【第二十二話】下稽古は聞いてないことばっかり|しがない勤め人、国立文楽劇場で藤娘を舞う
本日のミッションその1、かづらあわせが終わりホッとひと息。
仮香盤でましたよー
おっしょはんが巻き紙のようなものを手におっしゃる。
香盤、プログラムですな。
わー、わたし大人の部トップバッターですやん!大丈夫かな…
※出番は未成年、一般 ・孫弟子、一般 ・ 直弟子、新名取(名取披露)、名取の順である。
わ、これ好きなやつ!出番終わってソッコーで着替えたらみれるかな?
これもいいよね〜(いつかやってみたいリストに入れとこ)
あら、だれだれちゃんは出ぇへんのか・・・<さみしそうなおっしょはん
などとキャッキャうふふしていて、ふと、
あ、そろそろわたし着替えなくては…
おっしょはんはじめみなさん、きれいなきもの姿。
もうすぐにでも舞える格好である。
わたしだけ近所のコンビニに行くようなヨレヨレの普段着。
うっ、特に服装の指定はなかったけどちょっと恥ずかしいな…
楽屋を借り、お稽古用のゆかたに着替え、裾をつける。
(本番では長いきものを着て裾を引くので、
巻きスカートみたいな補完アイテムがある)
せんせー、着替えてきました〜
わ、お袖も長ごうにして、バッチリやね。
まあでも、今回の下稽古はすごいな!
小道具使わせてもらえるみたいやし、よかったなぁ。
ちょっと触らせてもろて、自分の番までに慣れておいてな〜
言われてみれば廊下には小道具がズラリ。
えええー、聞いてないよー!?
(若干パニック)
※私は想定外のことに非常に弱い。
ああっ、前回のお稽古!
おっしょはんのいう通り、小道具使っておけばよかった・・・
わたしのバカバカーっ!
まあ過去を悔やんでもしかたがないので、
気を取り直して小道具さんに声をかける。
すいませーん、藤娘なんですけど・・・
(四十路のおばちゃんが自分のこと娘っていうのはこっぱずかしいな)
小道具さんに手渡されたのは長ーくて立派な藤の枝!
なにこれ・・・
ちょっと振り、やっといてなー
せ、先生、何からやったらいいんですか・・・<硬直
あー、せんせい行かないで〜
※おっしょはんはおいそがしく、すぐにどっか行ってしまう。
(お弟子が4人、ご本人も出演するのでしかたがない)
※何度も言うが私は想定外のことにめっぽう弱い。
ひとり取り残されボーゼンとしていると、救いの神登場。
ほら、たえちゃん、はようせな!
はい、最初の構えして!
〽︎ヒトメセキガサ、ヌリガサ、シャンート〜 <藤娘の出だしを口ずさんで
新名取のHねえさん!(感涙)
心強い援軍あらわる。
ねえさんは一昨年、小劇場で藤娘を舞われた経験者。
当時はまだ一般・孫弟子Aさんだった。
新型何ちゃらで世の中わちゃわちゃしている間にも着実にお稽古を重ね、
晴れて今日、名取披露なのであった。
私なんかこれ(藤の枝)見たの当日だよ!
もうどうしようかと思った〜
下稽古で使えるなんてよかったやん。
ほら、もっと難しいとこ、あそこんとこもやっとこ!
そうだったそうだった。
ねえさん、涙目になりつつも直前まで藤の枝の練習してはったな〜
しかし小心者の私は、長い藤の花が廊下を擦るのが気になってしかたがない。
(傷めてしまいそうで・・・)
軽く一回さらって、そうそうに返却。<気が弱い
そうこうしているうちに、下稽古(リハーサル)の順番が回ってきた。
最初はおっしょはん、続いて新名取の姉弟子さん3人がそつなく終了。
(やはりルビコン川を渡った猛者達は度胸が違う<技量もやで)
しんがりの私はというと…
(続く)