その目は視ている。『ふるやモノノ怪』感想
リアルで10年以上親しくさせていただいている漫画家ラクトいちごさんの漫画『ふるやモノノ怪』一巻が、ついこの間発売された。
脳直かつ散文的にしか感想を書けないので少し悩んだものの、せっかくなのでご本人にメールで感想や考察を送ってみた。すると予想以上に喜ばれ、noteへの掲載OKをもらえた。
感想文の箇所がいきなりいい加減な敬語になっているのはそういうわけである。ほとんど原文ママ。
当たり前だが内容を知っていることを前提に書いているので、気になった方は先に購入してから読んでいただきたい。
◯あらすじ
幼少から"大きな目"の怪異と関わりを持ち、命を救われた見返りに「歪みを正せ」と命じられた少年・剣持秋人。
高校を卒業するも家に居場所はなく、バイトで食いつなごうとするも不採用が続く。
悩む中、ふらりと立ち寄った骨董品店にバイト募集のチラシが貼られていた。
置かれた品々のただならぬ気配を気にしつつも店主•入江に気に入られ、バイトとして働き始める。
しかし入江は剣持の"視る力"と剣持に憑いた"大きな目"に気づいていた。
◯感想
分冊版で1〜3話分を読んでいて、4話のみ紙の本で読んだのですが
1、2話は世界観と主要人物の説明に重きを置いていて3、4話で物語の本格始動、一気にお話が転がっていき
"この漫画で描きたいサビ"が見えてきたようで
一冊読み終えて何だかすごくスッキリ(?)しました
こういうことだったのか〜みたいな……
クロちゃんの言う「歪みを正せ」は呪いに変わる最後の一線を越えて「歪んでしまったもの」には適用されない
というのはかなり情報として大きかったですね
3、4話の彼岸花の愛人は"先生"への執着が捨てきれず、いっそ生きているうちに心中を図るような攻撃性を出せていれば
犠牲者を出す強い呪いにまではならなかったかもというやるせなさが漂います
彼女を連れて行った式神が、鳥などの暖かみを感じる姿ではなく機械的生物ともされる昆虫の姿なのは
入江さんのビジネスライクな性格が反映されてそうです
「彼岸花の女に換えが効かないほど愛されている」という万能の自信のもと、ひたすら自分にとって都合の良い言葉を垂れ流す"先生"は
おそらく誰のことも本気で愛したことなんてなかったし、自分以外の人間にも心があるとは夢にも思ってなかったタイプのクソ野郎だなぁとなり
人を呪わば穴二つとばかりに4話ラストで死亡して「まぁそうなるでしょうね」と溜飲を下げたのですが
呪いのせいで死んだのか、恨みを買った人間による他殺なのか、原因が明確でない感じが好きですね
ホラーでよくある"一番怖いのは人間"系、鉄板すぎて食傷ぎみとまで言われますが、そうなるだけの理由が人間にはある……人間は愚か
剣持くんがレジ打ちや商品整理などのバイトらしい仕事を割り振られずに掃除ばかりなのが気になっていたんですが、
それは入江さんのお店が骨董屋の皮を被った呪物屋さんで、取引は全て彼が行っているし
呪物の山が人を遠ざけさせ、ウィンドウショッピング的一般客なんて来ないので
掃除くらいしかやらせることがないのかも? と納得しました
というか1話の段階で「君に興味ある」って言ってたのも、フラッと店に来る=顧客か霊視可能な人間確定だからだな……となりました
バイト欲しかっただけなのにデッカイ神か呪いっぽいクロちゃんまで憑いててラッキー、みたいな
「人を信じたって裏切られるだけだよ」
「優しくしたって感謝されるとは限らないよ」
「周りが見えていないのにカワイソウだけで救おうとしたって何にもならないよ」
そんな言葉をこれから剣持くんは沢山投げかけられる予感がするし、たしかに後先考えない若さ一本でかな〜り不安定ではあるのですが
目の前で泣いている、悲しんでいるナニカor誰かに対して
愚直に手を差し伸べようとする善性は希少であり誇れるもの、賞賛されるものであってほしいなと強く思いました