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【青森】その3 渋いチョイスのジェラート トウモロコシとよもぎ


あおもり駅前ビーチ

「わたし史上、最北端のビーチ……」
 北に向かって拡がる海辺の、波打ち際に立って、わたしは感慨深く景色を堪能した。

 冷静に考えて、県庁所在地の中心駅の隣にビーチがあるってやばいな。

『チューニング!』234ページより引用

 前にも述べた通り、この青森旅行は、風祭千さんのデビュー作『チューニング!』の聖地巡礼なのだ。
 青森の魅力がてんこ盛りに詰まっていて、青森に1ミリも興味がなかったわたしに「青森って、素敵!」と思わせるほどの、爽やかな破壊力を秘めていたのだ。

あおもり駅前ビーチ

 綺麗に整備されているビーチで、履いていたサンダルを脱ぐ。
 抗えない誘惑に、わたしは一歩一歩、渚へ近寄り、ついに……、
「うひゃー、冷たいー、気持ちいいー」
 両足をつけてしまった。

わたし史上・最北端のビーチへ、足をつけてみた!

「おっしゃ! 海、入るか!」
「え!?」
 どういう流れだ。
 返事をする前に、マコトさんは走り出していた。砂浜へ続くスロープを下りきると、サンダルを脱いで裸足のまま走っていく。私も慌てて追いかけ、靴も靴下も砂の上に脱ぎ捨てた。

『チューニング!』244ページより引用

 作中に出てくる、マコトさんという主人公のお姉さん的存在の登場人物の気持ち、すごくよくわかる。
 ところでこれ、どうしたらいいん……?
 刹那の快楽に身を委ねてしまったものの、おかげで足は砂まみれで、海水がべたべたしているんだけど。

 でも大丈夫。
 ここはビーチなのだ。
 きっと、洗うための水道水がどこかにあるに違いない!
 もしなかったら、一日中、潮でべたべた、砂でじゃりじゃりな足ですごす羽目に……!

洗い場、あった。信じてたよ〜っ、青森駅前ビーチさ〜ん!

 やがて11時。
 風祭千さんとの待ち合わせ。
 3月に、新宿で文芸社文庫NEOの仲良し作家グループの集まりでお会いしてから、一ヶ月半ぶりの再会!(くわしくは、【新宿】上海小吃 ガチ中のガチ中華と、NEO作家4人娘参上! の回にて)

「のどかさんが、青森にいるの、不思議な感じです」
 笑って、風祭千さんが嬉しそうにしてくれる。
 歓迎してくれて、とても嬉しい。

 ビーチ脇に建つ〔A-FACTORY〕は、いろんなショップがひしめくお洒落なスポットだ。
 女子同士できゃっきゃと見て回ってもいいし、デートにも最適そうな場所。

A-FACTORY

 ここのジェラートを、風祭千さんと一緒に食べることになった。
 選ぶのはもちろん「とうもろこし」と「よもぎ」だ。
 なかなか渋いチョイスだ。

 ビーチの隣にある洒落たお土産屋さんでジェラートを買ってもらい、真っ白なテラス席に座る。
(中略)
「あさ、味のチョイスしぶいな。トウモロコシとよもぎとか」
「フルーツ系よりも美味しいですよ絶対」
 ねっとりしたジェラートを口に含むと、舌の上でスッと溶けた。

『チューニング!』234ページより引用

 好きな作品に出てくる食べ物とまったく同じのを、実際に食べる。
 聖地巡礼の醍醐味だよね。
 とうもろこしは『嶽きみ(だけきみ)』という名称で、青森の名産品らしい。
 甘さはひかえめで、あざとくなく、舌にやさしい。
 よもぎもまた、よもぎらしい風味が、甘く渋く舌をつつみこむ。

ジェラート。左が嶽きみ、右がよもぎ

 ここで、驚愕の事実を、風祭さんが語ってくれた。
「私、これを食べるの、実は初めて
 え、聞き違いじゃ無いよね!?
 や、食べたことなくて、作中に登場させ、主人公に食べさせたとか!!
 ……や、でも、あるあるだよね。小説を書いてると、そういうことも、ある。

 そんな、作者本人でさえ実食が初めてと言う食べ物を、そのファンが隣に座って、一緒に食べるとか、贅沢の極みでしょ。

 やがて。
 わたしはポーチから『チューニング!』を取り出し、おずおずと、
「すみません、ちょっとの間、お付き合いください! あの、感想を最初から最後まで、ぜんぶ語らせてください!」
 わたしがこんなことをされたら、たぶん逃げる。嬉しいけど、超絶恥ずかしすぎるから。
 けど風祭さんは快諾し、付き合ってくれた。

「ええと、まず1ページ目。『しょうがないんだ。音楽がないと、私の心は目覚めないから』の一文で、一気に引き込まれました! それから次の、この部分では……」
 それはそれはもう、じっくりねっとり、気の済むまで全部、感想を述べてゆく。
 時に、わたしの書き込みで風祭さんが大笑いしてくれたり、「あれ、二年前のわたしって、こんな気持ちで読んでたんだー」という再発見があったり。

 さて、ここからだ。
 作者本人に案内してもらう聖地巡礼なんて、そうめったにあるもんじゃない。
 わたし史上最高に贅沢なロケ地めぐりが、今、はじまった。
 青森を、味わい尽くすぞ!

 つづく。

風祭千『チューニング!』

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