10/11/2020:『Swing Low Street Chariot』
モノポリーをする上で彼はいつも鉄道会社を買い占め、
「よし、これで俺は鉄道王だ。なんでも来い。」
と、言いながらウィスキーを飲んでいた。
テンガロンハットを自分の駒として選ぶところから、その鉄道王への道は始まっているらしく、ただそれをひたすら追い求めてサイコロを振り続けた。
一方、僕はいつもスタート地点付近の安い土地を、買うことにしていた。
その度に、
「またそんなところ買って。しみったれてるな。」
と、方々から言われる。でも、僕は全く気にすることもなくその紫色の土地を買い、そして緑の家を立て、赤いホテルを作った。
「だって、旅立ちの町じゃないか。ここからみんな出発するんだぞ。」
情緒。
僕は利便性や経済性よりも明らかにそういった”見えないもの”に惹かれる傾向があった。
「宿の主になって、旅人たちを見送るんだ。その度に、哀愁や寂寞を感じる。残された僕は長いこと勤務してくれてるメイドさんと一緒に掃除と洗濯をすませると、静かになった中庭でお茶を飲む。そして、気がつけばまた新しい旅人がやってくるってわけ。」
こうして語る僕の横で、
「俺はその町に駅を作るぞ。小さい、鈍行しか停まらないやつをな。それでいいだろ?」
と、鉄道王は言った。
「ありがとう。悪くないね。」
と、僕は言った。
そして、鉄道王がサイコロを振ると、ちょうど僕の町に止まった。
こじんまりとした赤いホテルが建っている。
「ご主人、負けてくれよ。駅通すからさ。」
「それは難しいですね。うちも安宿でいっぱいいっぱいなんです。」
情緒。
僕が大切にしているのは、いつだって弱い立場にいるものへの共感だ。
少し渋ったような顔をして、
「ま、いいさ、俺は鉄道王だからな。」
と、言いながら僕にお札カードを手渡してきた。
そして、僕のターンがやってきた。
・・・
今日も等しく夜が来ました。
Charlie Hadenで『Swing Low Street Chariot』。