構造的な差別解消のために、個別の差別は許されるのか。

「中央公論4月号」の中で、「世界」「正論」「中央公論」の編集長三人による対談が掲載されていた。
 現在この三誌の編集長は、全員女性だそうだ。知らなかった。
 その中に興味深い話が載っていた。

五十嵐(「中央公論」編集長):(前略)政府であれ民間企業であれ、ジェンダーバランスを意識せずに持続できるとは思えません。
 先日お会いした国連関係者によると、欧州では「登壇者が男性のみ、あるいは女性がいても司会など同格ではない役割しか与えられていない会議には出ない」というのが常識になりつつあるそうです。

(「中央公論4月号 「『世界』『正論』『中央公論』編集長が語る多様な意見が共存 三誌三様であっていい」/太字は引用者)

 ここまで徹底してはいないが、自分もシンポジウムや国や経済界の会議を見て役員や識者が男ばかりなのを見ると「何だかな」と思う。 

 先日も読売新聞に掲載されたウクライナ戦争の分析の記事を読んだが、十数人の識者の談話のうち女性は一人だった。

*自分は紙媒体で読んだが、恐らくこれがその電子版だと思う。

 また今日の朝刊に掲載された「情報的健康」のシンポジウムでも、紹介されているテーマの登壇者の五名中女性は大阪大学教授の三浦麻子さん一人、パネル討議のパネリストも五名中女性は一人、しかも他の男性四名が大学の教授・准教授なのに対して女性の竹内優衣さんは学生だ。

 専門家による多角的な分析が第一だとは思うので、男女比の偏りを理由に読まないことはない。だが、こういう状況を以て「専門家に男のほうが多いのは能力の問題。仕方がない」と言われてもそれは賛成できない。
 複数の要素が絡み合った構造において、女性が(特に政治経済の分野で)専門家としての道を歩みにくい部分はまだまだある。
 男のみがずらりと識者、専門家として並ぶ中で「男のほうがこの分野の専門家が多い→だから向いている(もしくは環境的に目指しやすい)」と認識される。その結果、ますます男のみがその分野を目指すようになる→男の識者のみが生まれる……構造は、このように構築され補強されていく。

 また同じ「中央公論4月号」の別の記事には、ドイツにおける少子化解消の取り組みとして、父親だけが取れる「パパの月」と呼ばれる親時間を導入した、ということが書かれている。

 第三の柱である時間政策としては、親時間の導入、経済界との連携、地域での家族政策が挙げられる(略)
 親時間を取得する親は従前所得の67%を保障され、子供が一歳になるまで取得することができる。(略)
 父親だけが取得できる二か月間は「パパの月」とも呼ばれて、父親の親時間取得率が急上昇した。

(「中央公論4月号 「子供に優しくない社会からの脱却 2000年代ドイツの出生率回復と家族政策」魚住明代 P65/太字は引用者)

 男性には、子育てなどの分野で疎外されやすい問題がある。
 ひと昔前に問題になった「家庭に居場所がない父親(疎外)」は、子供の誕生時点から問題が始まっている。子育てに関わりたいと本人が思っても、社会的状況や圧力によって携わりにくい。子供のオムツ交換台が男性トイレには設置されていないことが話題になったこともあった。
「家庭」は「国(社会)」のミニチュアであると考えると、能力を示さなければ(示せなくなれば)男は社会で無視され、孤立しやすい現象は、「子育てなどの家内のことから男が疎外されやすい旧来の家族のモデルケース」から起こっているのではないか。

 今の時代の多くの人は、偏見はそこまで強くない(たぶん)
「男が子育てに携わってもいい、育児休業を取る権利がある」それに反対することはない。
 だが、例えば男が育休を取ろうとすると(女性よりも)何となく取りづらい。「男なのに」という眼で見られている気がするし、空気を感じる。何より本人が気になってしまう。特定の分野で会合を開くと女性が圧倒的に少なくなる問題も根は同じだ。

「何となく」は、自分たちが構成する社会(構造)から生み出されたものである。同時に、その後の社会(構造)に続いていき形成する。
 
これを壊すためには「男でも権利なのだから取っていい」ではなく、「男こそ育休の権利を率先して取っていい」という構造に反するようなメッセージを打ち出していくことが有効になる。
 自分はこう考えているので、個別には差別と見える現象でも、構造的な差別の解消を目的としているのであれば賛成している。

 自分は出来れば生きている間に、日本に女性首相が誕生して欲しいと思っている(※)そういう思いも差別だと感じる人もいるかもしれない。
 だが「日本という社会において、女性が国のリーダーになる、なり得る」そういうモデルケースを実際に示すことで、社会構造に含まれる差別は解消しやすくなると思う。
 そのほうが長期的に見れば、男女問わず今より生きやすい社会になると思っている。

◆余談
 先日、赤根智子さんがICCのトップになった。
 今まで世界で活躍する日本人を見て盛り上がる気持ちがピンとこなかったけれど、トップに就任する以前にロシア(プーチン)が赤根さんを指名手配したニュースを見た時、初めてその気持ちがわかった。

 個人としては全然知らない人だし、何も関係ないだろと言われればまったくその通りだが、それでも日本の女性でこういう人がいることを誇らしく感じる。

※「中央公論 四月号」に、最近首相候補として急上昇している上川外相のインタビューも掲載されている。個人的には可もなく不可もなくという感じだった。
 上川さんは各国首相と英語で交流が出来るし、紛争における問題を女性視点で見るWPSの活動にも力を入れている。ガザへの侵攻が始まった当初、まだ欧米がイスラエルの侵攻を支持していた時に、イスラエルに強く抗議をしたという記事を読んだこともあり個人としては好感を持っている。
 ただ所属政党があれでは……。まあ今後を見てかな。

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