【青森】その3 渋いチョイスのジェラート トウモロコシとよもぎ
「わたし史上、最北端のビーチ……」
北に向かって拡がる海辺の、波打ち際に立って、わたしは感慨深く景色を堪能した。
前にも述べた通り、この青森旅行は、風祭千さんのデビュー作『チューニング!』の聖地巡礼なのだ。
青森の魅力がてんこ盛りに詰まっていて、青森に1ミリも興味がなかったわたしに「青森って、素敵!」と思わせるほどの、爽やかな破壊力を秘めていたのだ。
綺麗に整備されているビーチで、履いていたサンダルを脱ぐ。
抗えない誘惑に、わたしは一歩一歩、渚へ近寄り、ついに……、
「うひゃー、冷たいー、気持ちいいー」
両足をつけてしまった。
作中に出てくる、マコトさんという主人公のお姉さん的存在の登場人物の気持ち、すごくよくわかる。
ところでこれ、どうしたらいいん……?
刹那の快楽に身を委ねてしまったものの、おかげで足は砂まみれで、海水がべたべたしているんだけど。
でも大丈夫。
ここはビーチなのだ。
きっと、洗うための水道水がどこかにあるに違いない!
もしなかったら、一日中、潮でべたべた、砂でじゃりじゃりな足ですごす羽目に……!
◯
やがて11時。
風祭千さんとの待ち合わせ。
3月に、新宿で文芸社文庫NEOの仲良し作家グループの集まりでお会いしてから、一ヶ月半ぶりの再会!(くわしくは、【新宿】上海小吃 ガチ中のガチ中華と、NEO作家4人娘参上! の回にて)
「のどかさんが、青森にいるの、不思議な感じです」
笑って、風祭千さんが嬉しそうにしてくれる。
歓迎してくれて、とても嬉しい。
ビーチ脇に建つ〔A-FACTORY〕は、いろんなショップがひしめくお洒落なスポットだ。
女子同士できゃっきゃと見て回ってもいいし、デートにも最適そうな場所。
ここのジェラートを、風祭千さんと一緒に食べることになった。
選ぶのはもちろん「とうもろこし」と「よもぎ」だ。
なかなか渋いチョイスだ。
好きな作品に出てくる食べ物とまったく同じのを、実際に食べる。
聖地巡礼の醍醐味だよね。
とうもろこしは『嶽きみ(だけきみ)』という名称で、青森の名産品らしい。
甘さはひかえめで、あざとくなく、舌にやさしい。
よもぎもまた、よもぎらしい風味が、甘く渋く舌をつつみこむ。
ここで、驚愕の事実を、風祭さんが語ってくれた。
「私、これを食べるの、実は初めて」
え、聞き違いじゃ無いよね!?
や、食べたことなくて、作中に登場させ、主人公に食べさせたとか!!
……や、でも、あるあるだよね。小説を書いてると、そういうことも、ある。
そんな、作者本人でさえ実食が初めてと言う食べ物を、そのファンが隣に座って、一緒に食べるとか、贅沢の極みでしょ。
やがて。
わたしはポーチから『チューニング!』を取り出し、おずおずと、
「すみません、ちょっとの間、お付き合いください! あの、感想を最初から最後まで、ぜんぶ語らせてください!」
わたしがこんなことをされたら、たぶん逃げる。嬉しいけど、超絶恥ずかしすぎるから。
けど風祭さんは快諾し、付き合ってくれた。
「ええと、まず1ページ目。『しょうがないんだ。音楽がないと、私の心は目覚めないから』の一文で、一気に引き込まれました! それから次の、この部分では……」
それはそれはもう、じっくりねっとり、気の済むまで全部、感想を述べてゆく。
時に、わたしの書き込みで風祭さんが大笑いしてくれたり、「あれ、二年前のわたしって、こんな気持ちで読んでたんだー」という再発見があったり。
さて、ここからだ。
作者本人に案内してもらう聖地巡礼なんて、そうめったにあるもんじゃない。
わたし史上最高に贅沢なロケ地めぐりが、今、はじまった。
青森を、味わい尽くすぞ!
つづく。