思い出がありすぎて…。
家の近くにあって、なのにといえばいいのか、だからと言った方がいいのか、来づらかった「南昌飯店」。
まるでボクらのダイニングルームのように一時期使っていた店。
中国かぁさんはボクのことをお兄ちゃん、タナカくんのことを弟と呼んで本当にかわいがってくれていた。
彼が逝って一週間くらいした頃だったかなぁ。
たまたま街でばったり会ったカァさんが「ひさしぶり、弟は元気?」って聞くから「亡くなったんです」って答えたら、両手を合わせて「御愁傷様、さみしいネ」って言ってくれた。
いつも街角で会うと「また来てね」、店先で会うと「ご飯は食べたの?」って明るく声をかけるかぁさん。でもそれからたまに顔をあわせても静かに頭を下げるだけ。その気遣いがありがたく、甘えてずっとこなかった。
そろそろかなぁ…、と思ってお店の前でしばらく気持ちを整えてやっとお店の中に入った。
なつかしいなぁ…。
いつものテーブルをもらって座って、なんで目の前に彼がいないんだろうって思ってちょっと気持ちが揺れたけど、いつもたのんだ豆苗と餃子に今日のおすすめメニュー。
麻婆麺とミニチャーハンのセットをくださいっておかぁさんに言ってちょっとニッコリしてみる。
落ち着いた?って聞かれて「まだまださみしいネ」って答えたら、無理しないでゆっくりネって言われて頷く。さみしいよ。
ニンニクがバッチリ効いた豆苗炒めは、タナカくんのビールのお供。
ふっくらとした水餃子と焼き餃子の中間みたいな食べ心地の餃子も好きで必ずたのんだ。
ちょっと甘めの麻婆豆腐が醤油スープをおいしくさせる麻婆麺もオキニイリ。
しっとり系のチャーハンはどちらかといえばボクの好みで、あんまり彼は手を出さなかった。ただ豆苗チャーハンっていう豆苗と枝豆を具材にしたチャーハンだけはシャキシャキとした食感が好きだったんでしょうね…、たのむとふたりで奪うようにして食べあった。それで今日はチャーハンの上に豆苗おいて、豆苗チャーハンみたいに食べた。
黙々と食べていたら、かぁさんが来てそっとティッシュを箱ごと置いた。
食べることに夢中で必死で気づかなかったけど、ずっとボクは泣いてたらしくて鼻水までも出てたんだ。ゴメンってティッシュで顔を拭いてたら、「泣くのは生きてる証拠だから」って言われて声を出して泣く。