【白川郷】 聖地巡礼・雛見沢紀行(四) 骨まで食べ尽くせるヤマメ
民宿の料理は、こんなにも豪華なのか……!
たぶん民宿にもよりけりなんだと思うけど、山菜たっぷりの小鉢に加え、飛騨牛から川魚までさまざまな品が膳にならんでいる。
飛騨牛の上には舞茸がのっていて、火が通るにつれて脂がとけ、舞茸の風味と渾然一体のかおりを立て始める。
まずこれだけで、ご飯が二杯ほどもいけるよね。
これは腕のタレや、小皿の塩で食すのだが、まずはそのままかじり、次の味変でそれらの調味料を楽しむ。
これではご飯が足りなくなりそう。
でも大丈夫。
一人につき一つのお櫃がついていて、ご飯はそこからいくらでもおかわりできるので。
囲炉裏には串に刺した川魚。
たしかヤマメだったかと思う。
食事が進むうち、満をじして葉っぱのような形の皿へ置かれゆく。
「これ、熱いうちに食べなきゃ損なやつだよね」
ほかの皿へむけていた箸をいったん置き、さっそくその串を手に取るが……、
「やべえ、食べ残すところが一切なかった」
串以外きれいさっぱり胃袋へ消え失せてしまった。
つまり、骨も頭もぜんぶ食べ切ったということ。
囲炉裏の炎の、遠赤外線か何かは知らないけれど、奥までじっくり火が通っていたおかげで骨まで柔らかかったのだ。
ゼンマイなどの和物、茄子の煮浸しなど、山の里ならではの小皿も綺麗さっぱり消滅させたら、いざ仕上げに五平餅へ。
食後のデザートがわりに五平餅。
もしここで洒落たリンゴのジュレとかそんなのが出てきたら、まあ美味しいには違いないけど、雰囲気的に「これじゃない……」感がただよったと思う。
中部地方の山間部ならではのデザート。
うるち米の餅を平くして、味噌ダレで炙った素朴なおやつ。
特にわたしは、味噌は赤味噌系が好きなので、にこにこしながら平らげたのであった。
◯
食後の、闇がおりた白川郷……否、雛見沢で。
車を走らせ、高台を目指す。
昼間は観光客が、白川郷を見下ろすロケーションで記念撮影で賑わう場所も、夜ともなればひっそり静まり返っている。
深夜には程遠い時間帯なのに、まるで午前2時あたりを過ぎたかのような静寂さ。
雲なのか霧なのか判然としない、白いものが風にのって疾り、
「神秘的……といいうより、不気味で怖い」
闇夜を縫うように流れる白い霧の中に、なにかよからぬ存在が隠れているようで、もはや一刻も早く宿へ逃げ戻りたくなる。
雛見沢では、昼間は愉快な仲間たちによる賑やかなエピソードがてんこもりなのだが、一歩道をはずれると、不意に不気味な何かが口を開けて待っている。
そうした、雛見沢の裏側に眠る「底知れぬ何か」を肌で実感してみた気分になれた、夜の散歩だった。
早朝。
日常では遅寝遅起きのわたしでも、空気がおいしい山奥にいると、妙に早起きとなった。
いや、前夜の段階で「え、まだ10時なん? もう深夜っぽい雰囲気なんだけど……」びっくりしながら、早めに就寝しちまったしね。
で、その早朝の民宿の外へ出て、山の斜面を流れ上り、または滑りおりる雲だか靄だかを眺めていると、地元の中学生らしき女子が制服姿で自転車を走らせてゆく。
部活か何かの、朝練でもあるのかな。
◯
朝の食膳には、またも朴葉味噌。
えのきだけやネギ、飛騨牛などが添えてある練り味噌をあぶり、またもご飯が何杯でも口へ吸い込まれてゆく。
ここ三日間ずっと朴葉味噌を連続で食べていることになるのだが、正直なところ……、
「毎日たべても飽きる気がしないや」
なんなら、味噌にそえる具材はいくらでも変化をつけることができるし。
実際、我が家へ帰還した後は朴葉をどっさり買い込んで、自分で練り味噌を作り、ほぼ毎日のように食べ続けたものだったしね。
◯
残り、雛見沢に点在する〔ひぐらしのなく頃に〕のロケ地撮影地点をつぶしていったところで、ついに去ることとなる。
物語の中では、主人公・前原圭一の両親(どうも同人作家をやってるっぽい)は、ことあるごとに東京へ行っては、仕事の打ち合わせをしていたが、交通機関がさそかし大変だったろうな……。
さて、わたしは雛見沢から北上し、日本海側へ出て、そこから高速道路へ乗ることにした。
庄川沿いに走ると、やがて平野部に。
お腹がすくお昼ごとには、手打ちうどんの店を見つけて入る。
開店する直前の時点で、少し行列ができていた。わたしが席に着く頃には、もう大行列になっていた。
いざ「みそホルモンうどん」という、なんだか精のつきそうな名前のうどんだったが……。
とても美味しいんだけど、その量が尋常ではない。
〔手打ちうどんアラキ〕……その名前は深く、我が胸に刻みつけた。
その後は道中の温泉で、日帰り温泉の壮観な岩風呂を楽しみ、高速道路へ乗って、上田へ近づいたところで、
「あれだけ凄い量のうどんを食べたのに、さすが夕方になると空腹になる……」
インターチェンジで降りて、行き慣れた上田の刀屋の、これまた尋常ならざる量の蕎麦をたいらげ、この旅のしめくくりとしたのだった。
なお。
この時の旅の思い出をここで書いているうちに、例の「尋常じゃない手打ちうどん」が懐かしくなり、先日、数年ぶりに訪れてしまったが、それはまた次回の講釈にて。