【第十一話】お稽古場は門前の小僧システム|しがない勤め人、国立文楽劇場で藤娘を舞う
お稽古場にいる時間そのものが学びとなる
待合、というのだろうか。
お稽古をつけてもらう部屋の隣りに、
順番を待ったり着替えをしたりする部屋がある。
(勤め帰りなど、洋服で来てゆかたに着替えてお稽古をする人もいる)
畳にちゃぶ台が置いてあり、門人の憩いの場ともなっている。
ちゃぶ台の上にあるお菓子は自由に食べてよい。
門人の誰かが持ってきたり、おっしょはんが舞台やイベントご出演の後は差し入れが山盛り放出されたりする。(イェーイ、ありがとうございます!)
わたしは「部室」みたいだな、と思っている。
高校生のころ所属していた吹奏楽部の部室に、
年季の入った重厚な円卓があった記憶と重なるのだ。
“円卓の騎士”なんて、意味もわからずエラそうに言ってたな。
練習の前後、そこには誰かしらいて、円卓を囲んでだらだらべちゃくちゃおしゃべりしていたものである。
30年以上も前の話。まだあるのかな。
昔話はさておき。
入門したての頃、あこがれの姉弟子Yさんが、
ご自分のお稽古が終わった後も長々とここにおられるのが疑問であった。
数年後の今、わたしは同じようなことをしている。
お稽古の前後は極力用事を入れず、早めに来てギリギリまで居座っている。
門前の小僧、である。
おっしょはんの後ろ姿が見える。
ゆったりと楽な背中、
落ちた肩から続く長い腕、
すんなり伸びたうなじ。
全身が有機的に連動している姿。
ああ、なにを食べたらああなれるんだろうか・・・<稽古や稽古!
お、この曲は前にお稽古つけてもらったやつだ。
そうそう、そこ難しいよね〜
え、そんなこと言われなかったなぁ・・・
あ、そうすればよかったのか!
これはまだお稽古してない曲だ。
いいなぁ、次はこれをやりたいなぁ。
あ、お稽古お疲れ様でした!
いまお稽古されてるの、なんて曲ですか?
はー、ちょっと一休み・・・お茶飲ませてくださーい
稽古が一段落したおっしょはんがちゃぶ台エリアにやってくる。
われわれ門人はお茶を淹れつつ、
アタックチャーンス!
とばかりにあれやこれやお伺いするのである。
(続く)
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