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金井暁(月刊アフタヌーン編集長)×吉川きっちょむのマンガ語りvol.3を見てきました

 泥ノ田犬彦先生に拝謁してきました。恐らくもうお会いする機会は無いでしょうから(サイン会などが開催されるか分からないため)、そのつもりで拝謁しても仕方のないことなのでした。



 過去記事。読んだ時の衝撃を書きました。

 映画『正欲』と『君と宇宙を歩くために』の共通点について。



 「金井暁(月刊アフタヌーン編集長)×吉川きっちょむのマンガ語りvol.3」
ゲスト 石川雅之先生(『もやしもん+』)、泥ノ田犬彦先生(『君と宇宙を歩くために』)

 を観覧してきました。


 どうやら『もやしもん』ファンが多いらしく、前列には石川先生の強オタが多かったです。こんなことなら『もやしもん』を予習してくれば良かった、と思いました。
 同じ卓に座った女性たちも『もやしもん』ファンの様子。
 しかも内1名はサイン色紙を当ててました。それにあやかってスマホで撮影させていただきました。本当にありがとうございます。

 石川先生はと言うと、お茶目で可愛らしいおじさんという印象。今度『もやしもん』を学習しておきます!

 泥ノ田犬彦先生は『マンガ大賞』を受賞された時に映像がYouTubeなどに上がってますから、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。
 実物もほっそりとしていて可憐で、お顔はワンちゃんフェイスでしたが瞳は涼しげで優しさが伝わってきます。お声は鈴の音のように軽やかできれい。お肌は真っ白な陶器のごとし美しさでした。
 お隣に登壇されている石川先生のお話を聞いている姿も真剣で、全ての所作にお人柄が現れているようでした。

 そんな犬彦先生ですけど『東京人魚』のような短編も描かれてるんですよね。
 しかも学生時代に描いた短編は牛を解体するお話だったとのこと。
 しかもしかも、ダークな短編を現在構想中だそうで。
 なんというか、ありがとうございます、という感じです。
(何に?)

 聞いた話によると、浦沢直樹先生も『Happy!』を描いたのは『MONSTER』とのバランスを取るためだ、みたいなことをおっしゃっていたような。
(うろ覚えです。暗いサスペンスと明るいスポーツを同時に描いてたのがすごい)


 トークイベントは先生お二人の創作についてのお話がメインでした。
 石川先生と泥ノ田先生の創作の仕方に違いがあるのが大変興味深かったです。

 泥ノ田先生は最初に実写ドラマのように人物が登場する映像が頭に浮かぶそうです。
 それらの人物が何を考えたり発言をしたりするのかを、そのドラマの中に入って体験するとのことでした。そして登場人物の中に憑依してその人物として思考したり発言したりするそうです。
 発言はスマホで音声メモとして録音するそうです。

 それを受けて石川先生が「それは大変でしょう」と心配されてました。
 泥ノ田先生はネーム作りが毎回とても体力と気力を使うとおっしゃってました。

 一方石川先生は、浮かんだままをネームにするとのこと。言わば完成原稿がすでに頭の中に存在していて、それを紙に起こす、という感じなのでしょうか。
 なんというか、天才ってこういう人のことか、と思いました。
 作画をお一人でなさっているそうで、ものすごく時間が掛かると嘆いていらっしゃいました。


 泥ノ田先生は一番最初の担当編集と、ギャル格闘技を描こうとしていたそうですが、それが上手く行かず、そのまま断筆しようかなと考えていたそうです。
 ですが天啓のごとき傑作のBL小説を浴びてしまい、それに打ち返すために漫画家として再起したとのことでした。
 浴びてしまったらもう描くしかない、というようなことをおっしゃっていて、とても印象深かったです。
 石川先生もそれに同意されていました。
 石川先生にとっての「浴びた作品」はなんだったんでしょうか。
 水木しげる先生に言及されていたので、その辺りにルーツがあるのかも知れません。


 泥ノ田先生のように何かを浴びて撃ち抜かれ、それを打ち返す振る舞いが人にはあるのでは?と思い至りました。
 例えばスポーツ。
 スポーツに取り組む人たちがトップアスリートを観ても絶望せずに鍛錬を続けるのは、そのアスリートのパフォーマンスに撃ち抜かれたからでは?
 そうなれないとしても、スポーツを辞める理由にはならない。

 将棋もそう。
 小説もそう。
 そもそも「生きる」ってそういうことなのでは?
 どれだけ大金持ちを見てしまっても、いくら自分が貧乏で不幸だとしても、それでも生きてしまうのは、すごい人間を観てしまったがゆえにその魂に撃ち抜かれたから、生きざるを得ないのではないでしょうか。

 園子温監督が『ヒミズ』を撮った際に、「絶望に勝ったんじゃない。希望に負けたんだ。だから生きた」ということを言っていました。

 この世界にある希望。この世界という奇跡。人の輝き。
 それらが僕を絶望させ沈ませるのではなくむしろ無理矢理立ち上がらせる。

 僕にとってその浴びるきっかけは哲学かも知れません。

 僕は自己啓発セミナーのような「こうすれば成功する!気合い入れて金持ちになろう!」みたいなのが嫌いです。
 それよりも今回のトークイベントで感じたような、「世界はすごい。世界を切り取ろうとするマンガも素晴らしい。マンガが存在する世界を生きるしかないじゃん、だって面白いんだもん」みたいな空気感の方が好きです。

 つまり勝ち負けじゃない。
 それよりも「僕が考えた最強の世界観」を見せ合ってワイワイやってた方が楽しいな、と思いました。

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