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蒸したの、焼いたの、小籠包

食べると絶対に口のどこかをやけどする。
唇だったり舌のどこかであったり。
注意しながらそっと食べ、口も舌も無事だと思ったら喉の入り口をしたたか焼いたりすることがある、なのにそれでも食べたくなるもの。

焼き小龍包とはにくめぬゴチソウ。

食べたくなると新宿の阿杏という店にくる。
読みはそのまま「ああん」。女性点心師がはじめた小さな店で、小籠包がめっぽうおいしい。

蒸し小籠包もある。
それもおいしい。
台湾からやってきて手広くやってる有名店の小籠包が普通の小籠包に思えてしまうほど。ボクの口にあっている。
サイズは若干小さめで、熱々でなければ一口でポンッと舌の上にのっかる大きさ。
小さなお皿に針生姜。黒酢を注いで生姜に染ませ、レンゲに乗せた小籠包の上に数本乗っけてふうふう。息をふきかけ冷ましてパクリ。

まず熱い。
そして目で見た大きさを裏切るずっしりした重さにびっくり。
おいしい香りが鼻を伝って流れ出してくる。
舌をそっと上顎にあて、力を入れるとプチュっと潰れて口の中の温度が上がる。
生地の中に蓄えられていた肉汁の旨味が口に広がっていく。
プルンとなめらかな生地がとろけて豚ひき肉と一緒に消える。もっと時間をかけて味わいたいのに呆気ないほどプルンツルンで終わってく。
豚の脂‥、つまりコラーゲン分をたっぷり含んだジュースです。上顎を舐めるとスベスベ、しばらくすると張り付くような食感独特。ウットリします。

一方焼いた小籠包は若干厚めの生地の底だけ油でバリッと焦げて仕上がる。生地そのものが油をたっぷり蓄えているからでしょう‥、なかなか冷めない。
おいしい香りがひときわ強烈。
だからすぐにでも食べたくて、どこをどのように攻めればいいのかしばし観察。焦げたところは強敵ぽくって上半分に歯を当て力を入れてみる。
なかなか歯切れず、結局かなりの力を入れて噛むことになり、結果、食卓は大惨事。
中から肉汁がプシュッと飛び出す。
その勢いの激しいことや、水鉄砲の勇ましさ。しかもどこに向かって飛び散るのかまるで予想もつかなくてテーブルの端やら床やら、気づけばシャツに染みができてた。白いシャツを着てきてしまったことをしたたか後悔しました。しょうがない。

考えてみれば、分厚い生地がオーブンの役目をしてる。
熱を蓄え、くるんだ餡を加熱調理していくわけです。生地を剥がして中だけ食べれば熱々だけど、適度に熱いオーブン料理。
けれどこれはオーブンの役目をしていた生地も一緒に食べる。つまりオーブンを口の中に入れて食べているのと同じこと。
熱くて当然。でもだからこそ肉の旨味をもれなくすべて味わうことができるゴチソウ。
少々の熱さに負けぬ口が欲しくなっちゃいます。

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