GoodRX:処方箋薬の市場規模

前回の記事を書いてからチェックを放置してたら、GoodRXがいい感じに48ドル(!)付近まで上昇して、それから少しもたついて今42ドル程度になっていた。とりあえずAmazonPhermacyのニュースによる衝撃から立ち直った感じですかね。

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前回、アメリカ処方薬トップ10を調べて、Amazonで販売されているのか調べてみて、GDRXへの影響を考えてみたのですが…

結果、慢性疾患の薬がほとんどで、それらは目下、米国Amazonですでに販売されているので、定期便使う人は多そうだなぁ(価格次第ですが)と思いました。

しかし: アメリカの薬の市場規模は、もっと大きい…

ただ、↑で見た処方薬ランキングのデータをよくよく見ると、単価(Refill)の実勢価格は、せいぜい100ドル(もしくはそれ以下)であるものがほとんどです。少数の例外はありますが。

処方箋数 × 価格(Refill)

でTOP10の処方薬金額を概算してみると、だいたい506億ドルになりました。

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トップ10でこれなので、トップ50で計算しても、だいたい1000億ドル程度の規模でしょう。

他方、アメリカの医薬品全体の市場規模は、3400億ドル程度のようです。少し古いのですが、JETROの2017年データのp.2に載っていました。


これは、処方薬以外に、高級医薬品(難病等に使われるもの)とか、様々なものが入っているからでしょうね。一般には、ブロックバスターと呼ばれる10億ドル規模の特許薬を開発できるかどうかが製薬会社の興亡を決めるらしいので、処方薬の規模としてはTOP10で506億ドルであればまあ妥当かと。


...と思ったら、処方薬市場規模は5240億ドル?

GDRXから12月に投資家向けプレゼンがリリースされていました。これ、わかりやすいです。

これ見ると、アメリカの処方薬のマーケットサイズは524 bn(5240億)だそうです。本当かいな…?先のJETROの2017年データとかなり乖離してるけど。まあ、上位10傑で506億ドルだったので、ロングテール全体で、となると、5000億ドルくらいあっても変ではないけど。

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収益構造図はとてもわかりやすい。薬局での小売価格の15%程度をGDRXが手数料として受け取る、という仕組み。

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たとえば、こんな感じ:

顧客は、そのまま買うと100ドルする処方薬を、GDRXで平均60%値引きしてもらって、店頭価格40ドルで購入。うち、15%(6ドル)がGDRXの収益となる。

つまり、処方薬の初期価格100ドルに対し、GDRXは6ドル(6%)を手に入れるという計算。

これを先の5240億ドル(全米市場規模)にあてはめると、理論上、GDRXの売上高は 5240 x 6% = 314 億ドル まで伸ばせることになる。

実際は、占有率100%などありえないので、仮に10%取れたとして、31億ドル。

2019年のRevenue が4億ドル弱(3.88億)なので、もしこれが31億ドルまで伸びると、2019比で約8倍の伸びとなる。

GDRXの引用している処方薬の市場推計がちょっと大きすぎる気がするのですが、もし処方薬の市場規模がこの半分でも(5240億ドルの半分=2620億ドル)、31億ドルという数字は一見、現実的な数字。

ただし、そのためには3000万ユーザーまで増やす必要がありそう

ここからは、とてもざっくりとした概算、推計をしてみます。

(※GDRXは、処方薬アプリだけではなく、遠隔医療を含めいくつかの隣接セクターの事業にも手を広げ始めているのですが、そこの売上は今あまり大きくないので、すべて無視し、今回は処方薬アプリ専業会社とみなして将来推計しています。)

過去のデータから推計すると、だいたい、1ユーザーあたり100ドル前後の収益がもたらされています(※これは、1人あたり、年間、クーポン適用後の価格で700ドル程度の処方薬を買っている計算になります。アメリカ人1人当たり平均の医薬品支出額は年間1000ドル位なので、帳尻が合います)。

よって、31億ドルに達するには、Activeユーザー数が3000万人ほど必要です。現在の400万人台から、あと数年で倍々ゲームでユーザー数を増やせるか。コレが鍵となりそうです。

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で、EPSは?(0.19→ 1.6)

GDRXの2019年の決算は、おおよそ

売上 388 mil.
営業利益 139 mil.
純利益 66 mil.
EPS(1株利益) 0.19

です。

過年度の決算を見ても、概ね、売上高の1/3 が営業利益、さらにその1/2が純利益になっています。EPSは0.19です。

ちょっと邪道ですが、この比率がそのまま継続すると仮定すると、売上高が31億ドル(3100 mil.)になった場合、EPSは約1.6になります。

現在の株価を42ドルとすると、現在のPEレシオ(PER)は、220倍ですが、EPSが1.6になった際のPERは、26倍です。

アクティブユーザー数が3000万人になった頃には、市場占有率も上がり、他の隣接事業の旨味も増してくるでしょうから、PER26倍は魅力的だと思います。

しかし、3000万ユーザーは達成可能なのか?

米国内のアクティブユーザー数が高いアプリは、こういう感じです。2019年データでちょっと古いですけど。

https://www.statista.com/statistics/248074/most-popular-us-social-networking-apps-ranked-by-audience/

Twitter 81 mil.
Messenger 106 mil
Instagram 121 mil
Reddit 47 mil
Snapchat 46 mil

2020年にはコロナで各社ともユーザー数を積み増しているはずですが、まあ、米国内で人気といわれるアプリでも、オーダーは50~100 mil. つまり、数千万~1億人程度 ということです。アメリカの人口は3.3億人なので、まあ、3~5人に1人がアプリユーザーになっているという感じですね。

ここで、ソーシャルアプリでもないGDRXが、3000万人のユーザーを獲得できるのか?という疑問がわきます。結構厳しい感じがします。たぶん1000万人は獲得できても、3000万となると難しいような気がします。

それでも、何の邪魔も入らなければ、獲れるマーケットかもしれません。若者はほとんど病院に行きませんが、スマホに慣れ親しんだ彼らが今後壮年期に差し掛かり、処方薬を必要とするとき、GDRXのアプリは使いやすいものに感じるはずです。

ただ、このような「邪魔が入らないベストシナリオ」で、やっとPER26倍、ユーザー数3000万人に到達できるわけです。

今後数年間で、AmazonPhermacyがどこまで食い込んでくるかわかりませんし(でも、鳴かず飛ばずかもしれません)、他にも強い競合が乗り込んでくるかもしれません(それこそWalmartとかね)。

また、この処方箋アプリは、米国以外には恐らく展開できないでしょう(先進国で、薬価が吊り上げられている国が他には無いから)。さらに、米国の連邦政府による薬価引き下げ圧力が無いとも言えません。

それらを考慮すると、現在の価格はお買い得かどうか微妙なところです。

ただ、アメリカの人口は増え続けていますし、処方薬の総数も増えるでしょうから、広い意味でのマーケットとしては有望です。継続してウォッチしたい企業です。

でも、今の価格だとちょっとね。と今の時点では率直に思いました。


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