おしみなくもてなす勝烈亭
空間でもてなす
熊本に「勝烈亭」というとんかつ屋さんがある。
来るたび感心させられることがたくさんあって勉強になる店で、来るのがいつもたのしみ。
アーケード商店街の外れの外れ。
しかもメインの商店街から一本入った路地に面したお店です。
にもかかわらずいつもニギヤカ。地元の人ばかりかインバウンドの人たちも多く集まり、雨というのにテーブル席はほぼ一杯。
横浜の馬車道に「勝烈庵」というとんかつ屋さんがあって、こことそことが「勝烈」を名乗るお店の双璧だ…、とボクは思ってる。
特に熊本の勝烈亭は「惜しみなくもてなす」という点において、おそらく九州一じゃないかと密かに思う。まず空間が豊かです。テーブル、椅子、床材、壁と素材は本物。通路も広く、カウンターの一人あたりのスペースもゆったりしていて隣がまるで気にならない。
おすきなだけ、おすきなように…で、もてなす
それにテーブル、カウンターの上がにぎやかです。
ポン酢にドレッシングが2種類。ご飯のおかず用にと高菜が壺に入って食べ放題。
胡麻もたっぷり壺に収まり、芥子にソースがたっぷり2種類。
まず漬物と大根おろしになめたけがくる。お茶はポットに入って置かれ、ゆっくり待ってというメッセージ。
厚切りのヒレとロースの盛り合わせをたのんでみました。
それでちょっと時間がかかった。
大きな皿にどっしりとしたとんかつ二枚。千切りキャベツにご飯に赤出汁。キャベツやご飯、汁はおかわり自由だという。決して安い値段ではない。けれど安い値段をつけてしまうと、ご飯のおかわりは一回だけとか、キャベツはおかわりできませんとか、世知辛いルールを作らなくちゃいけなくなっちゃう。とんかつ以外のものはみんなおかわりしたきゃしていって…、っておしみないこと、ありがたきかな。
厚さでもてなす
さてとんかつです。厚切りを謳うだけあって分厚い。その断面はヒレとロースで趣ことなる。
ロースは脂がしっかりのってツヤツヤ輝きしっとりしている。噛むとジュワッと肉汁染み出し脂がとろける。ヒレはきめが細やかで若干オーバークロックかなぁ…、熱がしっかり入ってふっくら崩れる。どちらもパン粉がおいしくて、口の中でカサカサ散らかり肉の風味を膨らます。
なにより歯ごたえ。
前歯を包み込むようにしてサクッと切れて、顎にドスンと響く歯ごたえは厚切りだからこそ。
ステーキもそう。
肉を食べているという醍醐味は、ある程度の厚さがあればこそ。
ただ時間がかかる。揚げる状態を均一に保つことが難しくもある。だから店としてはできればやりたくない料理。
けれどそれを推しにする。おしみないなぁ…、とまた思う。
ソースでもてなす
胡麻をすらずにパラッとちらし、ソースもつけずまずはそのまま。
塩と胡椒がしっかりほどこされているからでしょう…、十分おいしい。ただ肉そのものの旨味や風味は若干弱い。やっぱりソースの出番となります。
ソースは2種類。ひとつは濃度の高い洋風ソース。
スパイシーで甘み、酸味のバランスがよく擦った胡麻との相性もよい。
もう一種類は和風ソース。
サラッとしていて出汁の風味を感じるウスターソースと醤油の間のような風合い。とんかつの味がスッキリ、軽くなる。
肉そのものの味に対するこだわりよりも、ソースと一緒に食べて本領発揮するようできたとんかつ。高級とんかつでないかぎり、ボクはこれがいいんだと思う。
肉の味にこだわったところで、個体によって味は若干違って当然。いつも同じように仕上げることがお客様に対する礼儀だから、技量、経験が相当にある人でなくては調理できなくなっちゃうものネ。おそらくそれって焼肉なんかも同じこと。タレやソースにこだわれば、それがお店の味にもなってく。ピカピカのご飯も汁もおいしくて、繁盛店の原理を教わる。お勉強。