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哺乳瓶を壁に叩きつけたくなる夜【長男6ヵ月5日】
深夜2時、ワンオペの授乳。
哺乳瓶を息子の口に差し込む瞬間が1日で最も緊張する。
息子は基本的に寝ている時しかミルクを飲まない。
起きているときに哺乳瓶を咥えさせても、まるで酷いいじめにあっているかのように叫ぶか、あるいは親の顔を見て笑いながら乳首を舐め回すかだ。
そのうえ寝ているときだって、簡単に吸い付いてくれるとは限らない。
哺乳瓶が口に入った瞬間に首を振りながら腕を顔の前に持ってきて防御の姿勢をとり、最悪の場合、暴れているうちに目を覚ましてしまうこともある。
つまり、寝ている息子に刺激を与えない繊細さ、吸引可能な深さまで哺乳瓶を押し込む思い切りを両立させる必要があるのだ。
息子を起こさないよう、ベビーベッドからプレイマットへと移動させる。
腕が垂れ下がったまま動かない。
どうやら今夜の眠りはかなり深いらしい。幸先は良さそうだ。
150mlのミルクが入った哺乳瓶を手に持ち、息子の唇に優しく触れさせる。反応はない。
そのまま乳首を口の中に差し込むと、息子が首を振って嫌がる。まだ想定内だ。
焦らず、再度、乳首を息子の口に差し込むと先ほどより激しく左右に首を振って嫌がる。
パチッと息子と目が合う。しくじった。
瞬間、期待していたぶん激しい失望と怒りが頭に広がり、哺乳瓶を思いっきり投げて壁に叩きつけたくなるが、どうにかグッと我慢する。
わざとらしく音を立てて哺乳瓶を机に置き、大きなため息を吐く。
ほんの少しだけ、隣の部屋で寝ている妻が心配して起きてきてくれないかなと思うが、物音がしないのでホッとする。
心を落ち着かせて、改めて息子を見ると、ジッとこちらを見つめて笑っている。
親の顔を見ただけで綻んでしまう、何もわかっていない無邪気な笑顔にまた神経を逆撫でされる。
「もう、なに笑ってるのー?」
いつもより少し暗い声で、でもできるだけ優しく目を見て息子に話しかける。
我ながら、とても偉いなぁと思う。