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生(摂食)か死(拒食)か①

閉鎖病棟から始まる2025年

2回の医療保護入院を経験した2024年

 まず明けましておめでとうございます。昨年、自分の記事に目を通してくださった方、そして今年これから目を通してくださる皆様、ありがとうございます。投稿者は摂食障害と闘いながら救命救急医を目指している医学生です。昨年の9月頃まで同級生のみんなと一緒に臨床実習に臨みながら月200時間以上バイトをする忙しい毎日を過ごしていましたが、摂食障害を発症し、9月中頃には、極度の低体重と低栄養状態に陥り、紹介された大学病院の精神科の先生からドクターストップがかかってしまい、「ここで立ち止まったら、次また歩みだすことができなくなってしまうかもしれない」と焦燥感に駆られ、必死に休学することに対して先生の説得を試み、抵抗したものの、願いかなわず9月後半に差し掛かる頃、人生で初めての精神科閉鎖病棟への入院、"医療保護入院"となりました。
 1回目の入院では経管栄養や行動制限療法などはせず、自発的に食べられるようになることを目指しましたが、そんな簡単な話ではなく、3食食べられたのは最初の数日間。数日経つと、1食の半分すら食べることが出来なくなり、入院から2週間が経過した頃には、全く入院食を食べる事が出来なくなり……結果は然るべき、入院前より体重はさらに数Kg落ち、BMIも14台前半まで落込みました。そんな状態で退院できるはずもなく、入院当初の「どーせ2.3週間で退院できるだろう」なんて浅はかな考えは軽く打ち砕かれ、1回目の入院と連続する形で2回目の医療保護入院を経験することになるのです。

辛くて、苦しくて何度も涙した行動制限療法

2回目の入院では、1回目に自発的にご飯を食べることが出来なかったため、初日から行動制限療法と経管栄養を受けることになりました。『行動制限療法』。皆様には聞き馴染みのない単語かと思います。ここで軽く摂食障害における行動制限療法や栄養療法について説明します。


入院の場合は、身体的な管理下での栄養療法(経口栄養摂取、またはそれが困難な場合は経鼻栄養摂取)が行われ、目標体重を細かく設定し、それが達成された場合には、段階的に行動制限を緩和していくなどの方法がとられます(神経性やせ症患者への点滴による高カロリー輸液はリスクが高く国際的には現在は推奨されていません)。危険な状態にも関わらず本人が治療重要性を理解できない場合には、家族の協力の下で行われる医療保護入院の治療形態をとる場合もあります。入院治療は通常、栄養状態が改善した時点で治療場面を再び外来に移します。

極重度のやせ状態(BMI<15)では、認知機能の低下や悪化した病理のため現状においては心理的介入のエビデンスは殆ど実証さられておらず栄養療法が優先されます。しかし、体重が増加するに従って精神療法の効果が期待されます。神経性やせ症の精神療法においては、まだ治療が確立したとはいえる水準にはなく、我が国での治療機会はさらに限定的ですが、諸外国ではいくつかの有望で先進的な試みの効果も示されてきており、その一部は我が国でも導入されてきています

摂食障害|慶應義塾大学病院 KOMPAS

ここに記されているように、行動制限療法とは、目標体重とそれに応じた行動制限を1Kg単位で設定していき、栄養療法を行いながら体重が増加していくに応じて、許される行動が徐々に増えていくといった治療方法です。字面だけ見ればとても単純明快な治療法ですが、実際のところは主治医の先生が「それまでの患者さんと先生の信頼関係をぶち壊すような治療法」と表現したのにも納得がいくような、とても、とっても厳しいし苦しい治療法なのです。慶応大学病院のホームページにも治療に関しては以下のように記載される程です。自分の場合は以下の写真の通りでした。

入院時体重が44.2kg BMI14.85スタートだったので44kgからの目標設定になってます。
食事に関しては病室で食べる事はできず、ロビーで看護師さん監視の下です。

