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銘柄分析:RIDE(Lordstown Motors)

銘柄分析シリーズ、前回のVIH (bakkt) に続き、今回はローズタウン・モーターズ(ticker:RIDE)をレビューします。

この会社については設立経緯がそこそこ重要なので、まずは沿革から始めて、EPSと将来のPERについて試算してみたいと思います。


Lordstown Motorsの会社沿革

ローズタウン・モーターズは、社名のとおり、米国オハイオ州ローズタウンにある電気自動車(EV)製造メーカーです。シカゴとニューヨークの丁度真ん中くらいにあり、営業しやすそうな立地です。

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主に、法人向けのフルサイズピックアップトラック "Endurance" を製造します(個人向けは作ってない)。昔、同地にあったGM(ゼネラルモーターズ)の約70万m2 の工場をそのまま譲り受けて、居抜き工場で運営されています。

ピックアップトラックというのは、アメリカでは普通の乗用車よりもポピュラーな存在で、ドラマや映画を観ていると非常によく登場します。こういうの(↓)です。後ろに積める荷台が付いてるアレですね。

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2018年に創業したばかりの新しい会社ですが、社長の steve burns は、新興EVメーカーのWorkHorse(ワークホース)の元CEOです。です。

設立経緯としては、WorkHorseがGMの自動車工場を譲り受けるという時に、工場施設ごとWorkHorseからスピンオフさせたという側面があります。つまり、本家ワークホースのCEO自らが、スピンオフ企業に大将として出向いている訳ですね。その証左として、ローズタウン・モーターズはWorkHorseから電動ピックアップトラック"W15"の特許使用許可を得て、W15を改良する形で自社の電動ピックアップトラックを開発しています。


上場の経緯と株価の動き

2019年にGMの工場を4000万ドルで購入した後、2020年8月4日にSPAC(空箱会社)との合併をアナウンスし、晴れて2020年10月23日に裏口上場会社しました。そのSPACは、DPHC (DiamondPeak Holdings Corp) という銘柄でした。↓のTechCrunchの記事がわかりやすいです。

少し細かいですが、このDPHCの動きについて、先に書きます。

DPHCは、2019年4月に上場したSPACで、ローズタウンと合併してTickerが"RIDE"に変更されたのが2020年10月23日引け後です(↓)。なので合併まで約1年半かかっています。これはほかのSPACと比べると結構時間かけたなぁ、という印象です。

※SPACは2年経つと期限切れになるのが普通です(DPHCのExpirationは調べてないですけど、たぶんそう)。

あくまで推測ですが、GMの工場売却ディールが進められていたのは2019年の上半期なので、DPHCは、このころからずっと、LordsTownMotorsと合併上場することを予定していたのでは? だとすると、満を持しての合併であり、期待が持てるのでは? と思っています。(まあ、それはNikolaと合併したVTIQにも言えることなので、断言できませんが...)

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EVメーカーということで、期待値も高く、コロナバブルと相まって株価は合併前に30ドルに到達。その後、上下を繰り返しつつ、上30ドル、下15ドルくらいでのレンジ相場が続いています。(こうやってみると、30ドルあたりに明確な抵抗線があるのがわかります)


今後の受注、売上高、利益の推移(予測)

会社が2021年1月にリリースしている投資家向けプレゼンテーションを見てみます。(↓リンクあり)

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2021年の4月~9月にプリプロダクション(試作)を行い、2021年9月からは本格生産に入る見込みです。生産台数は、2021年に2,000台、2022年に32,000台、2023年に65,000台、2024年に107,000台を見込んでいます。

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既に2021年1月の時点で、170社以上から10万台分の予約を受注しており、きちんと2021年に生産が進めば、これは確実に2021年9月以降に売上となる受注です。Enduranceは、1台当たり45,000ドル+@なので、単純計算で、50億ドル近く(!)の売上が立つことになります。

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ただ、↑で見た通り、10万台レベルの生産ができるようになるのは2024年で、それまでは生産ラインがフル稼働しても納品待ちになりますが…。


他社と比べたときの強み

なんといっても、①コスト競争力が高いということ、そして、②実際に工場を既に保有していて、もう生産目前ということです。

①については、下記スライドのとおり、フルサイズ・ピックアップトラックとしては、価格に非常に優位性があり、かつ、維持費も(ここに書いてないけど)安いです。

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そして、②については、「そんなの当然では?」と思うところですが、SPAC上場したNikolaなどが未だ工場すら無く、単なる絵餅で事業計画を語っていることを考えれば、LordstownMotorsの優位性は歴然としています。既にGMから禅譲された工場があり、生産が間もなく始まり、2021年9月には納品できる体制になっている(らしい)というのは、裏口上場会社としては稀有だと思います。


