利用して攻撃するのが「トライアングル・オフェンス」のコンセプトであり、フットボールの「ダイヤモンド・オフェンス」のコンセプトである。
さらにテックス・ウインター(1997)は相手がゾーンディフェンスだった場合の「トライアングル・オフェンス」のポイントについてこのように説明している:
ゾーンに対するオフェンスパターンのポイントは、あるエリアをオーバーロードし、その結果生まれるオープンエリアへカットすることである。
図22:例:右WGがCFWのゾーンにオーバーロードする(OF:2-3-2-3対DF:4-4-2)
テックス・ウインターの説明をフットボールに当てはめて考えてみる。
ゾーンディフェンスの場合、各プレーヤーがディフェンスをするゾーンが決まっている。各プレーヤーのゾーンで通常は、ディフェンスプレーヤーとオフェンスプレーヤーが1対1の状況なっており、相手ディフェンスラインは数的優位を保つ。例えば、相手ペナルティエリア前の内側レーンでディフェンス側の左CBとオフェンス側のCFWが1対1の関係であったとする。そのゾーンに、攻撃側の右WGが「オーバーロード」をして侵入したとする。ディフェンス側の左CBは攻撃側のCFWと右WGの両方を監視し、ディフェンスをする必要が出てくる。ディフェンス側の左CBから見て数的不利(1対2)の状況になってしまうのだ。このゾーンに右MFからパスが入ると攻撃側の得点チャンスである。そこで、ディフェンス側の左SBが左CBを助けるために自身のゾーンを出て、左CBのゾーンに入ると今度は、今まで左SBがいたゾーンがオープンスペースとなり、オフェンス側の他のプレーヤー(例:右SB)がその空いたスペースでパスを受けるように動く。これが相手のプレーを読み、相手のリアクションに応じてポジションを取るということである。
オフェンス側のプレーヤーの1人が「オーバーロード」をして配置を変えることで、ディフェンス側にディフェンスの配置を変えるのか、変えないのかの選択を迫ることになる。相手ディフェンスはその選択に迷うことになるだろう。これが「トライアングル・オフェンス」のコンセプトであり、フットボールの「ダイヤモンド・オフェンス」のコンセプトでもある。
「オーバーロード」は、オフェンス側が、どこかのゾーンに「数的優位」「位置的優位」「オープンスペース」を意図的に発生させるためのものである。そのオフェンス側が優位性を獲得した状況に対して、相手ディフェンスがどのようにリアクションを起こすのかを読み、その相手のリアクションに応じてオフェンス側が反応していく、これが私が考える「ポジショナルプレー」であり、フットボールの「ダイヤモンド・オフェンス」である。
ペップ・グアルディオラ(2014)は、オフェンス側のプレーヤーが動くことによって相手ディフェンスのポジションが変化することをこのように述べている:
私たちは相手の組織構造を変更させなければならない。それが私たちの目的だ。
オフェンス側のチームは相手ディフェンスを支配し、オフェンス側がのぞむ方向へ相手ディフェンスプレーヤーを誘導する、もしくは排除することである。これがポジショナルプレーのコンセプトであり、その手段がダイヤモンド・オフェンスである。
このポジショナルプレーのコンセプトは集団プレーのアクション要素でもある。オフェンス側が幅と深さを同時に取ることがポジショナルプレーの基本的な要素であると考える。アレックス・サンスとセサル・フラッタロラ(2009)はこのように説明している(前の章でも説明したが):
ボール(ボール保持者)の前のラインと後ろのラインのプレーヤーは、常に深さを確保しなければならない(15−20m)。
アレックス・サンスとセサル・フラッタロラの説明を補足すると、オフェンス側のプレーヤー間の距離を15−20mに保つことの重要性について2人は述べている。ボール保持者の前のラインと後ろのラインのプレーヤーが15−20mの距離を保つことはライン間のバランスを保つことにつながり、オフェンスプレーヤーにスペースと時間を与えることになるだろう。オフェンス側がスペースと時間を確保した状況でポジショナルプレー、ダイヤモンド・オフェンスを実行することが重要である。
次に、フットボールのダイヤモンド・オフェンスはボール保持者の後ろに必ずサポートのプレーヤーが入る。これはボール保持者に安全なパスコースを確保するのと同時に、ボールを失った場合、ボール保持者の後ろのプレーヤーが「カウンタープレッシング」を実行することが可能となり、相手の「カウンターアタック」を避けることができると考える。このようにフットボールのダイヤモンド・オフェンスは、オフェンス時にオフェンスプレーヤーがオフェンスをしながら、ディフェンスの準備をしているのである。
用語:
※セットオフェンス:オフェンスにおいて、ファストブレイクとアーリーオフェンスを除いたもの。チームがボールを保持した後、ファストブレイクを試行せず、オフェンスの態勢を整えて行われるオフェンス。〈同〉遅行、ハーフコートオフェンス
※ストロングサイド:バスケットとバスケットを結ぶ仮想線(ミドルライン)でコートを縦に2分した2つのエリアのうち、ボールがあるほうのエリア。〈同〉ボールサイド 〈対〉ウィークサイド、オフボールサイド、ヘルプサイド
※オーバーロード:あるエリアにおいて、ディフェンスプレイヤーの人数よりも多くオフェンスプレイヤーを配置させること。
※カウンタープレッシング:これはカウンターアタックにプレッシングをかけることである。巨大な可能性を発見するにつれ、ますます多くのチームがそれを使用している。ボールを失った直後に相手にプレッシングをかけ、相手に素早くトランジションを行わせず、守備側のチームは守備ブロックを形成し、さらに良ければボールを相手陣内で奪取することができる。
引用・参考文献:
バスケットボール用語辞典. 監修:小野秀二, 小谷究. 廣済堂出版. (2017). 31. 82. 94.
ウインター・テックス. バスケットボール:トライアングル・オフェンス. 監訳:笈田欣治. 訳:村上佳司, 森山恭行. 大修館書店. (2007). 2.
ジャクソン・フィル. イレブンリングス. 共著者:ディールハンティー・ヒュー. 訳:佐良土茂樹, 佐良土賢樹. スタジオ タック クリエイティブ. (2014). 82.
Perarnau, Martí. Herr PEP. Roca adicional, (2014). 220-221.
FCF. “Apuntes Tercer nivel CAR El juego Colectivo.” (2017). 31.
FourThreeThree フットボール統計学:4つの局面とカウンタープレッシング現代の守備システム(前編)(2017. 2.11) http://fourthreethree.blog.jp/four_phases.html