ン十年ぶりに「雲のように風のように」(原作「後宮小説」)を観て、クオリティの高さびビビる。
年末年始YouTubeで無料配信されていた「雲のように風のように」をン十年ぶりに観た。
見始めてまずアニメとしてのクオリティの高さにビビった。これが35年前の作品とは……信じられん。
原作の「後宮小説」が架空史の色合いが強いのに対して、アニメは原作を土台にしながら銀河の成長譚に焦点を絞った造りになっている。
テーマを変えているので、設定も筋もほぼ同じながらストーリーとしては別物と言っていい。
「後宮小説」と「雲のように風のように」から受ける印象が大きく違う理由は性的要素をすべて省いていること以上に、コリューンのキャラクターの違いが大きいのではと感じた。
「後宮小説」のコリューンは「皇帝」の要素が強く、普通の青年らしさがほとんどない。
正妃になった銀河に初めて会った時に「男である証拠を見せろ」と言われて普通に見せたり(照れているような描写が大変良かった記憶があるが、普通は見せないだろう。実際アニメでは見せていない)銀河に「初潮が来たら抱く」と世間話のように言ったり、ナチュラルに「生まれながらの王」だ。
最後の馬小屋のシーンでも感情の盛り上がりがほとんどなく、「諦念」をベースにした落ち着いた(手馴れている)感じである。
それに対して「雲のように風のように」のコリューンは「普通の若者」の色合いが強い。
反乱の経過はかなり省かれているにも関わらず、コリューンの皇帝としての責任感の強さや孤独がひしひしと伝わってきた(重臣たちが逃げたあと、一人で宮廷を見る姿を見てもらい泣きしそうになった)
十七歳で皇帝という地位についたが、実権は義母に握られていて宮廷の内部は腐っていて味方はほとんどいない。命を狙われている上に、反乱が起こっても誰一人として一緒に立ち向かおうとしないという状況がきつすぎる。
こういう境遇を生きてきたから裏表のない銀河を信頼し、信頼したから(心を開けたから)惹かれたんだろう、とわかる。
だがいかんせん二人の交流パートが少なすぎて最後の馬小屋のシーンの盛り上がりが唐突に感じる。
銀河の成長譚に焦点を当てるなら、最後のシーンは原作に準拠したほうが良かったんじゃないか、もしくは出会いのころから恋愛要素を強めにしたほうが良かったんじゃないかな(そのバージョンが観たかった)
アニメのコリューンが記憶の二十倍くらい良かったので、つい「もう少しそこを観たかった」という気持ちが先行してしまうが、全体を通しては凄く面白かった。
この話の凄さは、物語の中に無駄な要素がひとつもないところだ。
「雲のように風のように」は原作の性的な要素を抜いているが、だからこそ性的なメタファーが強い話になっている。
後宮(子宮)につながる暗いタルトの中で銀河がコリューンと初めて会うのは受精の暗喩であり、コリューンは後宮の中に隠れている。
反乱軍がタルトを通じて攻めてくるのは兵士を精子に見立てた強〇の意味合いがあり、それに後宮の女性たちが決死の抵抗するという図式になっている。
「男と女の違いは何なのか」という問いにカクートは自分の答えであるとして「子どもを産めること」と答えつつ、「自身で答えを見つけろ」と銀河に言う。
「男と女の違いは何か」という問いが、コリューンが女性のような外見をしていること、女性に見えるコリューンと自分は何が違うのか、その問いに対する銀河自身の答えが最後にコリューンの子供を身ごもるという展開によって示されるというように、大人になってから見ると物語の要素がすべて意味をもって構築されている。
そういう物語の要素の意味を長々と説明されなくとも、最後までストーリーを見ると
「だからコリューンと銀河はタルトで初めて会うのか」
「だからコリューンは女性みたいな外見をしているのか」
「後宮の女性たちが自分たちで戦うことを決意するのは何故なのか」
「渾沌と幻影達の反乱に対するモチベーションや関係の変化」
など、ひとつひとつの展開が納得できるようになっている。
ただ、こういったアニメのストーリーの構成の無駄のない緻密さは、原作「後宮小説」を踏まえて見ないとわかりづらい。
アニメ「雲のように風のように」と原作「後宮小説」の関係は、ストーリーと設定資料の関係に近い。「後宮小説」で構築されている世界観や背景、架空史を前提として「雲のように風のように」を見ると凄くいいのだが、アニメだけを見ると省かれている部分が多いので展開が駆け足に感じたり、個々の箇所が判りづらく感じる。
アニメはあくまで「銀河の話」だし全年齢向けに作られているので仕方がないが、「原作を土台にしつつ、銀河の成長譚として構成しなおされている上手さ」がアニメ単体だとわかりづらく感じるところが残念だ。
素乾国がどんな状態で、コリューンがどんな状況に置かれていたか。
後宮における性愛も含めた教育と、江葉や世沙明といった自分とはまったく違った境遇で生きてきた相手との友情、皇后と菊凶の関係と銀河とコリューンの関係の対比、渾沌や幻影達のような地方の任侠がどんな存在かという設定があって、銀河が銀正妃になる成長の過程がさらに実感できる。
原作を読むことでアニメ自体の良さが何倍も実感できるようになっている。原作と強く結びつきながら、原作とは違う良さを持った作品だなと思った。
コミカライズで読みたい。