換骨奪胎ならざるもの。even if TEMPEST 宵闇にかく語りき魔女レビュー
はじめに。
これは一個人の思い込みに満ちた感想であって、事実とは異なる可能性が大いにある。
『テンペスト魔女』をかなり批判する文章になってしまったので、ファンは閲覧非推奨。
また『ファイアーエムブレム風花雪月』と『テンペスト魔女』のネタバレを大いに含むので、そちらにも注意して読んで頂ければ幸い。
公式略称『テンペスト魔女』は2022年に発売されたSwitchのDL専売乙女ゲーで、
ショートカットの女騎士主人公と悪魔的なビジュアルの謎の存在が並ぶイメージイラストが
非常に魅力的だったので、セールを機に購入した。
主要人物のキャラクターデザインや声優については全く下調べをしていなかったのだが、
まずメインヒーローと呼べる王子ルーシェンのビジュアルとボイスを知って悪い方向に驚いた。
『ファイアーエムブレム風花雪月』に登場する主役級キャラクター・ディミトリと髪型やテーマカラーが非常に似通っており、担当声優も同じだったからである。
ストーリーを進めていくと更に二人の攻略対象が現れた。
翼騎士団の副団長クライオスと異端審問官ティレル。
彼らもまたディミトリと同じ『青獅子の学級』所属の人気キャラクター・シルヴァン、フェリクスと外見的特徴がおおよそ被っていた。
特にクライオスは「軟派で女性にモテるが本気にはならない」というシルヴァンと表面上似た性格で、声優もまた同じであった。
隠し攻略対象であるゼン以外は、何かしらの元ネタをにおわせていた。
『ファイアーエムブレム風花雪月』が発売されたのは2019年。
『テンペスト魔女』が発売されたのは2022年。
キャラクターが出揃った段階で変な汗をかいた。シナリオが回り始める前から嫌な予感がしたのは初めてだった。
これほどの要素が偶然に重なることなどありえないと思ったからだ。
風花雪月はストーリーとキャラの魅力でSRPG未経験の女性ユーザーからも高い人気を博したとされる。
そのキャラクターデザインと雰囲気をオマージュさせた乙女ゲームが出てもおかしくはない。
出せば確実に一定量売れるからだ。
とはいえ見た目が似ていて、声優も同じキャラクターが何人かいても、それぞれの身分や立ち回りが大きく異なっているならそれは別ものと呼べる。
魔女の烙印を押されて磔刑にされた主人公が自分を貶めた相手に復讐を誓い、転機となった八年前まで死に戻って騎士となり
ヒストリカ国に巣食う本当の敵・破滅の魔女の弱点を知り、打ち倒そうとする。
正式な騎士として認められる直前の日をターニングポイントとして様々な選択肢をたどり、騎士団や異端審問官など異なる角度から魔女の所業を目撃し、味方と共に対処する。
ストーリーの本筋は、学舎に属して戦争に参加する風花雪月とは大きく異なっていた。
証言をもとに理性を失った猟奇殺人の犯人を見つけ出す流れは『逆転裁判』や『ダンガンロンパ』を彷彿とさせたが、推理を必要とするアドベンチャーである以上はどうしても似たり寄ったりにもなるだろう。
しかしストーリーが進み"真相"があきらかになると、私は強く失望を覚えた。
「この世界を作ったのは創世の女神であり、人間に裏切られて死亡した」
「女神の肉体は腐敗せず残り、魂のみが転生して主人公となった」
「主人公を産んだ生母は生来病弱で、出産と引き換えに命を落とした」
「主人公が手にした特別な力は女神が所有していたものであり、主人公は女神の力を"取り戻して"いく」
開示されたこれらの設定は風花雪月における女神ソティスと主人公の関係性をほぼそのまま踏襲しており、
「破滅の魔女は女神の仕者にして末っ子であり、女神を殺した人間を恨み、深く呪うと共に肉体と魂を揃えることで女神の復活を夢見ている」
破滅の魔女が凶行に走り主人公に執着する理由も女神ソティスの末娘レアとほとんど同じである。
世界設定そのものに風花雪月からの引用があまりに多いのだ。
ここまで重なると「クライオスは五感を徐々に失う病にかかっており既に痛覚、味覚がない」
という個人のバックボーンですらもディミトリの味覚障害をスライドさせたものに思えてきてしまう。
エンディングムービーで、特に伝記物というふうでもないのに
幻想水滸伝やファイアーエムブレムで恒例の「サブキャラクターの後日談(エピローグ)」が立ち絵付きで流れたとき。
私はゲーム側から答え合わせをされたように思い、とてつもない徒労感でため息をついた。
ファンディスク『even if TEMPEST 連なるときの暁』では、設定の大幅な上書きが行われた。
女神は機械生命体的な上位存在によって造られた存在であり、女神自身に人心を理解する力が欠けていたために命を落とした、という"真相"が描写されたのだ。
その他、風花雪月を下地にしたと感じさせる部分を極力廃していこうという気配が漂っていた。
バレて嬉しいのがオマージュ、バレると困るのがパクリ、というどこかで聞いた言葉を連想した。
主人公の忠実なる従者マヤ、主人公の継母エヴェリーナと義理の妹オーラ、宮廷画家メイルなどサブキャラクターはどれもオリジナリティがあり魅力的だった。
猟奇殺人に至るまでの描写も真に迫っていて、グッとくる展開もあった。
ただ、テンペスト魔女という物語の根底に他のゲームの影響を強く感じすぎて、このゲームシリーズを合計一万円以上かけて購入したことへの強い後悔の念ばかり残ってしまった。
最初にも言ったが、テンペスト魔女はDL専売乙女ゲーなので返金や返品が不可能だし、中古に売りに出すこともできないのだ。
「どうせやるならもっと噛み砕いて上手く持ってこいよ、いくらなんでもまんますぎるだろ」などという獲物を運んできた野生動物への感想みたいな言葉しか今は浮かばない。
何かいいシナリオ読みたいな、と漠然と青い鳥を探していた私に
「自分がいま本当に読みたいものは自分にしか書けないのかも……」という決意をさせたのは不幸中の幸いであるかもしれない。