売上予測、EPS予測

財務面の予測は、2021年1月のPDFには掲載が無く、2020年9月(SPACとの合併直前)の投資家向けプレゼンを見る必要があります。(↓リンク)

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これによると、2024年の売上台数は10.7万台、売上は57.7億ドル、粗利(gross profit)が10.7億ドル、EBIDTA(≒営業利益)が6億ドル、という見通しになっています。

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発行済み株式数:1.64億株 です。

EBIDTAの半分が純利益になると仮定すると、純利益は3億ドルです。

以上から、2024年期末のEPSは、3億ドル÷1.64億株 ≒ 1.83ドル と試算されます。

まとめます。

2024年期末の予測:
 売上台数 10.7万台
 売上高 57.7億ドル
 粗利益 10.7億ドル
 EBIDTA(≒営業利益) 6億ドル
 純利益 3億ドル
 EPS 1.83ドル

よって、現時点でのPERは、株価17ドルとして(3/4-3/5でかなり下がった...)、年の割引率をナシと仮定すると、17÷1.83 = 約9.3倍 となります。まあ、年の割引率をインフレ率2%で考えても、PERは10倍位ですね。

・・・というわけで、あくまで個人的には、TSLA等と比べると、なかなか妙味がありそうと思える水準です。


注意すべき点

バラ色の未来が描かれている一方で、それは非現実的だと述べる向きもあります。こういう留意も重要です。例えば以下の記事。

この記事によれば、「LordsTownMotorsは2024年までに10万台以上の製造・売上を見込んでいるが、Teslaが最初の本格的な生産まで4,5年を要したことを踏まえれば、非現実的」とのことです。

つまり、今年2021年の9月までに本当に製造・納車ができるのか? プロトタイプの生産から本格生産までの時期はかなり後倒しになるのではないか?という危惧を抱く人も居るわけです。

SPAC上場しているからには、このようなリスクは当然あると思います。なので、表面的なニュース(〇〇と契約した、提携した等)に踊ることなく、「本当にスケジュール通り生産できそうなのか?」ということを観察していく必要がありそうです。まだ1台も納車していない以上、この点はリスクであり、また、そのリスクがあるからこそ、実現したときに現在の株価に比して大きなアップサイドが得られます。

想定しうる、嫌なシナリオは、「生産が予定通り進まない」「それによって、受注済みの契約が解除されていく」...というものです。また、更なる投資が必要になって公募増資する、というのも、場合によってはバッド・ニュースになりえます。


補足:GMとWorkHorseについて

RIDEには、その出自から、GMが出資しており、連携体制も盤石です(株主ではない模様)。そしてWorkHorseとの関係も深く、こちらは大株主として名を連ねています(約10%)。厳密な所有割合(%)は下記のとおりです。

株主 / 持ち株数 / 所有割合
Stephen Burns / 46,351,745 / 28.1%
Workhorse Group Inc. / 16,478,402 / 9.99%
Fidelity Management & Research Co. LLC / 10,097,337 / 6.12%
The Vanguard Group, Inc. / 8,177,290 / 4.96%
David T. Hamamoto / 2,402,739 / 1.46%
Invesco Capital Management LLC / 2,113,282 / 1.28%
Luxor Capital Group LP / 1,612,992 / 0.98%
BlackRock Fund Advisors / 1,557,726 / 0.94%
Davidson Kempner Capital Management LP / 1,550,010 / 0.94%
Holocene Advisors, LP / 1,530,519 / 0.93%


補足:2021年冒頭の悲観シナリオについて

WorkHorseがUSPS(アメリカ郵便公社)からのEV大型案件を受注できなかったのでWorkHorseは1桁台まで下がるだろうという報道や、2月12日にMorgan Stanley がアンダーウェイトしたことで、2月前半に一時は30ドルを付けていたRIDEの株価はほぼ一本調子で下がり、2月末~3月上旬のNASDAQの下落にも巻き込まれ、現在は16ドル付近まで落ちています。

やはり上述のように、きちんと2021年9月の生産に間に合わせられるのか? 顧客からキャンセルは出ないのか? という点が不安材料で、ショートサイド(売り建て派)はそこを突こうと思えばいくらでも突けるわけです。

この点は、部外者にはどうしようもなく、実態がわかるわけでもないので、そこがこの株のリスクということになります。私は、今の価格帯ならば、アップサイドの大きなオプションに見え、リスク許容度の範囲で楽しむ分には面白い銘柄だと思いますが、深追いは危険かもしれません。(値下がりして魅力的になっているブルーチップ銘柄、他にいっぱいありますし)

(なお、4Qの決算発表はもうすぐ、3/17 です。)

最後に、興味深い分析記事を載せておわります。

https://seekingalpha.com/article/4408249-lordstown-motors-oversold-growth-opportunity



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