歩くことはおろか、座位でいられる時間も制限されていて、移動は車いす、スマホは1日1時間の状態からのスタートでした。それほど体力を温存しなければならない状態だった、という訳です。今こそこうやって冷静に振り返ることが出来ますが、当時は自分が悪いことをしたわけでもなく、ただご飯が食べられないだけでなんでこんな仕打ちを受けなきゃいけんないんだという気持ちで一杯で、毎日先生に呪詛の言葉を吐いていました。何もできないから1日が経過するのがとても遅く感じるはずなのに、次々と迫りくる食事の時間に恐怖し、車椅子に乗せてくれようとしている看護師さんに「怖い」とも言ってしまいました。食事の場に連れていかれるまでも地獄ですが、そこから先はもっと地獄で、「〇時×分、食事開始ね」と看護師さんに言われ、捨てたり吐いたりしないよう看護師さんの監視下の下、30分以内に完食しなければなりません。ドレッシングやマーガリンなども全部使わなければなりません。他の患者さんが「残しちゃったー。」とか看護師さんに言っているのを耳にしながら自分には残す権限が与えられていないため、必ず食べなければなりません。万が一30分かかっても残してしまったり、食べる事ができなかったりしたら……。想像に難くないでしょう。行動制限がステップダウンし、さらに食事量が増えていきます。残す理由なんて聞き入れてもらえません。皆さんは同じ立場になった時、簡単に受け入れることが出来ますか?
 此処まででも、地獄の様相を呈していますが、本当の地獄はさらにここから待っていたんです。

増えない体重…理不尽な行動制限ステップダウン…。

 そう、食事を食べ続けるだけでは行動制限は緩和されないのです。先ほど掲示した写真の1枚目の行動ステップアップ表をご覧いただければわかるかもしれませんが、行動制限の基準となるのはあくまで体重。どんなに食事を頑張っていたとしても体重が減ってしまったり増えなかったりしたら行動制限は緩和されないどころか、ステップダウンしていくのです。
 想像してみてください、ご飯を食べたくない人が無理やりご飯を食べさせられる状況、逆を考えたらお腹が減って仕方がないのにご飯が食べられない状況です。半ば「死ね」と言われているような状況です。そんな中、必死にご飯を食べているのに体重が増えるどころか減ってしまってさらに自由を奪われたらどんな心境になると思いますか?
 自分が感じたのは「理不尽」「無力感」「惨めさ」でした。どんなに頑張ったとしても結果が出なければ努力は認められず、自由を奪われ、自分の無力感に打ちひしがれ、惨めな思いになり、食べるモチベーションを失いかけました。それだけに、体重が増えて、行動がステップアップした時の喜びは人一倍大きなものでした。特に車椅子から歩行介助にステップアップした際には、思わず看護師さんとやったねとハイタッチしました。
 こうして体重の増減を繰り返して、1ヶ月で1.6Kgの増量に成功しました。「え?たった1.6Kg??」とお思いかもしれませんが、一度落ち切って代謝がとことん狂ってしまった体内環境において体重を増やすことは容易な話ではなく"たった"ではなく"なんとか"な体重増加なのです。そうしてバイタルも安定してきたことで、70日間の医療保護生活は幕を閉じることになりました。

退院、そして始まった過食嘔吐

 行動制限療法を経て、3食食べられるようになり、体重もバイタルも安定し、一見順調に見える経過…。しかし、退院後の生活はそんな簡単なものではありませんでした。
 入院前の拒食(制限摂食)、入院中の行動制限療法(強制摂食)と、今まで長らく強制的にご飯に関して決まり事に従っていた自分にとって、退院してからの環境は自由すぎました。そんな中、家族がご飯を出して、目の前で一緒に食べてくれる環境において『拒食』に振り切ることが出来なかった自分に残された選択肢は『過食』でした。
 今日は長くなってしまったのでここまでにします。また近日続きをあげますね。
 拙い文章を最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます😭。よければ投稿にいいねを下さると治療の励みになったりします🥲
 最後に病院食で出てきてびっくりした鰻を上げときます🍱




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