【白川郷】 聖地巡礼・雛見沢紀行(二) ご飯の天敵・朴葉味噌
「この、でっかい葉っぱがうかんでる汁、いったい何なん?」
白川郷の湯へチェックインし、いよいよ食事となった卓にならぶ品の数々を見渡す。
昆布か何かの出汁が張ってある金属の皿だが、そこに浮かんでいる緑の物体、どう見ても昆布ではない。
もしかして、朴葉かな?
これが沸騰した時、お餅や豆腐を茹でて、それをネギ味噌で食べる趣向らしい。
不思議な、心地よい香りが鼻腔を吹き抜ける逸品だった。
なお、本日の戦績(めぐることの出来たロケ地)は、雛見沢を見下ろす高台や梨花ちゃんハウス(農具倉庫っぽい建物)、梨花ちゃんの実家である古手神社などで、チェックすべきロケーションはまだまだ豊富に残されている。
全部を一日でまわれるものじゃないから、本日はこれでおしまいにし、長旅の疲れをいやすターンへ突入。
料理は他にも山菜や漬物、もろみ味噌あえのきゅうりや焼き魚、マスの粕漬けなどいろいろな小皿が並んでいるが、なんといっても圧倒的主役なのが飛騨牛ステーキ。
丸皿へ乗ったバターが溶けてきたところで……満をじして飛騨牛を投入。
耳に心地よい焼き音がじわじわと沸き起こり、芳醇な匂いが鼻先をくすぐる。
それなりに胃袋は満員気味だったけど、その胃袋の中では、
(はいはーい、そこ空けてねー、もうすぐ飛騨牛さまがご登場なんで)
みたいな整理現象が起こり、場所を確保しているはずだ。
胃袋って、そんな働きあるらしいしね。
味付けは醤油ベースのタレと、塩。
まずは、塩。
ステーキの角へちょこんとつけて、じんわり齧ると、幸せの肉汁が口中に拡がる。
旅の目的が『ひぐらしのなく頃に』の聖地巡礼であることを、すっかり忘れきった瞬間だった。
◯
温泉につかると、外には黄昏をとっくに過ぎた闇夜にうかぶ、庄川のきらめき。
流れが急だから、それだけ月光の反射も激しく、その向こうにこんもり続く対岸の木立の黒さと相まって、一種幻想的な風情をかもす。
ただしわたしは食いしん坊なので、主に去来するのは、さきほど食べたばかりの飛騨牛のことばかり、
(魅音は料理が超絶得意だったけど、飛騨牛なんかも焼いてお弁当に入れたりしてたのかな……雛見沢の有力者一家だし、他の部活メンバーと違ってそういう贅沢品もふんだんに使ってたかもしれんね)
〔ひぐらしのなく頃に〕で一番好きなキャラへ想いを馳せたりもする。
一番の主人公・圭一やレナは庶民だし、梨花&沙都子コンビにいたっては節約しながら生活していたはずなので、カレーなんかを作った時も、スーパーで特売になってた安めの肉を使ったはずだ。
また物語を知らない人に申し訳ないので、そそくさと説明すると、彼らが『部活メンバー』と呼ばれる主人公たちで、人口2000人程度の村ゆえに、小学生も中学生も、同じ学校の同じクラスで勉強をしているのだ。
その中でもとりわけ、園崎魅音が取り仕切る『部活』と呼ばれる仲間内があり、その活動内容は彼女が用意したゲーム類で勝負するというもの。
勝つことのみを至上とし、見破れなければダーティープレイも許される、仁義なき勝負の部活なのだ。
なお、授業でカレーを作った際には、ライバルの鍋に塩を入れる、鍋をひっくり返す、などの汚い手を使ってでも勝利を目指したことがあった。
それだけ聞くと、えげつない連中だけど、そこはそこ、部活メンバー同士であれば「部活ルールにのっとった勝負」であり、恨みっこなしなのである。
ま……物語を知らない人からすると「へー」以外のリアクションが取れない話題で、申し訳ないばかりだけどね。
閑話休題!
◯
翌朝。
主役級が、朝食の卓へいきなりどどーんと登場した!
その名は『朴葉味噌』。
飛騨高山の名物だが、地理的にも近いこの白川郷でも当然のように出てきてくれた。
この朴葉味噌をあじわった時の衝撃たるや、
「これは……ご飯の強烈なおとも……いや、むしろ天敵!」
ご飯が口の中へ吸い込まれる吸い込まれる。
ネギと練り合わせた味噌に、さまざまな具材が混じっていて、それを朴葉の上で焼くだけのシンプルな逸品なのに、もうね、箸が止まりやしない。
その練り込まれた具材が、これまた飛騨牛なのだから、最強すぎる。
もう一つ、旅館の朝食としては主役級のはずの焼き魚もあるけれど、もはや『主役を盛り立てるに足る準主役』という位置付け。
ところの名物ではあるけれど、
「ひぐらしのなく頃にでは、一切登場しなかったなあ。そりゃそうか。あくまで日本のどこかの日常を描いているんだし、妙に名物が出ても、むしろ浮いてしまっただろうしなあ」
主人公たちは普通にスーパーの特売を狙って買い物をするし。
年に何度かくらいは、食膳にのぼることもあるかもしれないけど、むしろ、野菜炒めくらいこそが、つきづきしい。
両親不在の時、中学生の前原圭一が挑戦するのは、野菜や油の分量のおかしい野菜炒めなのだ。(そして、フライパンが炎上するのだ)
なお、これは帰宅してからのことになるけれど……。
「あの朴葉味噌が、忘れられん!」
狂おしく叫んだわたしは、ネットで朴葉を購入した。
味噌つきのものもあったけど、ほんのちょっとしか入っていないから、一食で消えてしまう。
その点、朴葉だけを買えばたっぷり枚数が入っているので、好きなだけ朴葉味噌が味わえる。
味噌は、自分で好き勝手に味噌と味醂などを混ぜ合わせて調合すればOK。
しかし……さすがに30枚セットは多過ぎた。
全部消費するのに、半年くらいたっぷりかかってしまった。
◯
聖地巡礼2日目は、村のはずれにある『前原屋敷』と『祭具殿』から始まる。
東京から引っ越してきて家を建てた前原家は、ずいぶんと豪勢で、雛見沢の人々からは『前原屋敷』と呼ばれていた。
なお、白川郷にあるこの建物は、水道関係の処理場らしい。
祭具殿もまた、前原屋敷のすぐ近くにある神社の建物だった。
ここは村の守り神である〔おやしろ様〕にまつわるものを納める建物だ。
不敬にも、その中を覗いた者には、おやしろ様の恐ろしい祟りが……。
「好奇心はある方だけど、生命をかけてまで覗き込みたくはない、かなあ……」
とはいえ。
村の人々が勝手におやしろ様を神聖視し畏れているだけで、実際のおやしろ様はむしろ……。
ま、ここで問題になるのは、実際のおやしろ様がどんな神様か、ではなく、それを禁忌として神経を尖らせる村人側にあるんだけどね。
そこを原作ゲームに近いアングルで撮影した後は、ちょいと30キロほど車を走らせることになる。
めざすは、主人公たちが通学する分校の建物と、沙都子の吊り橋である。
つづく
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