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愛しきものの幸を願う。『異刻メモワール』感想

リアルでの数少ないお友達、イラストレーター・るんたさんの漫画『異刻メモワール』最終巻が先日発売された。
本人へ直接送った感想のnoteへの掲載OKをもらえたのでここに載せる。
ネタバレ前提なので気になった方は先に購入してから読んでいただきたい。

漫画連載がスタートしてからずっと、読みたい読みたいと思いながら、どうしてか熟読できずにいました
私はweb漫画という媒体で読むことがとても苦手でなおかつ数年、精神的によろしくない状態が続いていたので
一コマが大きく情報量があり、行間に情緒のある物語への集中力がなかったのです
本当に申し訳なくて、こんな状態で大好きな人が魂を込めた漫画を読むわけにはいかないと
買うだけ買って本棚に大切に置いていました

そこから何年も経ち、最終話のみwebで見て号泣した後
最終巻である3巻が発売されて、手元に物語が全て揃いました
気合いを入れてページを開き直すと、さらさらと読めて驚き
まだ二人が出会ったばかりの何も起きてないシーンでボロボロ泣いて何度も手が止まりました

リツちゃんと出逢ったばかりのトモくんは深い人間不信を抱えていて、どこに行こうと誰の顔も怪物に見えるほど心に余裕がなく
「どうしてこんな辛いところに居なくてはいけないのか?」「逃げ出すことは出来ないのか?」
と苦しんでいたように思えます
トモくんには視えてない負の感情が黒い目と口の水玉? 泥?の形でトモくんに憑いて回り、
無尽蔵に湧いて出てくるのをリツちゃんや周りの異刻人(種族名の正式名称あったらごめんなさい)たちは知っていて
超常的な力で一気に吹き飛ばすのではなくトモくん自身に寄り添い、強い味方となることで
一歩一歩と乗り越えさせていったのがとても印象的でした
自己肯定感とは、誰かに深く愛された経験がなければ、なかなか心に根づかないもので
「こんな素敵な人に大切にしてもらえた」という体験は他に代え難いです

リツちゃんの手引きで連れて行ってもらった異世界の街は、現世(現実)と似たところがありつつ
独自の文化が花開いた魅力的な美しさがあり
モノクロの漫画の中であっても豊かな色彩を感じさせ、感触がありそうなリアリティをもって迎えてくれます
楽しいね! と無邪気に駆け回るリツちゃんをトモくんと共に読者(私)が追いかける中、
大切な人と離れ離れになってしまった黒髪の子と出会うなどして
少しずつ『異刻』がどんな場所なのか開示されていくのがゾクゾクしました

寿命を迎えた動物が現世に引き返そうとして空から降り、迷い込んだところ
探し人と合流し、なんの障害なく再び空へと戻れるところ
姉妹との違いに悩んだ人魚が"外"を目指して入り込んだところ
再び元の海へ戻ってきた後「またおいで」とリツちゃんに誘われても、容易には頷かず「もう少し頑張ってからにする」と答えるところ

行こうと思えば行けるけれど、行ってから引き返すのは難しい場所
それはあの世とこの世の境目なのではないでしょうか
地獄でも天国でもない、優しい心の持ち主であふれた理想郷
そこに住んでいる異刻人は祀られるべき神様たちなのか、留まり続けることを選んだ別のナニカなのか?
何か、こうして正体を考えるのも、とんだ野暮な気がします

柔らかく暖かい愛を沢山受け取ったトモくんは「迷い込んだけれど、もう帰りたくない」と
たびたび口にするしリツちゃんも「もちろん、いていいよ」と明るく肯定してくれますが
本当にずっと、トモくんが"トモくん"のままで異刻にいることは出来なかったのだと思います

私を始めとする一部の読者が、異刻で食べ物を口にするトモくんを見て
「黄泉戸喫に該当し、現世に帰れなくなるのでは」と懸念を抱いていましたが
黄泉戸喫が『あの世の穢れた食べ物を食べること』で起こる現象だとして
特に穢れていない、異刻にとって普通の食べ物をいくら食べても何も起こるはずがなかったのだなとなりました

心が満たされて現世に戻った時、浦島太郎のような時間差現象は起こらず
トモくんは行方不明になった空白の時間すらなく、異刻での思い出を残したまま? 現実の悩みを少しずつ解消していきました

帰ってきてから何年も経ち、プレゼントにもらったブレスレットの紐が経年劣化で千切れてしまった時まるで境界を越えるようにリツちゃんが現れ、紐を直してあげようか? と提案し
トモくんは「大丈夫」「直し方は教わったから」と優しく断る

異刻メモワールは、このやりとりが出来るようになるまでの
思い出作りの物語だったのかもしれないと思い、エグいくらい泣きました
"このままずっと、生きている間に会えなくても、貴方は僕の大切な友達"を直接ぶつけてもらったというか
二人だけの秘密を特別に覗かせてもらったというか読ませていただき、ありがとうございましたとしか言えないです
本当にお疲れ様でした……!

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