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大きな「常」
現在開催中の私の個展でお世話になっているあまねや工藝店のオーナーは、自分が好きなものを世界中から集め、店舗で販売していますが、その「好き」がはみ出し、ついにそのモノたちの写真とそれについてのエピソードをエッセイとしてまとめ本にしてしまいました。その本が柳沢画廊にあったので、同じく個展でお世話になった柳沢さんに見せて頂きました。
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どれも素晴らしいモノとそのエピソードでした。
特にその中で今の自分の目を引くもがありました。それは四文字の漢字・・・と書きつつ、実は、それははじめ文字ではなく絵に見えました。
一言で言うならば、単に素朴な書体の漢字の並びなのですが、不思議と文字を読む際に使う感覚とは別の場所が動く感じがありました。
白と黒の絶妙なバランス。銅版画にも通じるような気がします。
それは泰山金剛経と書かれていました。
すぐにあまねや工藝店に問い合わせましたが、案の定完売。そこでオンラインで探しました。四文字の並びは結局見つけられませんでしたが、一文字ならば、京都の古書店から購入出来ることが分かり、恐る恐る自分の感覚を信じポチりました。
それは中国の泰山の岩肌に彫られたお経の拓本だということが分かりました。
自分が感動した絵のような文字の美しさ、という感動の初期衝動と比べれば、それがどこの国とか何のお経であるかということは、私にとってはさほど意味はありません。ただ、山を版とした版画であったというダイナミックな側面は痛快ではありました。
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あまりにボロボロで薄い紙に擦りとられているので裏打ちをしてみます。
学生の頃、美術館でそのやり方を見学した遠い記憶を辿りながらこんな具合だったかな・・・?と手探りで。
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大学院を修了し、作家業15周年の節目の、記念になる気がしてきました。
常:いつも通り、普段のまま。特別ではない。とこしえに続くという意もある。
なんとなく、図らずも今の自分に重要な事を教えてくれるような気がしてきました。
後日譚。
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この話をあまねやのオーナーに伝えておいたところ、福岡に着いてすぐ写真の拓本を見せてくれました。大きい!これもまた良い字です。